時代遅れな日本の中絶方法 心を無にしていた医師の私

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聞き手・田中聡子
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 中絶というと、子宮に器具を入れてかき出す「搔爬(そうは)」を思い浮かべる人が多いだろうか。海外では1980年代から経口薬を使う方法が広がったが、日本はいまだに搔爬が多用されている。産婦人科医の遠見才希子さんは、この搔爬にこそ、日本社会の女性への意識が映し出されていると考えているという。それは、何ですか――。

苦痛をもたらす搔爬(そうは)法、中絶への罪悪視も追い打ち 遠見才希子さん(産婦人科医)

 ――遠見さんは、いまだに搔爬(そうは)が多用される日本の人工妊娠中絶に疑問を唱えてきました。何が問題なのでしょうか。

 「搔爬法は、静脈麻酔をして金属製の器具を子宮口から挿入し、子宮内の妊娠の組織をかき出す手術です。日本では妊娠22週未満の中絶が認められ、年間約15万件が報告されていますが、その大半を占める12週未満の初期中絶では搔爬法の単独、または搔爬法と電動式吸引法との併用が約8割を占めるという調査があります。2015年に手動式吸引法が認可され、先日は、厚生労働省が手動または電動による吸引法を推奨する、と産婦人科団体に通達しましたが、いずれにせよ手術です。初期中絶は、手術しか選択肢がないのが現状です」

 「一方で、世界的には1980年代に飲み薬による中絶が始まり、いまでは約70カ国が承認しています。WHO(世界保健機関)も経口中絶薬を妥当な価格で広く使用されるべき『必須医薬品』に指定し、安全な中絶方法として推奨しています。搔爬法については子宮内膜を傷つけるリスクがあることから『時代遅れ』だとも指摘しています。日本では初期流産をした場合の処置にも搔爬法が使われているので、搔爬を体験した女性は、実はとても多い。ようやく、経口中絶薬が承認申請される見通しですが、ここまで遅れた背景を考え続けています」

 ――中絶の痛みやつらさは、語りにくい問題として、議論になりにくい気がします。

 「意図しない妊娠や、母体の健康上の問題から妊娠を継続できない場合など、人工妊娠中絶にはさまざまな理由があります。一方で、社会的な罪悪視によって、中絶を経験した当事者たちの苦痛が強められていることも、問題だと思っていました」

自分が処置を受けて実感 薬という選択肢を増やすことが必要だと

 ――産婦人科の医師になってから、ずっと日本の中絶方法に違和感を持ってきたのですか。

中絶方法に疑問を抱くようになったのは「5年前、自分が掻爬の処置を受けた時でした」と語る遠見さん。日本における「懲罰」の意識についても考えを巡らせていきます。

 「医師になったら女性に寄り…

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