ヒノデホールディングス(福岡市)は、工作機械や半導体製造装置向けに熱膨張の少ない鋳鉄「ヒノGDインバー」(GD:Graphite Distributed)シリーズを開発した。微量元素の添加量の制御により、熱膨張を減らしながら被削性を高めており、従来の低熱膨張材料に比べて複雑形状や大型品に加工しやすい。

(出所:ヒノデホールディングス)
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 20~50℃における線膨張係数が2.5~3.5ppm/℃の球状黒鉛鋳鉄(FCD)「ED3」と同1.0~2.0ppm/℃のFCD「同2」、同2.5~3.5ppm/℃の片状黒鉛鋳鉄(FC)「EG3」の3種類をそろえる。主要添加元素である炭素(C)とケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、アンチモン(Sb)の配合比を工夫して熱膨張を低減。併せて、黒鉛を微細に分散させて被削性を高めながら、異常黒鉛組織であるチャンキー黒鉛の生成を抑えて機械的特性を安定させている。

 このうちED3では、薄肉・複雑形状での鋳造性と被削性を向上させるために、Cの含有量を増やして微細に分散させた。一方で、厚肉鋳物での内部欠陥を防ぐために微量元素で球状化を制御した。引っ張り強度は400M~500MPa、延性は18%、ブリネル硬さは130~170HB、ヤング率は120G~130GPa。半導体製造装置の固定ホルダーや精密測定機器など、強度と剛性が求められる部材に適する。

 ED2は、同3をベースにCとSiの含有量を減らすとともに、溶湯処理と熱処理によってインバー〔鉄(Fe)・Ni合金〕並みに熱膨張を抑えた。引っ張り強度は400M~500MPaで、延性は20%、ブリネル硬さは150~170HB、ヤング率は130G~140GPa。半導体製造装置の固定ホルダーや工作機械の主軸、その他のFA機器といった用途を想定している。

 FCであるEG3は、減衰性と被削性に優れるのが特徴。引っ張り強度は100M~200MPa、ブリネル硬さは90~130HB、ヤング率については80G~90GPaとする。工作機械のテーブルや精密測定機器のように制振性が求められる部材に向く。

 同社によると、半導体需要の増加を背景に、製品の高精度化を図れる低熱膨張材料のニーズが高まっており、今後も5Gの普及やIoT(Internet of Things)化などによって、需要が拡大する見込み。低熱膨張材料としては従来、線膨張係数がFe比で1/10のインバーや同1/100のスーパーインバー(Fe・Ni・コバルト合金)などが見いだされている。しかし、これらは素材の形状が単純で難削性のため、複雑形状の部品や大型の部品に加工しにくいという欠点があった。

 それに対して新シリーズは、熱膨張を抑えながら被削性も確保。さらに同社は、精密鋳造(ロストワックス)を活用したニアネットシェイプ化(完成品に近い状態に仕上げる)への対応に向けて、製造プロセスの確立に取り組んでいる。自動造形ラインで製造でき、低コストでの多品種少量生産が可能だとしている。