大阪府が庁内のIT関連業務を民営化させるため、民間企業と共同出資する新たな事業会社の立ち上げを検討していることが2日、関係者への取材で分かった。〝縦割り行政〟を新会社が打破し、システムの調達から開発、運用までを統合。コスト削減を図りつつ、好待遇での専門人材確保につなげ、民間に比べて遅れているデジタル改革を加速させるのが狙いだ。 【都道府県アンケート結果】デジタル改革を進める上での課題は? 新型コロナウイルス下で新しい生活様式(ニューノーマル)に移行する中、行政のデジタル化は急務だ。府は政府にならい「大阪版デジタル庁」創設の方針を掲げているが、庁内組織のデジタル庁では予算や人事の壁に阻まれ、改革を実行できないとの見方がある。 府のデジタル改革を担うスマートシティ戦略部は、令和4年度予算案に約3千万円の関連費用を計上するよう要求。コスト効果の試算や民営化プランを同年度中に取りまとめた上で、5年度の新会社設立を視野に入れる。 関係者によると、新会社は、IT大手やベンチャーを中心に10社以上が参画する半官半民の株式会社を想定。出資企業の社員を出向などで受け入れ、デジタルスキルを蓄積、府庁内には政策立案・企画部門のみを存続させる青写真を描く。 新会社設立の最大の狙いは専門人材の確保だ。地方公務員の給与体系では高度なスキルを持つ人材に見合う報酬を支払うのは難しく、採用人数も限られる。大阪府の知事部局の職員約7500人のうち、スマートシティ戦略部(約90人)の専門職にあたる「行政情報職」は約30人だ。 府庁内では現在、各部署が個別にIT事業者と取引し、約240ものシステムを運用しているが、各サーバーの稼働率はわずか10%前後。調達や管理など一連の業務を新会社が一元的に担うことでシステムを標準化し、無駄をなくす狙いがある。 新会社は府内市町村のシステム管理にも関与し、自治体間のデジタル格差の是正に貢献する考え。スマートシティー事業を府の成長戦略として推進するための基盤整備も担うことを検討している。 激化するIT人材獲得競争 高額報酬がネックに 府が庁内のIT関連業務の民営化に向け、設立を検討する新事業会社。背景には、民間企業も含めた専門人材をめぐる激しい獲得競争がある。令和12年にIT人材が最大79万人不足するとの経済産業省の試算もあるが、自治体の現行の給与体系や定期的な人事異動が〝足かせ〟になっている。 「民間でIT人材は奪い合いの状況だ」。就職情報会社マイナビ(東京)の担当者は、こう語る。新型コロナウイルス禍もあり、業務効率化や在宅勤務を推進するため、各企業はこぞってIT人材を積極採用。高額の報酬を提示する企業も少なくない。 マイナビが運営する総合転職情報サイト「マイナビ転職」のモデル年収平均ランキング(令和3年)のトップは、システムエンジニアを統括し、企業内の情報システムを分析する「システムアナリスト」で1635万円。一方、大阪府のモデル年収額(2年4月時点)をみると、行政職は35歳の主事級で511万円、45歳主査級では699万円だ。 府職員の中でIT業務を専門的に担う「行政情報職」は約90人いるが、担当者は「人数が少なすぎる。この給与体系では有能な人材は集まらない」と嘆く。 報酬の問題は、大阪府に限った話ではない。総務省が2年10月に全47都道府県を対象に行った調査では、デジタル専門人材の確保をめぐる課題(複数回答)で「適切な報酬が支払えない」と回答した都道府県は66・0%に上った。総務省の担当者は「民間企業と専門人材の奪い合いになれば、給与の低い自治体は不利だ」と指摘する。 公務員試験への応募のハードルを下げるため、兵庫県は3年4月から期限付きのIT専門職員の採用では筆記試験を実施せず、面接と書類選考のみとした。県の担当者は「一般職員は数年単位の異動で部署が変わるため、専門性を培う上で限界がある。最新の知見を備え、デジタル化を進められる人材は不足している」と話す。 自治体のIT事情に詳しい日経BP総合研究所(東京)の大和田尚孝・上席研究員は「行政のデジタル化が進まなければ、民間企業だけでなく住民も非効率な対応を強いられ、ひいては都市の競争力低下を招きかねない」と指摘。「デジタル改革には部署をまたぐ課題も多く、首長が旗振り役となるべきだ」と話した。(吉国在)
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