2022年7月20日水曜日

なぜDXとサステナビリティを「分けて考えてはならない」のか――SAP、Oracle、富士通の見解から探る。

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2022年07月20日 14:02  ITmediaエンタープライズ

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写真右からSAPのポール・マリオット氏(Asia Pacific Japanプレジデント)、SAPジャパンの鈴木洋史氏(社長)
右からSAPのポール・マリオット氏(Asia Pacific Japanプレジデント)、SAPジャパンの鈴木洋史氏(社長)

 企業の重要な経営課題として、サステナビリティ(持続可能性)への対応が声高に叫ばれるようになり、サステナビリティ経営への取り組みを発表する企業が増加している。こうした動きに対して筆者が気掛かりなのは、企業の重要な経営課題であるDX(デジタルトランスフォーメーション)とサステナビリティを別個に考える風潮があることだ。果たして、企業経営におけるサステナビリティとDXの関係はどのような形が望ましいのか。



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 SAPやOracle、富士通が最近開いたイベントや記者説明会で明らかにした考え方や取り組みから探る。



●SAPが説く「インテリジェント・サステナビリティ・エンタープライズ」の役割



 まずは、SAPが2022年5月から世界9都市で開催中のワールドツアーの一環として2022年7月12日に都内ホテルで開催した年次イベント「SAP Sapphire Tokyo」の基調講演から、SAPのポール・マリオット氏(Asia Pacific Japanプレジデント)、ルカ・ムチッチ氏(CFO=最高財務責任者)、SAPジャパンの鈴木洋史氏(社長)の発言を紹介しよう。



 「企業は今後に備えて3つの取り組みに注力する必要がある。一つ目はDX、デジタルテクノロジーを経営の中核に据えることだ。二つ目はビジネスネットワーク、つまりサプライチェーンの透明性を確保して強化し、ビジネスのレジリエンスを高めることだ。三つ目はサステナビリティ、つまり企業経営にサステナビリティを取り込むことだ」(マリオット氏)



 「日本がさまざまな社会課題に直面する今、それらの解決に向けて全ての企業がサステナビリティに取り組む必要がある。企業は収益向上を図るだけでなく、環境や社会、そして従業員に対してもさまざまな責任を果たさなければならない」(鈴木氏)



 「21世紀の私たちの社会にとってサステナビリティこそが最大の課題だ。それは同時に企業にとって大きなビジネスチャンスにもなり得る」(ムチッチ氏)



 マリオット氏が挙げた「DX」「ビジネスネットワーク」「サステナビリティ」の3つは並行して進めるべき取り組みだ。鈴木氏がサステナビリティの取り組みとして、従業員エンゲージメントを挙げたのが注目される。ムチッチ氏の「サステナビリティはビジネスチャンス」との発言は、CFOである同氏が発信したところにSAPの経営姿勢が感じ取れた。



 では、企業におけるサステナビリティとDXの取り組みを、SAPはどのように支援するのか。支援策のキーワードとなるのが「インテリジェント・サステナビリティ・エンタープライズ」だ。



 インテリジェント・サステナビリティ・エンタープライズとは何か。企業の基幹業務システムの変遷を整理すると、次の通りになる。



・昔:会計システムのみ



・現在:ERP(Enterprise Resource Planning)を導入



・将来:ERPがインテリジェント・サステナビリティ・エンタープライズとして顧客やサプライチェーンの管理、サステナビリティを取り込む



 インテリジェント・サステナビリティ・エンタープライズについて説明したSAPジャパンの稲垣利明氏(バイスプレジデント RISE Solution事業統括)は、「これからの基幹業務システムは、求められる管理の粒度と範囲が変化していく。なぜかと言うと、顧客やサプライチェーンの管理、サステナビリティも取り込んでデータをリアルタイムにやりとりできなければ、企業を取り巻く環境を見据えたDXにならないからだ」と指摘した。



 基幹業務システムの刷新が企業のDXの重要な要件であることは広く認識されているが、その内容はモダナイズやクラウドへの移行にとどまることが多い。その意味では、SAPの目指す方向はサステナビリティとの関係も含めて企業のDXのあるべき姿を示しているといえそうだ。



●富士通の調査結果で明らかになった「サステナビリティとDXの関係」



 次に、日本オラクルが2022年4月22日にオンライン開催した、グローバルを対象としたサステナビリティ経営に関する調査結果とOracleの取り組みについての記者説明会で、日本オラクルの善浪広行氏(常務執行役員クラウド・アプリケーション事業統括)が示した図を紹介する(拡大画像を参照のこと)。



 サステナビリティ経営に必要なソフトウェアと、それを活用した業務を記した図の左側には「サステナビリティの実現には、戦略設計~実行~データ収集~レポーティングの全ての経営プロセスに対する取り組みが必要」と記されている。すなわちサステナビリティ経営はこれだけの要素を連携し、活用する必要があるということだ。右側の図に記された「Analytics」「AI(人工知能)&IoT(モノのインターネット)」「CX」(Customer Experience)は機能要素だ。アプリケーションの観点から見れば、ERPをはじめ「SCM」(Supply Chain Management)、「HCM」(Human Capital Management)、「EPM」(Enterprise Performance Management)の4つが主な対象となる。



 こうした見方について、善浪氏は「エンタープライズアプリケーションの観点からすると、サステナビリティ経営は新たな市場の動きにも見えるが、他のアプリケーションとの連携が不可欠なので、今後はDXと並行して進む形になるだろう。さらに、これからグローバルのサプライチェーンにおける可視化のニーズが高まる中で、サステナビリティ経営が自社に閉じた話ではなくなることも心得る必要がある」と説明した。



 こう聞くと、表現方法は異なるが、根本的な考え方は先述したSAPと同じ方向ともいえる。「基幹業務をはじめとしたエンタープライズアプリケーションをグローバルで展開し、実績を上げるベンダー」となるとSAPとOracleの名前が挙がるだけに、サステナビリティ経営を含め、大手企業が取り組むDX支援もこの両社のソリューションが軸となりそうだ。



 富士通が2022年6月28日にオンラインで開催した「グローバル・サステナビリティ・トランスフォーメーション調査レポート 2022」についての記者説明会では、調査結果から「サステナビリティトランスフォーメーション(SX)の成功と、DXの成熟度は密接に関係している」ことが分かった。



 同社 技術戦略本部コミュニケーション戦略統括部の西川 博氏(シニアディレクター)と田中律秋氏(シニアマネージャー)によると、「回答者の67%は『DXはSXの実践と成果の創出に寄与する』と答え、60%は『サステナビリティ向上のためにデータとデジタルテクノロジーへの投資拡大を計画』していることが分かった」という。



 こうした調査結果を踏まえ、西川氏は「お客さまのDXとSXを合わせた取り組みに向けた支援を積極的に行い、その事例をどんどん紹介していきたい」と述べた。



 先ほど、この分野のソリューションはSAPとOracleの製品やサービスが軸になると述べたが、富士通のような大手ITサービスベンダーは両社の製品をはじめ、DXとSXを推進する幅広いソリューションを手掛けているので、ぜひともそれぞれの企業の取り組みを強力に支援してもらいたい。



 最後に、今回のテーマである「企業経営におけるサステナビリティとDXの関係」についてはSAPとOracleの話が指針になるだろう。とりわけ、現段階で筆者が強調したいのは「DXとサステナビリティを分けて考えないこと」だ。SAPジャパンの稲垣氏が話したように「いずれも目的を達成するためにはデータの相互連携が不可欠」だからだ。DXの視座となるのは、どんな時でも「データの動き」である。

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