2023年9月14日木曜日

子供たちを次々と死に追いやった「咳止めシロップ」の恐怖、世界の薬局目指すインドの甘さを露呈。


9/14(木) 16:45 Yahoo!ニュース 25 インドはITなど様々な分野で存在感を世界に示しているが、医薬品の分野でも急成長を遂げており「世界の薬局」を目指している。ところが同国の医薬品メーカーが製造した咳止めシロップを服用した乳幼児が死亡する事例が相次いでいる。世界保健機関(WHO)は、2022―23年の間に全世界で少なくとも141人の子供たちが、インド製咳止めシロップの犠牲になったと指摘している。 入院中のアニルー君(2)に、両親が食事を与えようとしている――この動画を撮影してから約1週間後、アニルー君は腎臓の損傷により死亡した。両親によると、アニルー君は有毒な咳止めシロップを服用していたという。インド警察によると、ジャンムー・カシミール州ではアニルー君ら少なくとも12人の乳幼児が有毒な咳止めシロップを服用。それらはすべて同じインドの製薬会社「デジタル・ビジョン・ファーマ」が製造したものだった。 ロイターは死亡した6人の子供の遺族から話を聞いた。昨年12月に提出された警察の告発状によれば、他の4人には重度の障害が残った。デジタル・ビジョン社は、自社の製品に問題はなかったとしている。 親たちは、子供たちの死によって「世界の薬局」を目指すインドの製造基準の甘さと説明責任の欠如が浮き彫りになったと指摘する。 WHOは、ジャンムーの子供たちはインド製咳止め薬による一連の中毒死の、最初の犠牲者だった可能性があると指摘する。同様の中毒死により、2022―23年の間に全世界で少なくとも141人の子供たちが犠牲になったという。 ロイターは今回、法廷文書の調査や製薬会社幹部そして規制当局者へのインタビューを通してこの問題に迫った。すると不十分な製造方法と、甘い規制が悲劇を繰り返させてしまった実態が浮き彫りとなった。 ジャファル・ディンさんの生後2カ月の息子イルファン君は、2019年12月に体調を崩した。ディンさんはヒマラヤ山脈のジャンムー近郊にある自宅から、約10キロ離れた薬局まで歩いて行った。そこでディンさんはデジタル・ビジョン社製の「コールドベストPC」を購入した。服用して数時間後、イルファン君は嘔吐し始めた。尿が出なくなり、病院に入院した。1週間後、イルファン君は亡くなった。 ディンさんは他の親たちと同様、「厳正な処分」を求めている。 ジャファル・ディンさん 「会社に対して――この薬を製造した会社だ。彼らこそが本当の殺人者なのだ」 デジタル・ビジョン社は、この薬の製造過程で有害物質であるジエチレングリコール(DEG)は含まれていなかったと主張。同社は、何者かが何らかの毒物を混入させたか、同社の製品が悪用された可能性を指摘している。 当局が同社の薬を調べたところ、濃度34%以上のDEGが含まれていた。警察は昨年12月に同社を刑事告発した際に、告発状にこの点を記載している。DEGは通常、車のブレーキ液に使用される物質で、WHOもインドの法律も安全基準は0.1%以下と定めている。警察の告発状によると、腎臓や他の臓器が機能不全に陥ったことが子供たちの死因だという。 小学校の教員、ヴィーナ・クマリさんの2歳だった息子のアニルド君は、いわゆる「やんちゃ坊主」だったという。「毎日が寂しい」とクマリさんは話す。アニルド君も「コールドベスト」を服用し、その後急速に悪化した。 ジャンムー・カシミール州の地方裁判所は、デジタル・ビジョンの創設者であるパルショッタム・ゴヤル被告と2人の息子に対する刑事事件を審理している。被告らは不正行為を否定している。 デジタル・ビジョン社は以前別の裁判所から特定の咳止めシロップの製造を禁じられたが、同社は他の薬品の製造を続けている。ゴヤル被告はロイターに対し、生産能力を3倍に増やしたと語った。 クマリさんと家族は、子供たちの死亡を巡りデジタル・ビジョン社の責任が追及されることを望んでいる。 ヴィーナ・クマリさん 「私たちが望む正義は、デジタル・ビジョン社に対して厳正な処分が下ることだ。罰則と刑事罰が下されることで、人々の記憶にとどめ、ほかの子供たちが同じ運命をたどることのないようにすべきだ」 この男性は、死亡した子供たちの遺族が1人当たり3500ドル(約51万円)の補償金を受け取れるよう支援した。ただし、補償を支払ったのは製薬会社ではなく地元州政府だ。ジャンムー市で家庭教師をしているスケシュ・ハジュリアさんは、子供たちの死に対して何ら説明がないことや、被害者の多くが貧困層であることをニュースで知った。ハジュリアさんの説得に応じた裁判所の判事は、死亡の原因がコールドベストにあるとする薬物検査官の報告書を提出するよう警察に命じたという。 州当局はコメントを拒否した。 別の製薬会社マリオン・バイオテックの関係者はロイターの取材に対し、DEGの検査は行っていないと述べた。「どこの会社もそんなことはやっていない」と当時の業務責任者は語った。 ウズベキスタン保健省によると、同社のシロップが子供65人の死亡に関連しているという。同社のオーナーらは不正行為を否定している。 WHOによると、アフリカのガンビアとカメルーンで起きた乳幼児の死亡にも、インド製の薬が関係しているという。インド、ガンビア、ウズベキスタンで薬を販売していたインドの製薬会社3社はいずれも、製薬向けの原料を購入していたと主張している。だがこれら3つのケースにおいて、化学薬品の供給元がこうした製薬会社の主張を否定あるいは疑問視していることをロイターは突き止めた。いずれの製薬会社も、インドの法律で義務付けられている、DEGを含む有毒物質の検査を行ったことを証明できなかった。これは、ロイターがインドの裁判記録や規制当局への提出書類、製薬会社幹部への聞き取りを調べた結果である。 どのメーカーもインド国内で処罰を受けていない。 インドのモディ首相は今年6月、すべての輸出用咳止めシロップは政府の機関で検査を受けなければならないとする新たな規制を導入した。だが国内で販売される製品に対する規制強化は行っていない。モディ首相の事務所、インド保健省、連邦政府の医薬品規制当局にコメントを求めたが、いずれも回答はなかった。

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