2024年2月2日金曜日

話題の衛星インターネット「Starlink」の速度や経路を技術者視点で調べてみた。非常災害に備えて一家に一台いかがで御座いましょうか?

https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2302/17/news007_2.html#13 

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2023年02月17日 05時00分 公開
[谷口崇IIJ]
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IIJへの接続性も調査しました

 次に、IIJに対してtracerouteを実行してみます。「www.iij.ad.jp」までのtracerouteです。

 最初に日本からですが、うーん、あまりよくありません。IIJの問題というわけではありませんが、今後の対応を検討していくことになりそうです。

$ traceroute -A -I www.iij.ad.jp
traceroute to www.iij.ad.jp (202.232.2.180), 30 hops max, 60 byte packets
1 StarlinkRouter.lan (192.168.1.1) [*] 0.624 ms 0.833 ms 1.104 ms
2 100.64.0.1 (100.64.0.1) [*] 54.028 ms 54.020 ms 54.104 ms
3 172.16.249.6 (172.16.249.6) [*] 53.998 ms 53.989 ms 54.065 ms
4 149.19.109.16 (149.19.109.16) [AS14593] 53.961 ms 53.952 ms 54.004 ms
5 * * *
6 be3093.rcr51.b060372-1.tyo01.atlas.cogentco.com (154.24.11.137) [*] 54.002 ms 31.541 ms 31.376 ms
7 be3074.ccr71.tyo01.atlas.cogentco.com (154.54.2.177) [AS174] 55.393 ms 55.360 ms 55.387 ms
8 be3696.ccr41.sjc03.atlas.cogentco.com (154.54.86.137) [AS174] 157.893 ms 157.863 ms 157.954 ms
9 be3142.ccr21.sjc01.atlas.cogentco.com (154.54.1.193) [AS174] 157.779 ms 157.757 ms 157.821 ms
10 be3176.ccr41.lax01.atlas.cogentco.com (154.54.31.189) [AS174] 157.973 ms 158.006 ms 158.102 ms
11 be3243.ccr41.lax05.atlas.cogentco.com (154.54.27.118) [AS174] 157.579 ms 157.570 ms 157.610 ms
12 38.104.85.34 (38.104.85.34) [AS174] 134.310 ms 135.534 ms 143.392 ms
13 osk004bb00.IIJ.Net (58.138.88.113) [AS2497] 151.414 ms 143.319 ms 147.114 ms
14 osk008agr02.iij.net (210.130.143.174) [AS2497] 151.173 ms 151.147 ms 155.079 ms
15 www.iij.ad.jp (202.232.2.180) [AS2497] 155.048 ms 155.075 ms 155.188 ms


日本でStarlinkからIIJへの接続を確認してみた

 USは問題なさそうです。

$ traceroute -I -A www.iij.ad.jp
traceroute to www.iij.ad.jp (202.232.2.180), 30 hops max, 60 byte packets
1 192.168.1.1 (192.168.1.1) [*] 7.040 ms 7.100 ms 7.165 ms
2 100.64.0.1 (100.64.0.1) [*] 57.382 ms 75.170 ms 75.802 ms
3 172.16.248.36 (172.16.248.36) [*] 75.350 ms 75.487 ms 76.019 ms
4 149.19.108.27 (149.19.108.27) [AS14593] 75.025 ms 75.371 ms 76.057 ms
5 76.74.57.134 (76.74.57.134) [AS6517] 75.868 ms 75.869 ms 75.868 ms
6 ae28.cr2-sjc1.ip4.gtt.net (89.149.136.149) [AS3257] 77.105 ms 56.902 ms 55.527 ms
7 as2497.cr2-sjc1.ip4.gtt.net (173.241.128.62) [*] 65.807 ms 66.413 ms 66.549 ms
8 osk004bb00.IIJ.Net (58.138.88.185) [AS2497] 179.289 ms 179.889 ms 180.189 ms
9 osk008agr02.iij.net (210.130.143.205) [AS2497] 180.181 ms 180.178 ms 180.582 ms
10 www.iij.ad.jp (202.232.2.180) [AS2497] 180.574 ms 180.570 ms 180.566 ms


米国でStarlinkからIIJへの接続を確認してみた

 DEはUS経由になっていますが、これも問題はありません。ユーラシア大陸をまわるか、アメリカ大陸をまわるかという話です。

$ traceroute -I -A www.iij.ad.jp
traceroute to www.iij.ad.jp (202.232.2.180), 30 hops max, 60 byte packets
1 StarlinkRouter.lan (192.168.1.1) [*] 0.787 ms 0.892 ms 1.095 ms
2 100.64.0.1 (100.64.0.1) [*] 49.182 ms 53.034 ms 52.057 ms
3 172.16.248.40 (172.16.248.40) [*] 51.907 ms 52.050 ms 52.234 ms
4 149.19.108.137 (149.19.108.137) [AS14593] 51.753 ms 51.955 ms 52.099 ms
5 ffm-b5-link.ip.twelve99.net (62.115.37.20) [AS1299] 51.982 ms 52.180 ms 52.073 ms
6 ffm-bb1-link.ip.twelve99.net (62.115.124.116) [AS1299] 51.069 ms 46.994 ms 58.790 ms
7 prs-bb1-link.ip.twelve99.net (62.115.123.13) [AS1299] 66.711 ms 55.301 ms *
8 ldn-bb1-link.ip.twelve99.net (62.115.135.24) [AS1299] 71.006 ms 71.125 ms 71.274 ms
9 ldn-b1-link.ip.twelve99.net (62.115.121.27) [AS1299] 70.824 ms 70.952 ms 71.095 ms
10 202.232.1.61 (202.232.1.61) [AS2497] 70.648 ms 70.766 ms 70.902 ms
11 lax002bb12.IIJ.Net (58.138.83.186) [AS2497] 202.563 ms 202.361 ms 198.955 ms
12 osk004bb00.IIJ.Net (58.138.88.113) [AS2497] 314.642 ms 314.728 ms 307.116 ms
13 osk008agr02.IIJ.Net (210.130.142.26) [AS2497] 312.090 ms 312.277 ms 311.955 ms
14 www.iij.ad.jp (202.232.2.180) [AS2497] 310.908 ms 310.843 ms 311.026 ms


ドイツでStarlinkからIIJへの接続を確認してみた

統計情報の取得

 通信衛星を使ったインターネット接続では、通信に使っている電波が雨などの影響で切れるといった話があります。Starlinkでは衛星とのリンクが切れた時間などの情報も収集しています。収集した情報は、Starlinkのスマートフォンアプリ経由で取得できるようになっています。またDishのIPアドレス「192.168.100.1」にブラウザを使ってアクセスすることでも同様の画面が確認できます。

Webブラウザでhttp://192.168.100.1/にアクセスした画面Webブラウザでhttp://192.168.100.1/にアクセスした画面

 これを見ていると、0.1秒~数秒の短い停止はわりとよくあります。理由のところが3種類に分類されています。

  1. NO SIGNAL RECEIVED(電波が来ない)
  2. NETWORK ISSUE(衛星の切り替え)
  3. POSSIBLY OBSTRUCTED(障害物検出)

 この瞬断が致命的かといえば、そんなことはありません、十分、運用で吸収可能です。

スマートフォンのアプリでの管理画面スマートフォンのアプリでの管理画面
左上:UPTIMEは瞬断などを記録する。また、LATENCYは遅延を記録、USAGEは通信が発生したときの速度を記録している。
中央上:瞬断などが記録された場合の時刻と瞬断時間、理由などが記録される。 右上:特に長めの瞬断(2秒以上)を抜き出して確認することができる。
左下:5秒以上の通信断を確認できます
左中央:Dishから観測できる周辺の可視性を確認できる。

アプリの日本語化

 Starlinkアプリが日本語化されました(2022年12月6日に確認)。停止理由が日本語になるだけで、少し分かった気がします。停止がなければ「この調子でかんばれ」と表示されます。

日本語化されたStarlinkのスマートフォンアプリ画面日本語化されたStarlinkのスマートフォンアプリ画面
左:アプリでのトップ画面、ログインしていれば自分が管理しているStarlinkの状態をリモートから確認できる。
中央:0.1秒以上の瞬断が記録される。
右:瞬断が確認できる。この日は2秒以上の瞬断がなかった。


スターリンクの設置環境について

 設置場所は仲間が無理なく作業できる範囲でお願いしています。日本ではIIJ管理下の広い駐車場が確保できている場所を間借りしました。アメリカとドイツは社員が住んでいるアパートのベランダに設置しました。

 可視性レポートで確認すると、日本はベストに近い環境ではないかと思います。以下、淡い水色部分が「Clear View」すなわち(通信の邪魔になる)障害物がない範囲を、淡い赤色部分が「Obstructions」すなわち障害物が検出された範囲をそれぞれ表しています。

Starlinkのスマートフォンアプリによる可視性レポートの結果(日本)Starlinkのスマートフォンアプリによる可視性レポートの結果(日本)

 ドイツは日本と比較するとギザギザが増えていますが、障害物としては認識していないようです。建物の屋根や木がギザギザになって見えているようで、何か魚眼レンズで空を見ているような雰囲気です。

Starlinkのスマートフォンアプリによる可視性レポートの結果(ドイツ)Starlinkのスマートフォンアプリによる可視性レポートの結果(ドイツ)

 アメリカは、少しでも視界を確保するためにエアコンの室外機の上に設置していますが、一部が障害物でふさがれてしまっています。アパートの隣に建物があるそうです。

Starlinkのスマートフォンアプリによる可視性レポートの結果(米国)Starlinkのスマートフォンアプリによる可視性レポートの結果(米国)

 このような状況なので、品質的には有利な順に「日本→ドイツ→アメリカ」という感じになるのではないかと予想されます。また日本とドイツはG1のアンテナ、アメリカはG2のアンテナなので、そこでも差が出るかもしれません。

回線品質の計測方法について

 回線品質の計測ではどんなツールを使うか悩んだのですが、無駄に帯域を消費する通信速度の計測ではなく、遅延を計測できればいいだろうと考え「SmokePing」を使うことにしました。

 SmokePingはpingを使って遅延情報を蓄積して、もやもやした感じのグラフを作ってくれるツールです。このもやもやが、目立ってきたり黒くなってきたりすると、「品質が悪くなったのでは?」と直感的に感じることができます。SmokePingは他にもいろいろと使い方があるので興味がある方は検索して調べてみてください。

どこを計測したのか?

 最初はSpaceX内のネットワーク機器、地上局ゲートウェイのIPアドレス「100.64.0.1」がいいのではないかと考えました。

 しかし、実際に計測するとパケットロスが発生するなど、まともに計測できない現象が発生しました。深くは追っていないのですが、ネットワーク機器に対するICMPなどは機器の安定性を考慮してQoSで制限していることもあるので、計測対象としては適切ではないようです。

 そこで、これまで何度も活用させてもらっているGoogleのパブリックDNSサービスのIPアドレス「8.8.8.8」で計測することにしました。

何を計測していることになるのか?

 日本のStarlinkで、1時間の計測を行った結果は以下の通りです。1回の計測は20回のICMP echo(すなわちping)を「8.8.8.8」に対して実施しています。実施間隔は300秒でこれはSmokePingのデフォルト設定になります。20回のpingでパケロスが何回発生したかで色分けされ、遅延の平均とばらつきが縦軸にプロットされます。

SmokePingによる1時間の計測結果SmokePingによる1時間の計測結果

 これはGoogleのパブリックDNSサーバのping反応を調べているわけですが、Google側のサーバは一定の品質だと仮定すれば、サーバに至るまでの回線品質を間接的に計測していることになるかなと考えました。この計測では30msから40msの間で推移しており、Starlinkの仕様通りの性能が出ていることが分かります。

計測結果について

 次に年末年始(2022年12月29日~2023年1月7日の10日間)で、それぞれの地点から「8.8.8.8」に対して計測した結果が以下です。

 日本(東京)ですが、最も安定しているように見えます。遅延の最悪値も60ms程度に抑えられています。少し色にムラのあるところがありますが、プログラムを組んでSpeedtestを断続的に実施していたタイミングがあるので、その影響かもしれません。

SmokePingによる計測結果(日本)SmokePingによる計測結果(日本)

 次に米国(サンノゼ)です。可視性レポートにある通り、環境としてかなり不利なことが計測結果からも分かります。パケットロスもしており、特に2023年1月5日あたりからさらに悪くなっているように見えます。

SmokePingによる計測結果(米国)SmokePingによる計測結果(米国)

 ドイツ(デュッセルドルフ)は安定しています。しかし遅延の最悪値が東京より若干悪いようです。

SmokePingによる計測結果(ドイツ)SmokePingによる計測結果(ドイツ)

長期計測による変動の考察

 計測値としては2022年の夏あたりから計測しているものがあります。米国サンノゼでの計測で約4カ月分です。計測が止まっていた時期もあります。このデータは計測条件が同じではないので参考程度で考えてください。

 都合のよい解釈かもしれませんが、品質の悪化と改善を繰り返しているようにも見えます。最も顧客の増加が多いであろうアメリカで毎週のように衛星追加によるインフラ強化が行われることで品質を保っているのではないかと思いました。

4カ月の長期計測の結果4カ月の長期計測の結果

 衛星コンステレーションでは軌道上の衛星が増えることで、全体として使える通信帯域も大きくなっていきます。SpaceXは毎週のようにロケットを打ち上げ、55台といった単位でStarlink衛星を投入しています。この勢いに追い付ける事業者はちょっと思い浮かびません。

 2023年はスマートフォンとの直接通信をサポートし、性能も大幅に強化された新しい衛星が打ち上げられると聞いています。また地上局を介さず衛星同士をレーザーリンクでつなぐといったこともするようです。これだけのものをスマートフォンぐらいの値段の機材と、携帯キャリアよりは少し料金が高いものの変な縛りなどもない通信費で使えるのですから触ってみると面白いのではないでしょうか?

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