https://www.phileweb.com/review/column/202207/17/1740.html
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アナログならではの音の魅力と楽しさを体験し、このところすっかりレコードにはまっているクラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さん。しかし、新しいテーマに取り組むたびに次々に課題や疑問が現れて、その奥深さに戸惑うことも。そこで、それらの問題を解決してうまく鳴らすための企画、第2回目のテーマは〈ケーブル〉に着目します。
「ラインケーブル」「フォノケーブル」「アースケーブル」はどう違うの?
もう何年・何十年と「オーディオをやっている」方々にとっては、すでに当たり前すぎて説明不要なことはたくさんあるだろう。ところが私のような初心者にとっては、何かの正式な(?)名称が分からなくて、買いたくてもどう調べたらよいか分からないことがある。けっこう混乱するのが、ケーブルだ。
プレーヤーとアンプを繋いだりする“赤白のケーブル”……ひとつ機材を購入すると“オマケ”のように付いてくるあのケーブルが、どうも頼りない。取材でメーカーさんや雑誌編集部の試聴室などに伺うと、ああいう頼りない赤白ケーブルで接続されたシステムなんて見たことがない。どうやら“ちゃんとしたもの”に買い換えた方が良いのではないか。きっと音は変わるんじゃなかろうか。
ネット上にはいろいろあって、どんな名称で調べればよいのかもよく分からない。そして「測定数値に違いはないから、ケーブルなんて何でも良いのだ」説も目に入った。本当にそうなのか。そこで今回はまず、オーディオ評論家の井上千岳先生に“赤白のアレ”について詳しく教えていただいた。
RCAアンバランスとXLRバランス、ケーブルの種類と名称を整理
入門者ほどこだわるところかもしれないが、まずはケーブルの種類と名称を井上先生に伺った。機材と機材をつなぐケーブルには2種類ある。アナログケーブルと、デジタルケーブルだ。後者について今回は置いておくとして、アナログケーブルにはさらに、スピーカーケーブルとラインケーブルがある。今回私が「オマケじゃなくてちゃんとしたもの」が欲しいと思っているのが、この「ラインケーブル」だ。正式には「インターコネクトケーブル」と呼ばれる。
で、このラインケーブルにはまた2種類ある。一つは、主に業務機で使われるバランス接続用の通称「バランスケーブル」で、「XLRケーブル」とか「キャノンケーブル」などとも呼ばれる。これは端子のピンが、プラスとマイナス、そしてグラウンドとかアースと呼ばれる3つがある。
プロが使用するスタジオなどでは多くの機材が使われているため、さまざまなノイズが乗りやすい。バランス接続はノイズ除去の効果が高いために用いられるそうだ。高級オーディオ機器などにもこの端子がついていたりする。
もう一つが、一般的に使われるアンバランス接続用のケーブルだ。つまりここで私が問題にしている“赤白ケーブル”である。「RCAケーブル」とも呼ばれるし、単に「ラインケーブル」という場合、通常はこちらのケーブルを指すことが多い。
オーディオ用のケーブルでは、奏者の演奏のニュアンスまで伝わってくる
重要なのは、オマケの赤白ケーブルではなく、やはりオーディオ専用のものを使用することだという。「40年ほど前までは、ケーブルなんてただの電線だから、繋がってさえいれば音が出るから何でもいい、というのは確かに一般的な考え方でした。実際、線を変えて特性を測定したところで、可聴帯域の数値そのものに違いは出ないのです。ところが人間の耳というのはすごいもので、数値では測れないところにも、実際は大きな違いを感知できるんです」。そう語る井上先生がオススメしてくれたのが、ゾノトーンの「6NAC-Granster3000α RCA」だ。
実際に、オマケ赤白ケーブルと6NAC-Granster3000α RCAとで、ピアノ曲やオーケストラと合唱の曲を聴き比べしてみた。同じ音源なのに、驚くほど違った! オマケ赤白では全体的に音が塊でやってくるというか、平面的である。ところがオーディオ専用のラインケーブルにすると、強弱のダイナミクスや奏者が繊細にコントロールしている音色の変化も伝わった。こんなに違うものなのか! と正直驚いた。
「2種類のケーブルは、太さが全く違いますね。“オマケ赤白”は単にプラスとマイナスが1本ずつですが、オーディオ用のものはそれぞれ2本ずつ、合計4芯が中に入っています。6芯や8芯のものもありますよ。当然伝えられる音の情報量が変わります。素材の銅も、その純度が高ければ、やはり伝導性が上がって音は良くなります。また、プラス・マイナスの線はそれぞれショートしないように絶縁体で覆われていますが、その素材によっても音は変わります。“オマケ赤白”はビニールで覆っているだけですが、オーディオ用のものは高純度のポリエチレンが使われているのです」(井上先生)
なるほど、すごい説得力。価格はもちろん、その見た目や質感だって大きく変わるわけだ。線を手にしてみると、しっかり重厚感があり、かつ、しなやか。見た目も美しい。やっぱり、オマケから一刻も早く変えなくては!
レコードプレーヤーに必須の「アース線」とは何ぞや?
「アナログレコードを聴く時は、ラインケーブルだけでなく、これが必要です」と井上先生が取り出したのは、「アース線」なるものだ。
先ほどのラインケーブルを、今度はレコードプレーヤーに接続してみたところ、ジー……ブーン……というひどいノイズが聴こえてきた。「ハムノイズ」というものだ。このままではとてもじゃないがレコード鑑賞はムリ。
「レコードプレーヤーは音の信号がとても小さいので、MMカートリッジでも1000倍くらいまで増幅しないとCD並みの出力にはなりません。つまり、ノイズもそのまま盛大に増幅されてしまうので、CDプレーヤーと同じように接続すると、こうした大きなハムノイズが発生してしまうのです。それを避けるために必要なのが、アース線です。ノイズの原因になる余計な電流を捨てるためのものです」(井上先生)
「アース」とは地面、地球を意味する言葉だ。地面はプラスもマイナスもなく、0Vと考えられている。もともとは、洗濯機などの家電が壊れて漏電した場合、人が感電するのを防ぐために、地面に電流を流すための機能である(アース線も繋げられるコンセントプラグがありますね)。
一方のレコード再生では、ノイズの要因になる「余分な電流を捨てる」ことがマストなので、アース線のための端子がプレーヤーにもアンプにもある。アンプのシャーシ(基板を収めている大きな箱部分)が地面の役割を担い、余計な電流が捨て去られ、ノイズが軽減するという仕組みだ。近年では、プレーヤーそのものに増幅機能を持つフォノイコライザーを載せた製品もあり、必ずしもアース端子はついていないこともある(入門機に多い)。
プレーヤーとアンプ間にアース線も加えて接続したところ、やはりノイズが大きく軽減された。ちょっとアース線を触ってみたり、角度を動かしてみるだけで、さらにクリアになっていく。アナログ再生はなんて繊細なんだろう。この追求が面白い。昨今では「オーディオ専用アース線」も開発されるようになった。「余分な電流を捨てる」機能の充実化は、まだまだ未知の部分も多いそうだ。
さらに、アース線がラインケーブルとセットになったような「フォノケーブル」なるものが存在する。単にアース線が付加されているのみならず、音楽信号を送るケーブル部分も、アナログレコード再生に特化した性能となっているとのこと。実際にゾノトーンの「6NTW-6060(RCA)」で試聴してみると、ラインケーブル+アース線よりも、一段レコードの音が濃厚に深く響いた。フォノケーブルの選択もまた魅力的である。
本記事は『季刊・analog vol.75』からの転載です
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