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 数nm世代の最先端半導体には、オランダASMLの極端紫外線(EUV)露光装置が必須――。そんな状況にキヤノンが風穴を開けた可能性がある。長年、研究開発を続けてきたナノインプリントリソグラフィ(NIL)装置を実用化したのだ(図1)。2023年10月13日から、同装置の販売を開始した。5nm世代に必要な最小線幅14nmの回路パターンを描画できる。ASMLの開口数0.33のEUV露光装置で実現できる最小線幅である13nmに迫る性能だ。「既に問い合わせが多数あり、特に研究開発や光学分野の用途からの関心が高い」(キヤノン光学機器事業本部副事業本部長 岩本和徳氏)という。



図1 ナノインプリント半導体製造装置「FPA-1200NZ2C」
(写真:日経クロステック)
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 NILは、スタンプのようにnmサイズのパターンを彫ったマスクを押しつけることで、パターンを転写する技術である。NILを使用するメリットは2つある。EUV露光と比べて、工程数が減らせること。そして、消費電力が10分の1になることだ(表1)。



表1 NILは複雑なパターンを1回で作成可能
(出所:ASMLとキヤノンの製品仕様を基に日経クロステックが作成)
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複雑なパターンを1回で作成可能

 キヤノンのNIL装置でのパターン転写は次のように行う。まず、同社が保有するインクジェット技術によって、ウエハー上へ液滴状のレジストを塗布する。その後、回路パターンが彫り込まれたマスクをレジスト上に押しつけ、その上から紫外光を照射し、レジストを固める。レジストが固まった後、マスクを剥離する(図2)。



図2 転写方式の比較
(出所:キヤノンの資料を基に日経クロステックが作成)
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 NILはこのように直接パターンを転写するため、複雑なパターンであっても1回の露光で転写できる。光露光では、1回の露光で縦あるいは横の形状しか転写できない注1)。このため、斜めのパターンや複数のパターンが入り交じっていると、複数回の露光が必要になる。露光回数が増えると、エッチング作業などの別工程も同時に増える。

注1)露光方式は、縦方向か横方向に露光条件を最適化している。縦と横のパターンが混合していると、端部の露光解像度が下がり、端部のパターンがギザギザしてしまうため、分けて露光する。

レプリカマスクでパターン形成

 NILでは、実寸サイズのパターンを描いたマスクを使う。このマスクは、キヤノンによると、電子ビームを使って、実寸サイズのパターンを描いたマスターマスクを用意するという。このレプリカマスクを、NIL装置を使って転写して造る(図3)。NILはマスクを直接押し当てるため、マスクの欠陥が露光方式と比べて発生しやすい。そのため、マスターマスクからレプリカマスクを大量に造り、欠陥が発生したものは良品に交換して使っているという。1枚のマスターマスクから何枚のレプリカマスクを造れるかは非公開。「線幅が小さくなるほどレプリカ作製は難しくなる」(岩本氏)とする。



図3 マスターマスクを基に多数のレプリカマスクを造る
(出所:日経クロステック)
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