日系自動車メーカー大手3社の中国合弁会社が2025年にかけて投入する新型の電気自動車(EV)で、先進運転支援システム(ADAS)の戦略が分かれた。トヨタ自動車や日産自動車の現地合弁が自動運転ソフトウエア新興の中国Momenta(モメンタ)を頼るのに対し、ホンダの合弁はグローバル向けの自社開発システムを採用する。Momentaの技術を活用するトヨタ系や日産系が市街地の一般道での高度な運転支援に対応するのに対し、ホンダ系の新型EVは高速道路での運転支援にとどまる。
「中国では、EVは高度な自動運転機能を搭載していないと先進性をアピールできない」――。ある日系1次部品メーカー(ティア1)でADASを開発する技術者はこう指摘する。クルマの知能化に対する要求が高い中国市場に対応すべく、2024年11月中旬から開催された「第22回 広州国際自動車展覧会(広州モーターショー)」では、トヨタや日産の中国合弁が新たなADASを搭載する中国専用EVを披露した。
両社の中国合弁がともに、新型EVに採用する新ADASの開発で助けを求めたのがMomentaである。トヨタと中国・第一汽車の合弁である同・一汽豊田汽車(一汽トヨタ)は、2025年初めに発売するクロスオーバーEV「bZ3C」とセダンEV「bZ3」の部分改良車にMomentaと共同開発するADAS「Toyota Pilot」を搭載する。
トヨタと中国・広州汽車との合弁である同・広汽豊田汽車(広汽トヨタ)も、2025年初頭までに投入する「bZ3X」に同ADASを採用することを2024年6月に明らかにしている。トヨタブランドの3車種の中国専用EVにMomentaが食い込んだ形だ。
日産と中国・東風汽車の合弁である同・東風日産乗用車(東風日産)は、次世代新エネルギー車(NEV)シリーズ「N」の第1弾となるセダンEV「N7」にMomentaと共同開発したADASを搭載する。
トヨタや日産の中国合弁の新ADASはいずれも、中国で競争が激化する「NOA(Navigate on Autopilot)」と呼ぶ自動運転「レベル2+」に近い機能を搭載する。ともに、高速道路と市街地の一般道の両方で、運転支援に対応する。NOAでは一般に、目的地を設定するとシステムが自動で運転し、車線変更や追い越しなども可能である。ただし、緊急時はシステムから人に運転を引き継ぐため、運転者による監視が不可欠となる。
トヨタの中国合弁の3車種がLiDAR(レーザーレーダー)を採用するのに対し、東風日産のN7は搭載していない。同社はN7のNOAの詳細を明らかにしていないが、LiDARの有無によって機能や性能でトヨタ系の新型EVと差が出る可能性はある。
トヨタや日産の合弁の新ADASは、Momentaの「End to End(E2E)」と呼ぶ自動運転技術を活用する。E2EはAI(人工知能)を全面的に採用した自動運転技術で、米Tesla(テスラ)や中国・華為技術(Huawei)などが既に導入を始めている。
従来の「ルールベース」の自動運転システム/ADASは、人間が考えたアルゴリズムを使い、別々に設計した複数のソフトウエアモジュールを組み合わせている。これに対し、E2Eの自動運転システムでは、車両周囲の状況認識から判断、操舵(そうだ)までの全てを単一のAIが担う。ルールベースのシステムで通常使う高精度地図を必要としないことから「マップレス」の自動運転とも呼ばれる。
一方でホンダの合弁のYeシリーズでは、車載インフォテインメント(IVI)や電動パワートレーンなどで現地サプライヤーの技術の導入が進んでいる。IVIではHuaweiのディスプレーや中国・科大訊飛(iFLYTEK)の音声認識技術を採用。駆動モジュールの電動アクスルでは、Boschと上海汽車傘下の中国・中聯汽車電子との合弁である同United Automotive Electronic Systems(UAES)と協業する。中国市場の知能化を重視するニーズを鑑みれば、ADASでの同様の試みがホンダの合弁が巻き返すカギになるだろう。
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