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手術手技の向上や強力な抗がん剤の導入にもかかわらず、膵臓がんの5年生存率は10%未満であり、消化器がんの中で最も予後不良ながんです。
新しい抗がん剤・分子標的薬の開発と同時に、一般に処方される薬のなかに、膵臓がんの予防や治療に有効なものを探す努力が続いています。
これまでに、アスピリン、メトホルミン、スタチン、β-ブロッカー、ビスフォスフォネートが膵臓がんに効く可能性があるという実験データや疫学研究から明らかとなってきました。
今回は、これらの薬について現在までの研究報告をまとめてみます。
膵臓がんに効く可能性がある一般薬5つ
1.アスピリン(NSAID)
まずは解熱鎮痛剤として広く使われているアスピリン(非ステロイド系解熱鎮痛剤:NSAID)です。アスピリンは大腸がんをはじめ消化器がんの予防および治療に有効であることが示されています。がん抑制のおもなメカニズムは抗炎症作用であり、具体的にはシクロオキシゲナーゼ (COX)-1/COX-2の阻害およびNFκBまたはSTAT3シグナル伝達経路の不活性化です。
膵臓がんの予防および治療とアスピリン服用との関係についての報告は、相反するデータも含めていくつかありますが、最近のものを紹介します。
■ 10件の研究のメタ解析の結果では、高用量アスピリン内服は膵臓がんのリスクを12%低下することが示されたが、低用量のアスピリンではこのような膵臓がんリスクの低下はみられなかった。
- High-dose aspirin consumption contributes to decreased risk for pancreatic cancer in a systematic review and meta-analysis. Pancreas. 2014 Jan;43(1):135-40. doi: 10.1097/MPA.0b013e3182a8d41f.
■ 761人の膵臓がん患者と794人のコントロールについて、アスピリンの服用歴を含めてリスク解析を行ったところ、アスピリンの常用は膵臓がんのリスクを46%低下させる因子であった。
- Aspirin Use and Reduced Risk of Pancreatic Cancer. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2017 Jan;26(1):68-74. doi: 10.1158/1055-9965.EPI-16-0508. Epub 2016 Dec 20.
■ 8つのランダム化比較試験(25,570人の患者)のプール解析によると、75mg以上のアスピリンを毎日服用することにより、膵臓、食道、肺、胃、および大腸がんを含む消化器がんによる死亡のリスクが50%以上も低下していた。また、治療の期間が長いほど死亡リスクがより低下していた。
- Effect of daily aspirin on long-term risk of death due to cancer: analysis of individual patient data from randomised trials. Lancet. 2011 Jan 1;377(9759):31-41. doi: 10.1016/S0140-6736(10)62110-1. Epub 2010 Dec 6.
2.メトホルミン
メトホルミン(メトグルコ)は、糖尿病の治療に用いられるビグアナイド系の経口血糖降下剤です。試験管内の実験では、メトホルミンはインスリンとインスリン様成長因子(IGF-1)のレベルを低下させることによって膵臓がん細胞の増殖を抑えるというデータがあります。
人における研究報告を紹介します。
■ 973人の膵臓がん患者と863人のコントロールによる症例対照研究では、メトホルミンを服用していた糖尿病患者では膵臓がんのリスクがおよそ60%も低下していた。一方、インスリン治療をしていた糖尿病患者ではリスクが5倍にも増加していた。
- Antidiabetic therapies affect risk of pancreatic cancer. Gastroenterology. 2009 Aug;137(2):482-8. doi: 10.1053/j.gastro.2009.04.013. Epub 2009 Apr 16.
■ 302人の糖尿病を合併した膵臓がん患者(このうち117人はメトホルミン服用)についての解析では、メトホルミンにて治療していた膵臓がん患者の死亡リスクは32%低下していた。
- Metformin use is associated with better survival of diabetic patients with pancreatic cancer. Clin Cancer Res. 2012 May 15;18(10):2905-12. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-11-2994. Epub 2012 Mar 31.
3.スタチン
スタチンは高脂血症(高コレステロール血症)の治療薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬)ですが、本来のコレステロールを低下させる作用とは別に、がんを抑制する作用があります。試験管や動物実験では、スタチンによるメバロン酸合成の抑制は、細胞内シグナル伝達を阻害し、がんの増殖や転移を抑制し、アポトーシスに誘導することが示されています。
人におけるスタチンと膵臓がんのリスクの研究について解説します。
■ 483,733人を対象とした大規模な症例対照研究において、6ヶ月以上のスタチン服用は膵臓がんのリスクを67%低下させ、4年以上のスタチン服用は80%も低下させていた。
- Statins reduce the risk of pancreatic cancer in humans: a case-control study of half a million veterans. Pancreas. 2007 Mar;34(2):260-5.
■ 2142人の膵臓がん患者(このうち約55%が転移あり)を対象とした研究において、スタチンの服用は、死亡リスクを13%低下させた。またスタチンの種類のうち、シンバスタチン(リポバスなど)とアトルバスタチン(リピトールなど)が死亡率の減少を伴っていた。
- Influence of Statins and Cholesterol on Mortality Among Patients With Pancreatic Cancer. J Natl Cancer Inst. 2016 Dec 31;109(5). pii: djw275. doi: 10.1093/jnci/djw275. Print 2017 May.
4.β-ブロッカー
β-ブロッカーは心不全、高血圧、心筋梗塞、および不整脈などの治療に広く用いられている薬です。試験管および動物実験では、β-ブロッカーのプロプラノロールは、膵臓がんの増殖を抑制することが示されています。
しかしながら、疫学研究や臨床研究において、β-ブロッカーが膵臓がんのリスクや生存率に関わっているという研究データはまだありません。
5.ビスフォスフォネート
ビスフォスフォネートは破骨細胞による骨吸収を阻害する薬で、骨粗しょう症の予防や治療に使われています。また、癌の骨転移による骨関連事象の緩和目的にも使用されます。ビスフォスフォネートには抗がん作用があり、乳がん患者における生存率の改善効果が確認されています。
試験管レベルでは、ビスフォスフォネートは膵臓がん細胞の増殖を抑え、アポトーシスに誘導することが示されています。また動物実験において、ビスフォスフォネートは膵臓がんの腹膜播種を抑制することが報告されています。
まだ人におけるエビデンスは少ないのですが、ビスフォスフォネートと膵臓がんについては以下の研究報告があります。
■ 大規模なネスティド・ケース・コントロール研究において、ビスフォスフォネートの使用は膵臓がんのリスクを21%低下させた。
- Exposure to bisphosphonates and risk of common non-gastrointestinal cancers: series of nested case-control studies using two primary-care databases. Br J Cancer. 2013 Aug 6;109(3):795-806. doi: 10.1038/bjc.2013.383. Epub 2013 Jul 18.
人における臨床試験などはまだ行われていません。
以上、膵臓がんに効く可能性がある一般薬(アスピリン、メトホルミン、スタチン、β-ブロッカー、ビスフォスフォネート)でした。
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