2017年10月6日金曜日

深層学習に3つの課題、トヨタ参加の新協会が挑む打開策

転載元はこちらhttp://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/100501151/?ST=spleaf

島津 忠承=日経SYSTEMS2017/10/06

 エヌビディア、ABEJAなどのIT関連企業11社と、東京大学大学院の松尾豊 工学系研究科 特任准教授など人工知能(AI)技術のディープラーニング(深層学習)の研究者が2017年10月4日、「日本ディープラーニング協会、JDLA)」の設立を発表した。ディープラーニングの活用促進や、3年間で3万人の技術者育成などを目標に掲げる。協会の理事長には松尾氏が就任した。
 同協会で目を引くのが、トヨタ自動車が賛助会員として参加したこと。トヨタの参加が象徴するように、JDLAの松尾理事長は、製造業でディープラーニングの本格活用が進むことを期待している。「ディープラーニングはものづくりと相性が良い。今後の日本の産業競争力にとって非常に重要だ」(松尾氏)。
日本ディープラーニング協会の松尾豊理事長(東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授)
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 ディープラーニングは注目度が高いものの、国内企業の取り組みの多くは実験レベルにとどまっている。事業化を進める米国や中国のIT企業などと比べ、出遅れているという声が少なくない。同協会の今後の活動が、普及の特効薬になるかどうか注目される。
 協会設立の発表会見で松尾理事長は、ディープラーニングについて「従来の技術を根底から覆す不連続の技術」と紹介した。ディープラーニングは大量のデータを学習することで、タスクの実行に必要な特徴を自動的に抽出する。この仕組みにより、画像認識であれば今や人間を上回る精度で識別できるほどだ。「ITや機械に『眼』が備わったようなもの。産業界に大きなインパクトを与える」(松尾氏)。
 具体的には、従来は人間の眼による判断が必要なために自動化が難しかった作業で一気に自動化が進む可能性が開ける。例えば、農業における収穫判定、建設現場の測量、食品加工工場における振り分け作業などだ。「ディープラーニングを適用してこれらの作業を自動化できれば、生産性の飛躍的な向上が見込める」(松尾氏)。

深層学習の活用促進を阻む3つの課題

 しかし、現状の日本はディープラーニングを活用するうえで課題が山積みという。松尾氏は大きく3つの課題を挙げた。(1)他のITやAIとの区別、(2)ユーザー企業の知識不足、(3)技術者の不足である。


 (1)について松尾氏は、日本においては現状ではディープラーニングがAIとしてひとくくりに語られていると指摘する。ディープラーニングはAIの技術の一つであり、仕組みやできることが異なる様々な技術があるにもかかわらず、その違いが議論されることが少ないのだ。このため、ディープラーニングの本質的な価値が十分に理解されていないという。
 (2)のユーザー企業の知識不足は、ディープラーニングに対し、これまでの新技術と同様に「どんなことでもできるのではないか」と過度の期待を寄せていたり、逆に「使い物にならない」と見向きもしなかったりしている状況を指す。ユーザー企業でビジネスを推進する人材が、ディープラーニングの基本の仕組みを理解し、適用できる領域を見極められる知識を身に付ける必要がある。
(3)の技術者不足の課題も深刻だ。現状は、ディープラーニング分野で活躍する国内企業はスタートアップの企業が大半。産業界の需要規模からすると全く足りず、大規模な適用がままならない。「特に、ビジネスに適用できるモデルを構築できるエンジニアが足りない」という。
 JDLAはこれらの課題を解決するための施策を今後打ち出していく。例えば(1)の課題には、先進事例の共有などの情報発信に力を入れる方針だ。(2)ユーザー企業の知識不足と(3)の技術者不足の課題に対しては、それぞれに応じた資格試験を実施する。
 ビジネスへの活用者向けの試験は2017年12月16日に実施。ユーザーがビジネスに活用する際に必要となるディープラーニングの基本の仕組みを問う内容となる。後者の技術者向けの試験は2018年4月に実施する予定である。教育プログラムを手掛ける組織などと連携し、50時間程度の講座を受講してから受験する流れになるという。
 JDLAは資格試験や教育プログラムを通じ、2020年までに3万人のディープラーニング技術者の育成を目指す。単純計算で1年当たり1万人の技術者を育てるという目標は、高いハードルに映る。IT系の資格試験の中では受験者数が特に多い情報処理推進機構の「基本情報技術者試験」でも、1年間の合格者数は2万6591人(2016年度)だからだ。
 だが、松尾氏の見方は異なる。「日本の産業界が必要とするディープラーニング技術者の数を逆算すれば、むしろ最低限のライン。本当に必要とする技術者の数からすると、1~2桁少ない」(松尾氏)とする。

IT業界以外からの「越境」に期待

 では、どのようにハードルを乗り越えるのか。松尾氏はIT企業やユーザー企業のIT部門だけでなく、製造業の技術者がディープラーニングの技術を習得するように促す考えだ。「インターネットがIT産業の一部から今や1つの産業として成長したように、ディープラーニングが1つの産業として成長する可能性は高い。既存のIT業界にとどまらず、製造業の技術者も積極的にディープラーニング技術を身に付けてほしい」と松尾氏は期待する。
 確かに、製造業の技術者が「越境」してディープラーニングの技術を習得するのであれば、3万人という数字の実現性は高まる。一方で、既存のIT人材にとってはディープラーニングを適用するシステムの構築においてライバルが増えることにもつながる。JDLAの活動が実を結ぶかどうかは、国内のIT人材のあり方に大きく影響する可能性もある。

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