2021年1月14日木曜日

金融庁、DX人材を公募 「人間の力だけでは不正を見抜けない、金融庁も高度化する」

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2021年01月14日 07:12  ITmedia ビジネスオンライン

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写真稲田拓司氏(金融庁 総合政策局)
稲田拓司氏(金融庁 総合政策局)

 金融庁がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む専門人材の公募を開始した。転職サイト「ビズリーチ」で、2月3日まで募集する。



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 金融庁は「金融DX」の推進を掲げている。しかし現在、金融庁がつかさどる行政手続きのうち、オンラインで対応可能な手続き種類は8.8%にとどまっている。金融機関との行政手続きの完全電子化を推進するため、今回の公募を実施する。



 金融庁が抱える課題と、どのようにDXを進めていこうとしているのかについて、金融庁総合政策局の稲田拓司氏に伺った。



●G7でも指摘される金融庁の遅れ、業務改革は急務



 金融機関全体の旗振りをする立場の金融庁だが、「金融庁自身、デジタル化が遅れている」と稲田氏は話す。前例踏襲で旧態依然としたシステム運用を続けてきた金融庁は、デジタル化の前に、まずは業務改革(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)が必要だという。



 一例として、金融機関には金融庁が求める報告書や届け出を提出する義務があるが、同じ内容のものを別のフォーマットで他の規制当局や自主規制団体にも出さないといけないことがあるという。



 「1つ作ってそれぞれに送るならまだ楽ですが、現状は、様式が別々で使い回せません。これを一本化して、ワンストップにできるようにしてほしいという提言が寄せられてます。こういった意見を真摯に受け止め、関係機関と協力しながら改善を続け、金融機関がより生産性の高い業務に注力できるようになればと考えています」(稲田氏)



 G7においても各国の有識者から、金融庁はシステムの自由度が低いと指摘されている。国によって状況が全く違うため一概にはいえないが、単純に横並びで比較すると、金融庁は業務もシステムも遅れているように映るという。



●金融取引の高度化と同時に、金融庁も高度化しなければならない



 金融取引や金融サービスの高度化も、DX人材の必要性に拍車を掛けている。進化が著しく、もはや人間の力だけではモニタリングしきれない時代が到来しているのだ。



 「例えば、証券取引には高頻度取引や高速取引と呼ばれるものがあり、ミリ秒単位のスピードで取引されます。そんな処理の中で相場操縦をされると、すぐに見抜けなかったりするわけです。しかし、どんな時代になったとしても、公正な取引市場を維持していくのが金融庁の使命です。取引の仕組みが高度化すると同時に、それをモニタリングするわれわれも高度化していく必要があります」(稲田氏)



 悪意ある人々は、高度化した仕組みを巧みに利用する。そんな中「Excelで不正な取引を再現してみよう」なんてやっていられない。この先は、AI、スーパーコンピュータあるいは量子コンピュータといったように、これまで金融庁がやってこなかった方法で、悪意に対抗していく必要が出てくるだろう。



 「正直言って私もそろそろ隠居を考える歳ですが、毎日が勉強です」と稲田氏は笑う。新しい技術や世の中のトレンドを理解し、可能な限りそれを使いこなしていく必要があるという。稲田氏自身、国内外のITトレンドやサイバー攻撃の手口には常にアンテナを張り、スマホに通知が届くよう設定している。外の専門家との情報交換もまめで、新型コロナ以前は、頻繁に全国の金融機関を回ってサイバーセキュリティの勉強会を行っていた。



 金融庁には、金融機関のITガバナンスをモニタリングする役割もある。これは、金融機関の経営陣が、見掛け倒しではなくきちんとIT戦略に関与し、実際にコントロールできているかを見て、できていなければ意識改革を促すものだ。指摘する金融庁自身がトレンドを追うことを怠れば、巡り巡って金融機関のレベル低下にもつながる可能性があるということだ。



●公募の真意とは



 今回公募するのは、金融庁のデジタル化を推進する「DX推進ビジネスデザイナー/アーキテクト」、デジタル化に欠かせないサイバーセキュリティの維持・向上に取り組む「金融DX with Security 推進アナリスト」、金融機関のITガバナンスやシステムリスクのモニタリングを行う「ITモニタリングスペシャリスト」の3つのポジションだ。



 「DX推進ビジネスデザイナー/アーキテクト」には、「ビジネスデザイナー」という言葉が入っている。ここから、「古めかしいやり方をそのままデジタルに置き換えても意味がない。業務を再整理し、その上でデジタル化を進めていく」という意図が読み取れる。稲田氏の言う業務改革だ。



 そして金融取引が高度化している環境下で、金融庁内部と金融機関の安全を守る役割を担うのが「金融DX with Security 推進アナリスト」と「ITモニタリングスペシャリスト」だ。



 「金融DX with Security 推進アナリスト」は金融DXを進めるうえで必要なセキュリティ対策の設計や、既存システムのセキュリティの維持・向上をミッションとする。「ITモニタリングスペシャリスト」は銀行、保険会社、証券会社などさまざまな金融機関に潜在する課題を分析し、システムリスクのモニタリングを企画し、実施する役割だ。



●金融庁が目指す最終形は、SupTechか



 DXに終わりはないことを大前提に、金融庁が描くDXの最終形は何だろうか。それは、RegTech(レグテック)、SupTech(スプテック)と呼ばれるものなのではないか。



 RegTech(Regulatory Technology)は、規制(Regulation)と技術(Technology)の組み合わせから派生した造語で、主に新たなテクノロジーを活用し、複雑化・高度化する金融規制に効率的に対応するためのITソリューションを指す。コンプライアンスや意思決定プロセス監視の自動化を目的とした技術などがそれに当たる。RegTechが規制される側なのに対し、SupTechはSupervisory Technologyの略で、規制当局側の同様の革新を指す。



 金融庁の立場からすれば、金融庁と全国の金融機関がリアルタイムに情報交換でき、金融機関がわざわざ分厚い報告書を作らなくともローデータを投げ込めば良しあしが分かり、金融機関の健全性が担保される世界が理想だろう。しかしこれはまだまだ夢物語で、技術的にも未解決の課題が多く、やるとなれば金融機関からの抵抗もあるだろう。



 だが一方で、世の中には効率化、ワンストップ化の動きが生まれている。現在の日本は、引っ越しの住所変更や、結婚・離婚の名字変更など、人生のワンアクションごとに複数の窓口に対して手続きが必要で、非常に煩雑かつ非生産的だ。河野太郎行政改革・規制改革相は「それらを令和3、4年度中に何とかワンストップにできないか各省庁と議論を始めている」と明かしている。こうした今までの常識が急転直下で見直される中、さまざまな利害関係者が当事者意識を持って議論に加わっていくプロセスは決して無駄ではない。



●コロナ禍は金融庁のデジタル化にどのような影響を与えたか



 霞が関は今、2度目の緊急事態宣言下にある。金融庁も新型コロナ対応によって業務のデジタル化が加速している。もともと東京オリンピック・パラリンピック期間中の出勤抑制に備えてテレワークの仕組みは構築していたが、モビリティに優れた軽量PCの配布や、複数のオンライン会議システム、ビジネスチャットツールの活用が進み、非対面でのモニタリングも可能になりつつある。



 また、政府がやめると宣言したPPAP(パスワード付きZipファイルの運用)は、金融庁も、新ルールや代替ツールを提示して脱却することを決めた。ITが進化したことで、従来のルール通りでなくても安全性が確保できるようになった。むしろ利便性を置き去りにして古いルールをかたくなに守り続けようとすることが、危険な回避策やシャドーITを生み、脆弱性につながることもある。よくある「拡張子を『zi_』から『zip』に変更して開封してください」といったものはその最たる例だ。



 ツールは入れたら終わりではなく、使い勝手や生産性を継続してモニタリングし、改善していくといったサービスマネジメントの視点が必要だ。



 金融庁は今、DXのスタートラインに立ったばかりだ。まずは公募を用いて民間の新しい視点を取り入れ、時代に合った最適なシステムを構築することで、金融庁自身、そして金融業界全体の業務改革を推進していく。

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