配信
2021年6月11日に発売されるNintendo Switch用ソフト『ナビつき!つくってわかる はじめてゲームプログラミング』。アマゾンTVゲームストアの予約数ランキングで1位を獲得するなど、連日、各通販サイトで上位にランクインする人気だ。 【全画像をみる】任天堂の新作『はじめてゲームプログラミング』予約で爆売れする理由 「任天堂の開発室から生まれた」と銘打たれたプログラミングソフト、なぜここまで注目を集めているのか?
任天堂が「プログラミング教育」に本格参入
これまでも任天堂は『マリオメーカー』や『Nintendo Labo』といった、ゲーム作りのためのソフトを発売してきた。 しかし本作は、プログラミング教育にフォーカスしたゲームであることを公式サイトで明示している。 このゲームでは、長いプログラムコードを書く必要はない。代わりにSwitchコントローラーを使い「ノードン」というキャラクターをつなげることで、ゲームプログラミングを行っていく。 例えば「スティックノードン」と、「ヒトノードン」の『左右』をつなぐと、コントローラーのスティック操作でゲーム内のヒトを左右に動かせるようになる。 「なぜコントローラーを操作すると、ゲーム内でキャラクターは動くのか?」そんな疑問に、ゲームの仕組みを直感的にイメージさせることで答えるわけだ。 2人で対戦するおにごっこのゲームから、3D空間を使ったアクションゲームまで、後述するチュートリアル(ナビゲーション)では、全7種類のゲームを制作することができるという。 SNSでは子どもを持つ親世代が購入を検討する声が多くみられると同時に、「自分が欲しい」という大人も続出しており、子ども向けでありながらも幅広い世代に親しまれるゲームとなりそうだ。
学校教育でも使用される「ビジュアル言語」
本作が注目を集める理由の一つに、中学校でも2021年度から必修化となった「プログラミング教育」がある(小学校では2020年度から必修になっている)。中でも、広く使用されているのがビジュアルプログラミング言語(以下、ビジュアル言語)だ。 プログラミングは、一般的にはソースコードをテキストで打ち込む。JavaScript、PHP、Java、Pythonなどの言語が有名だ。 一方、ビジュアル言語はプログラムに必要な要素を視覚的に表現し、ドラッグ&ドロップなど簡単なマウス操作でプログラムを作成できるようにしたもの。 代表的なビジュアル言語に「Scratch(スクラッチ)」がある。米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが開発した、無料で利用できる教育ツールだ。 キーボードを打てない子どもでも、ブロックを組み合わせてキャラクターの動きをコントロールすることで、簡単にゲームやアニメーションを作成することが可能となり、自分だけのオリジナルプログラムをつくり上げることができる。 スクラッチは現在、50を超える言語に対応しており、完成したプログラムはオンライン・コミュニティで共有することができる。 世界中のユーザ─から「いいね」などのリアクションが付いたり、他の人の作品を自分なりにアレンジして再構築することが可能で、プログラミング・コミュニティの「オープンソース」に近い。 文部科学省も「小学校プログラミング教育に関する研修教材」としてスクラッチを活用したプログラムを紹介している。学校教育でも利用されるツールとして定着しつつある。 「ノードン」をつなげてゲームをつくる本作は、このビジュアル言語の雰囲気を感じさせる。 作成したゲームはインターネット上で公開することも可能(※インターネットによる通信を行うには、Nintendo Switch Online(有料)への加入が必要)。自作したゲームを共有できる点もスクラッチと似ている。
費用負担が大きい、プログラミング学習
さらに『ナビつき!つくってわかる はじめてゲームプログラミング』は、希望小売価格 パッケージ版:3480円(税込)、ダウンロード版:2980円(税込)と、ゲームにしては比較的安い。 Switchさえ持っていれば、書店に並ぶ参考書に代替する選択肢となりうる。 というのも、先述のスクラッチを自宅学習で使用するには、パソコンやiPadなどのデバイスが必要となり、それらを準備するなど環境構築が必須というハードルがある。 また、スクラッチのツール内には動画でチュートリアルが公開されているが、その多くは英語だ。 子どもがスクラッチの全体像を理解するまでには、教材となる参考書などを読みながら、ときには子どもが感じる不明点を大人が解説するかたちで学習を進めていかなければならない。 書店にはスクラッチを使ったゲームプログラミングを紹介する参考書が多く販売されているが、本格的な参考書は3000円程度する。 そのため、共働きなどで親が子どもの学習に伴走できない場合は、専門的なカリキュラムが組まれ、学びの環境が整っている小・中学生向けのプログラミング教室で学ばせるほうが、全体的な費用感や学習効率が良いケースも考えられる。 いずれにしてもプログラミング学習は費用負担が大きい。 その点、本作の価格はスクラッチを学ぶための参考書と同程度。任天堂の「プログラミング教育」参入への本気度が伺える。 スクラッチは、プログラムをつくる以前に全体像を理解する段階で挫折してしまう可能性もある。しかし本作には、ナビゲーションに沿ってその通りに操作を行うことで、全7種類のゲームがつくれる「ナビつきレッスン」がある。 さらに自分で自由にゲームを制作できる「フリープログラミング」も用意されている。「ナビつきレッスン」がチュートリアル的な役割となるため、プログラミングの知識がない子どもであっても、1人でチャレンジすることができる仕組みになっているという。
マイクラ、Unity…身近になった「ゲーム作り」
近年、ゲームはプレイするだけでなく構築することが可能なタイトルが増えている。 代表的なものに、子どもたちに人気のゲーム『Minecraft(マインクラフト)』や、オンラインゲーム・プラットフォームの『Roblox(ロブロックス)』などがあり、海外ではこれらのゲームが教育現場で活用されている。 また、世界最大シェアを誇る『Unity』などに代表されるゲームエンジンを使うことで、個人でもゲームを制作できるようになり、ゲーム制作はより身近なものとなっている。 任天堂の『ナビつき!つくってわかる はじめてゲームプログラミング』は、Unityのようにプロフェッショナルで高度なゲーム開発を実行することはできない。 しかし、子どもにとって実際に自分で「作ってみた」ゲームは、プレイしたゲーム以上に忘れられないものになるはずだ。ゲーム内で行われていることの意味や、深さを知る「体験価値」こそ、任天堂が提供する真の狙いだろう。 本作が発表された際、SNSでは、「ゲームづくりに夢中になったゲーム」として、「メイドイン俺(※ゲームシリーズ『メイド イン ワリオ』の1つ)」や「RPGツクール」などのタイトルを懐かしむ声が目立った。 やはり世代は違っても、子ども時代に夢中で「ゲームをつくった」体験は、大人になってからも印象に残り続けるということだろう。 一方で、「(自分たちが)子どもの頃に、このソフトがあったら良かったのに……」と、気軽に体験できるゲームプログラミング入門ソフトに興味を示す大人もSNSに多くみられた。
快進撃を続ける任天堂、次の一手は?
任天堂が5月6日に発表した2021年3月期決算は、売上高が前期比約34%増の1兆7589億円。純利益は同86%増の4803億円だった。 新型コロナによる巣ごもり需要や、『あつまれ どうぶつの森』の世界的ヒットに加え、『Nintendo Switch』の出荷が好調だったことなどが要因だ。 Switchシリーズの2020年度(20年4月~21年3月)における年間販売台数は2883万台となり、同社の据え置き型ゲーム機の過去最高記録を上回ったと発表されている。 そんな快進撃を続ける任天堂だからこそ仕掛けてきた、本格的なプログラミングソフト。「子どもから大人まで楽しめるゲーム」は任天堂の最大の強みだが、今回はそこに「教育」という新たな付加価値もつけられている。 子どもたちは、このゲームから何を学び、どう楽しむのだろうか。 (文・西崎圭一、編集・西山里緒)
西崎圭一
0 コメント:
コメントを投稿