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「ジャンプの漫画学校」が2年目 編集者と作家の「二人三脚」で名作を生み出す“伝統力”を生かす
漫画誌の代表格「週刊少年ジャンプ」(集英社)グループが、作家と編集者を講師に据えた漫画家育成事業「ジャンプの漫画学校」に取り組んでいる。講義に加え、編集者が仮担当として作品を作るための打ち合わせを重ね、卒業制作として漫画作品を発表するという実践的な内容で、9月に2年目の第2期が始まる。1968年に創刊し、数々の人気作を送り出してきたジャンプグループが培った経験や多様な成功例を、一般公募の作家に伝授する企画。そこには、ネット上で個人が作品を発表できる今だからこそ、編集者と作家の「二人三脚」で名作を生み出す“伝統力”を再認識し、漫画界全体を盛り上げたい思いがあるという。(取材・文=吉原知也) 【動画】「クオリティやばす」「上手いにも程ほどがある」と驚愕…中川翔子が描いた幽遊白書のフルカラーイラスト 週刊漫画誌「週刊少年ジャンプ」、月刊漫画誌「ジャンプSQ.」、アプリ漫画誌「少年ジャンプ+」の3編集部“ジャンプグループ”による漫画制作講座。今期の受講生の募集は終わっており、50人を対象に、オンライン形式での講座が12月までの全8回にわたって実施される。作家の講師陣は、「チェンソーマン」の藤本タツキ氏、「【推しの子】」の作画担当・横槍メンゴ氏ら著名作家ばかり。「ONE PIECE」や「鬼滅の刃」などのヒット作品を立ち上げた編集者たちも参加する。編集者と一緒に作り上げる卒業制作は「少年ジャンプ+」に掲載される。漫画家志望者にとっては、将来へのチャンスにもつながるのだ。 昨年から始まったこの漫画学校を企画した「少年ジャンプ+」副編集長の籾山悠太氏によると、立ち上げの背景には、近年、紙媒体が苦戦を強いられている時代の変化があるという。ジャンプが健闘を示す中で、「広く漫画誌の状況を見ると、雑誌媒体の存在感が薄れているように感じる。新人作家が『ここで描きたい』と思えるような訴求力が今後、弱まる流れにあるのではないか」との危機感だ。 新機軸を模索する中で、「50年以上の歴史を持つジャンプはこれまで、経験を広く外に公開することはなかったが、作家の力になる情報を伝えたいという思いはあった」。そこで生まれたのが、積み重ねたノウハウとブランド力を生かす今回の企画。「ジャンプ全体として新しい作家と出会い、また一つ面白い漫画を世に出せるのではないかと考えた」という。 ネット全盛の時代の流れを“逆手”に取った発想もある。SNSの普及もあり、近年では出版社を通さずとも、個人単位で気軽に漫画を発信できるようになった。連載の場としてウェブ媒体の数も増えた。作品発表への「ハードルが下がっている」現状があるといい、籾山氏は「昔のように、雑誌編集者と作家が二人三脚になって何年も一緒に漫画を作る、ということが少なくなってきた」と指摘する。 ジャンプグループが誇る漫画作りは、担当編集者と漫画家が一緒になって「作家とその作品にとっての正解を探す作業」だという。例えば「週刊少年ジャンプ」は、読者アンケートを最大限に活用。毎週20作品で年50冊を発売する中で、毎号ごとに読者から多くの反応が届く。人気の浮き沈みが直に伝わる。読者の反応をフィードバックして次に生かし、また新たなアイデアを出す。この検証の繰り返しで、ヒットを作り出す感覚を研ぎ澄ませてきた。編集部が築き上げてきた伝統力とも言える。籾山氏は「誰でもどこでも漫画を発表できるようになった今だからこそ、道しるべが必要なのではないか。どうすれば面白くなるか、読者に伝わりやすくなるのか。こういった知識の価値・需要がむしろ高まってきているのではないかと考えた」と、意義を語る。
第1期生からは連載作家も誕生 若き編集者への“伝承”の意味合いも
出版社ならではの強み。「週刊少年ジャンプ」副編集長の齊藤優氏は「データと経験値には、一日の長があると思っている」と強調する。“結果重視”の制作スタイルについて、「よくなかったときにもしっかりと作家と一緒に検証する作業をしている。『週刊少年ジャンプ』ならではのやり方だと思う」と自信を込める。 昨年の第1期は、小中学生からキャリアのある人気作家まで約1000人の応募があり、結果として50人が受講。「志望者全体のレベルが高く、びっくりした」(籾山氏)という。早速結果が出ており、卒業生は目覚ましい活躍を見せている。21年6月現在で、第1期生の掲載実績は、連載デビュー9作品、読切掲載24作品。「週刊少年ジャンプ」で「アオのハコ」を連載中の三浦糀氏は第1期卒業生だ。8月4日にはコミックス第1巻の発売を予定しており、「週刊少年ジャンプ」への投稿から、1年半での連載・単行本発売は異例の早さとのことだ。 漫画学校で大事にしているのは、「絶対的な正解はない」という考え方だ。1つの漫画論を教え込むのではなく、作家と編集者の多様性を重視する。「これまで編集部が経験してきた数多くの成功例を伝える」(籾山氏)という基本方針だ。齊藤氏は「作家によって最適なやり方は変わるもの。まさに十人十色」と話す。作家の数ほど成功例がある。その作家に合うやり方を、編集者と一緒に考え、落とし込んでいく――。新人作家の可能性を広げるというスタンスだ。 従来の漫画誌に加えて、新たに漫画学校をきっかけにヒット作家が誕生し、より多くの新人作家が集まり、成功例を増やしていく。目指すのは、好循環の仕組みだ。籾山氏は「漫画界全体が盛り上がってほしい」と、漫画界の未来を見据えた思いを明かす。 漫画学校のスキームはジャンプグループとしても、若き編集者への“伝承”の意味合いを持つという。齊藤氏は「経験や知見を形にして残すことは、作家だけでなくこれからの編集者にとっても大切なこと。漫画学校の取り組みが編集部としても成長につながると思っている」と話し、今後について「内容をブラッシュアップしながら、継続して発展させたい」としている。
吉原知也
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