2022年1月10日月曜日

日本人が「次のGAFA候補を知らない」悲しい理由 山本 康正:京都大学大学院特任准教授


「日本を狙え」と言われていたのは昔の話。いまは海外のビッグテックにとって、日本市場は「後回し」になりつつあります(画像:metamorworks/PIXTA)
GAFAの強さの秘密を明かし、その危険性を警告した書籍『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』は日本だけで15万部のベストセラーになり、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2019 総合第1位」「ビジネス書大賞2019 読者賞」の2冠を達成、日本にGAFAという言葉を定着させた。
その著者スコット・ギャロウェイ教授の最新作『GAFA next stage 四騎士+Xの次なる支配戦略』がついに刊行され、発売3日で6万部のベストセラーになっている。本書では、コロナ禍でますます肥大化したGAFAと、この4社に匹敵する権威を持つようになる「+X」の巨大テック企業が再び、世界をどのように創り変えていくかを予言している。
本書を「コロナで起きた変化を再点検し、何をすべきか考える本として意味がある」と語るのが、日米のスタートアップに投資をし、京都大学大学院で教鞭をとる山本康正氏だ。「日本はビッグテックに『後回し』にされている」という危機感とともに、解説してもらった。

日本は「後回し」にされている

『GAFA next stage』は、今のタイミングに出版されるからこそ意味があります。今後、コロナが収束した後、「元にもどるから安全だ」と考えるのではなく、この2年間で何が起きたのかを再点検し、それに対して何をすべきかを考えておかなければなりません。

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本書には、パンデミックによって2カ月でeコマースの10年分の成長が起きたと書かれています。eコマースに限らず、似たような激変がさまざまな分野で起こっています。しかし日本の普通の大企業に勤めていると、怖いほど、この変化に気づくことができません。

それでも、その変化がソフトウェアの分野なら、すぐに日本にもやってきます。例えば時価総額20兆円超えと報道されるバイトダンスが運営する「TikTok」は、日本の10代の間ではフェイスブックよりも人気です。

同じように「Clubhouse」も、アメリカで流行して、少し低迷したもののドイツで火がつき、その2週間後には日本で大流行していました。海外との時差はほとんどありません。

しかしソフトフェア以外の分野では、日本への波及には時間がかかります。それはつまり、気づいたら海外から取り残されてしまうことを意味します。

かつては、国際市場では「日本を狙え」と言われていましたが、悲しいことに、日本はいま後回しです。それよりも、中国で売ったほうがいいということで、テスラも中国に工場を持っています。日本で購入すれば、おそらく中国の工場から運ばれてくるでしょう。日本は、優先的な市場ではなくなっているのです。

その理由の1つに、日本の規制があります。たとえばテスラの自動運転の機能などは、日本国内での認可については制限されているようです。あえて遅らせて、日本に入りづらくしているわけです。

やがて日本にもディスラプションの波はやってくる

しかし、これはただ参入が遅くなるというだけで、いずれ必ず日本にも進出してきます。そのときになって慌てるのではなく、いまから海外の情勢を見極め、先手を打っておく必要があります。

iPhoneを思い出してください。初代の機種は2Gでした。あのときは、各国の2Gの仕様が統一されておらず、規格の合っている地域では、一気に初代機種が発売されていました。日本はその年には出ませんでしたが、3Gで世界共通化されたことで1年のタイムラグを経てやってきたわけです。

ただ、当初は「おサイフケータイ」などの機能がなく、充電も長持ちしないなど制約があり、ヒットにはなりましたが、爆発的に売れたのは3GSになって以降です。

要するに、規格の問題で参入タイミングが左右されています。向こうもそれがわかっていますから、「日本にはこのタイミングでこれを出そう」という計画をしています。

iPhone以前は、ガラケーが世界最先端でしたが、わずか3年でひっくり返されました。車については、買い替え年数が長く、スマートフォンより時間はかかりますが、それでも一巡したとき、それが本当に良いものであれば、一気に取って変わられます。

アメリカ自動車大手GMや日本のホンダが資本参加した自動運転ベンチャーのクルーズは実際、2021年11月の初めから、一部の従業員向けに自動運転での送迎を開始しています。法律上、運賃を徴収してロボットタクシーを走らせるということはできていません。従業員を無料で乗せて、サンフランシスコの街を走っているわけです。

つまり、自動運転は、できる、できないではなく、もうできている。あとは、浸透速度をどうするか、そして、法律など規制の問題です。GMクルーズは、2030年までに100万台を投入すると宣言しています。

アメリカでは今、そういったディスラプター(改革を目指す破壊的企業)が続々と生まれています。自分の業界もいずれ食われるかもしれないという危機感は持ったほうがいいでしょう。

保守的な規制が多いために、逆に損をして、危機に気がつけない。これは非常に怖いことです。「まだ来ないから大丈夫」と思っていたのでは、相手の思うツボでしょう。

では、具体的にどんな業界にディスラプションの波が押し寄せるのでしょうか。

『GAFA next stage』では、勃興するディスラプターとして、エアビーアンドビー、レモネード、ネットフリックス、ロビンフッド、スポティファイ、テスラ、ウーバーなどが紹介されています。

単純に投資のリターンを考えれば、そこまで大きくはない企業も出てきます。例えば、スポティファイはアップルミュージックなどの競合との競争激化から、株価の伸びでも顕著とは言えません。著者のスコット・ギャロウェイさんご本人が、ニューヨーク大学のマーケティング畑の方ですから、ブランドストーリーがしっかりとしていて、マーケティングに関して際立つ企業を並べたのかもしれません。

ここからは、私が投資家の視点で注目しているディスラプターをご紹介しましょう。いま盛り上がりを見せているのは、決済・フィンテックです。

私が注目している企業として、金融ディスラプターのストライプがあります。すごい勢いで成長している、とんでもない化け物企業です。ほかに、後払い決済のアファーム、バイナウペイレーターなども急激に伸びています。

これらのディスラプターによって、VISAやMASTERがやられるかもしれないという状況が見えてきていますから、「既存の巨人を倒す」という意味において、注目してよいでしょう。

ハイブリッドでは無理、世界はEVへ

ほかにホットなテーマと言えば、エネルギーですね。

最近は、EVのリビアンの話題が大きくなっています。リビアンは、アマゾンが支援するアメリカで人気のピックアップトラックのEVメーカーとして、2021年11月に上場しました。いきなり時価総額8兆円、一時期は10兆円を超えて話題になりました。

トヨタが30兆円、ホンダで7兆円ほどですから、それに匹敵するものがいきなり登場するという、とんでもないことが起きたわけです。リビアンには、日本企業からは住友商事が投資していて先見性を窺うことができます。一方で、ある意味、バブルではないかと言われるほどの過熱を見せています。

脱炭素に関する話は、世界でも頻繁に語られていて、もはや「ハイブリッドでは無理だ」というのが海外におけるコンセンサスです。日本国内では、基幹産業への配慮をしなければならず、言えないところがあるようですが、海外では真っ向からEVです。

電動トラックはリビアンが出していますし、テスラも、2022~23年にはサイバートラックを出すようです。次のモビリティがどうなるのかという点は、いま最大テーマです。

モビリティとエネルギーについては、パイが大きいために期待も膨らんでいます。それもあって、テスラの時価総額は一時100兆円を超えました。

本書では、資本主義の過熱が起きていると指摘されていますが、これは実際に起きていると言えます。スタートアップ業界は、IPOラッシュですが、必ずしも投資リターンに厳しくない事業会社が上場直前のステージで投資をすることによって時価総額を上げており、本来ならば、まだ上場を待ったほうがいい段階でも上場してしまい、上場後に株価が低迷してしまうこともあります。

海外マーケットで頑張る日本企業としては、次世代型電動車椅子のウィルが挙げられます。

ただの車椅子と思いがちですが、例えば、メガネは「目が悪い人がかける」というものから、今は「かけてカッコよくなる、頭が良さそうに見せる」というイメージに変化しましたよね。この発想を狙ったものなのです。

日本よりも海外のほうが売り上げが大きいと推測されるため、時価総額ランキングなどのメディアにはあまり出てきませんが、まだまだ骨があると思います。あまり余計なマーケティングはせずに、プロダクトで勝負しており、彼らの車椅子は、アップルの発表会などにシレッと登場します。

本書にも、プロダクトがしっかりしていればマーケティングはいらないと書かれていますが、その路線です。

実は、それを一番やっているのは、テスラです。彼らは、広告費ゼロ。テスラ車が街を走っていることそのものが広告であり、販売代理店を外して、直営で販売する。ビジネスモデルとしては、いわゆるD2C(ダイレクトトゥーコンシューマー)というもので、利益率が増加します。

ほかに、海外で頑張っている日本企業と言えば、スマートニュースです。海外では今のところ、積極的に攻めている日本企業の1つです。

他社にタダ乗りして、いろんな情報を吸い取るサービスはたくさんありますが、スマートニュースは、スローニュースという別のサービスも通じて本当に中立な情報や必要なもの、ジャーナリズムとは何かをきちんと考えています。いわゆる、パーパス経営をしているわけです。自分たちは何者であるのかを考えながらサービスを提供しているところに、まだまだこれからも伸びしろがあると感じます。

今後の世界を考えるための一冊

日本企業にいると、どうしても変化や危機に気づかなくなってしまいます。本書は、今の資本主義、現行制度について考え直したり、「こんなことがあった」と復習し、今後の社会の反応を考えるきっかけにするにはいい本だと思います。

ただ、ギャロウェイさんは投資家ではないので、本書を見てそのとおりに株を取引したら、大やけどを負うでしょう。

たとえば本書ではテスラについて非常に厳しい見方をしていますが、原著刊行後の2021年11月までに急激に株価が伸びました。もしも原著を信じて株をショート(売り持ち)していたら、大変なことになっていたはずです(笑)。技術の解説もあまり触れられないので、あくまで技術や投資ではなくマーケティングの人として言葉を聞かなければなりません。

この世代や、非技術畑の人はそう思い込みやすい、そういったストーリーが耳に心地よさそうなのだなという参考になります。その点には注意して読むことをおすすめします。

(構成:泉美木蘭)

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山本 康正 | 著者ページ | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

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