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2023年01月17日 07:02 ITmediaエンタープライズ
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「IT企業からDX企業への変革」を掲げて、2020年7月から全社のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む富士通。一般に広く知られる日本企業の挑戦という意味でも注目される。2年半たった今、その進捗(しんちょく)はどうか。同社の取り組みから見えてきた企業DXのポイントとは何か。富士通のDXの推進役を担う福田 譲氏(EVP CIO CDXO補佐)にインタビュー取材する機会を得たので、同氏の話を基に2023年における取り組みと企業におけるDXの今後について考察したい。
●DXの最大の敵である「経路依存性」とは
まずは富士通のDXの取り組みを見ていこう。
同社はDXについて、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務プロセスや組織、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。すなわち、DXは経営改革そのものということだ。
その内容は、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」という同社のパーパスの実現に向けた「4つのX」からなる。4つのXとは事業を変革する「CX」、マネジメントを変革する「MX」、日々の仕事のやり方(オペレーション)を変革する「OX」、人・組織・カルチャーを変革する「EX」だ(拡大画像)。そして、これらを効率よく合理的に進めるためのデジタルやIT、データの整備と活用を行う「IT改革」も要素として加わる。これが、「富士通のDXの全体像」(福田氏)である。
福田氏はこの全体像を説明したところで、「DXを2年半進めて明確になったのは最大の敵が『経路依存性』だということだ。当初から仮説として挙げていたが、再確認した」と述べた。経路依存性については、「組織の仕組みがガッチリと合理的にかみ合っている中で、仕組みの一部だけを変えようとしても無理だ。(過去の施策において、富士通だけでなく)日本企業は一部分だけ変えようとして失敗してきた」と説明し、それを打破するためには「今まで最適化されてきた会社の仕組み全体を『未来に最適化』する。その上で、トップの強力なリーダーシップの下、経営チーム全員で意識を合わせて一斉に取り組む」ことが肝要だと強調した。
富士通が推進してきたDXプロジェクト「フジトラ」はこの経路依存性の課題にも有効だという。打破するための。経営チームからなる「ステアリングコミッティ」(現在10人)が意思決定を行い、「DX Designer」(同専任25人、兼任30人)がPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)組織として機能し、各組織のDX責任者からなる「DX Officer」(同47人)が事業組織を越えて連携しながら各プロジェクトを進めるといった格好だ。
さらに、フジトラの活動に自ら手を挙げて参加する従業員からなる「DXコミュニティ」も8000人を超えた。福田氏はこれについて、「富士通グループ全従業員12.4万人のうちの8000人なのでまだまだこれからだが、一方で、私が何か提案すると短時間で続々と意見が寄せられる8000人のパワーを実感している」と、課題と手応えの両方を感じている様子だ。
富士通のDXの推進体制のポイントは、「経営のリーダーシップ」「現場が主役・全員参加」「カルチャー変革」の3つだという。
では、具体的にどのような取り組みを進めているのか。富士通は個別の取り組みを「変革テーマ」と呼んでいる。
現在、約150のテーマが挙がっており、全従業員がこれらのテーマの内容を確認できるとともに、3カ月ごとに内容の見直しや優先付けを実施しているという。
また、これらの変革テーマを進めるための手法を用意し、変革にまつわる暗黙知を形式知にするためのフレームワークとして展開している。これによって、変革テーマに合わせてこれらから効果的な手法を複数組み合わせながら変革を進めていくといった格好だ。
●富士通DXの進捗は「山登りで言えば5合目」
富士通のDXの具体的な変革のテーマと手法の中から幾つかを紹介しよう。
「パーパス・カービング」は、対話によって個々の従業員のパーパスを掘り当てて言語化することだ。「例えば、あなたは何のために富士通で働いているのかと問う。すると皆、思い起こす動機がある。それを掘り起こす。この活動については現在グループ従業員の約10万人が終えたところだ。なぜ、これが必要なのか。個々の従業員のパーパスと会社のパーパスとの重なり合いが、変革への原動力になるからだ」と福田氏は説く。
「事業ポートフォリオの改革」では、パーパスを実現するために事業ポートフォリオを見直して7つの注力領域を設定した。これが新事業ブランド「Fujitsu Uvance」だ。この取り組みは従来の事業の選択と集中を図るだけでなく、富士通がIT企業からDX企業へと変わるためのビジネスモデル改革を意味している。その改革とは、顧客の要件に沿って製品やサービスを提供する「従来型ビジネス」から、提言をもってアプローチする「オファリング型ビジネス」へと転換することだという。
「One Fujitsuプログラム」は、そんなFujitsu Uvanceをグローバルで標準サービスとして提供するため、マネジメントや業務プロセスなどもグローバルで標準化しようと、主要な業務システムやデータ活用のグローバルでの一本化を進めるものだ。「これによって、現在4000ほどある社内システムの7割程度を削減できると見込んでいる。一本化した業務システムは2024年までに順次稼働させていく計画だ」と福田氏は話す。
One Fujitsuプログラムでは、先述したフジトラのプロジェクト体制がDX Officerによる事業組織ごとの「縦の変革」を主体としているのに対し、One Fujitsuは「横の変革」を進める形となっている。
「Fujitsu-VOICE」は、顧客や従業員の声をデジタルツールによって集めてAI(人工知能)でさまざまな分析を実施することで変革の実態を探る仕組みだ。今では10万件を超える声が集まっているという。このVOICEを使ったグループ全従業員対象の全社変革実感調査では、「2022年7月時点で回答率44%、その中で『実感あり』との回答は48%だった」(福田氏)とのこと。「実感あり」と回答したのは全従業員の2割程度になる。ただ、回答しなかった過半数の従業員がDXに無関心というわけではないようで、「私の感触としてDXに前向きな従業員は現時点で全体の3分の1程度。この割合は着実に高まっている」というのが、福田氏の見方だ。
以上が、それぞれの取り組みを踏まえた同社のDXの進捗だ。あらためて全体の進捗度合いを聞いたところ、福田氏は「山登りで言えば5合目あたり。まだ頂上は見えないが、周りの景色はだいぶ変わってきた」と答えた。ここで福田氏が「景色」と表現したのは「変革に向けた空気感」とのことだ。「5合目あたり」は先ほどのDXに前向きな従業員の割合の「3分の1程度」とギャップがあるようだが、福田氏は「自転車で言うと、こぎ出しから加速がつく段階に入っていくので、全体としては半分の行程まで来た感覚がある」との見方を示した。
また、DXを推進して2年半たった今、取り組み方として最も効果的だと感じている点と、最も難しいと感じている点を挙げてもらったところ、福田氏は効果的な取り組みとして「フジトラのプロジェクト体制」を挙げた。その理由については「DXは経営トップの強力なリーダーシップの下、全社を挙げて取り組まないと絶対に進まないからだ」と答えた。
一方、難しい点としては「従業員のエンゲージメント」を挙げた。その理由として「DXを『自分ごと』としてなかなか捉えてもらえないからだ。会社がやってくれる、誰かがやってくれるという意識を変えるのは至難の業。制度やプロセスを変革しながら意識改革を実施することがDXの不可欠な要件となる」と説明した。
とは言え、福田氏は富士通をはじめ、日本企業のDXに向けた昨今の取り組みについて、「ポジティブに捉えている。歴史上、ITやデジタルが今ほど注目されたことはない。ここに一層拍車を掛けていきたい」と述べた。一方で、「ただ、企業ごとに見ると、DXを経営課題として取り組んでいるかそうでないかで進捗にかなり差が出てきている」と指摘した。
福田氏の話を踏まえて富士通におけるDXの進め方を見ると、これからDXに本格的に取り組む日本企業にとってロールモデルとなるところが多々あるのではないか。その視点で、筆者からも企業におけるDXのポイントを次のように3つ挙げておきたい。
1. DXが経営改革であることを認識し、「4つのX」を進めることだ。その際、自社のパーパスを起点にすることが肝要だ
2. 経営トップの強力なリーダーシップだ。富士通の時田隆仁氏(社長)は2019年6月に社長に就任してすぐに「IT企業からDX企業への変革」を掲げ、自らDXの責任者である「CDXO」を兼務して強力なリーダーシップを発揮し続けている
3. 企業の典型的な組織構造における縦と横の壁を取り払い、全社を挙げて取り組むことだ。富士通のDXで言えば、フジトラのプロジェクト体制とOne Fujitsuプログラムの取り組みがヒントになるだろう
最後に、IT企業からDX企業へと変革しつつある富士通については、顧客をはじめとしたユーザーが同社をDXパートナーとして受け入れるかどうかが、そのバロメーターとなる。富士通グループ全体の今後の活気とビジネスの成長ぶりに注目していきたい。
○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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