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https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170429/index.html
大分大学の研究のホームぺージからの転載で御座います。
アンモニアから水素を簡単に取り出す触媒プロセスを開発
~触媒への吸着熱を利用した新しい反応の起動方法~
ポイント
- アンモニアをエネルギーキャリアとして利用するためには、短時間で起動でき、水素を高速で製造可能なアンモニア分解プロセスが求められていた。
- アンモニアの触媒への吸着熱を利用することで触媒層を内部から加熱し、室温から水素製造反応を起動させる新しい触媒プロセスの開発に成功した。
- 触媒表面の酸点と金属酸化物粒子表面へのアンモニア吸着が、反応起動のためのキーステップであることを明らかにした。
- 本研究成果の応用によって、アンモニアから水素を簡単・瞬時に取り出すことが可能な新しい触媒プロセスを構築することが期待される。
大分大学 工学部の永岡 勝俊 准教授、佐藤 勝俊 客員研究員(京都大学 触媒・電池元素戦略研究拠点 特定助教)らの研究グループは、室温でアンモニアと酸素(空気)を触媒に供給するだけで、外部からの加熱無しに反応を繰り返し起動させ、瞬時に水素を取り出すことができる触媒プロセスを開発しました。
近年、再生可能エネルギーを化学物質に転換することで、その貯蔵・輸送を容易にするプロセスが提案されています。エネルギーキャリアの候補としてアンモニアが注目されていますが、アンモニアから水素を取り出すプロセス(アンモニア分解)には課題がありました。アンモニアの分解を開始させるには触媒層を加熱するため、常に外部からの熱供給が必要となり、アンモニアのエネルギーキャリアとしての利便性を大きく損なってきました。
研究グループでは、①原料ガス中に酸素を少量加えて発熱反応とする、②触媒へのアンモニアの吸着熱を利用して触媒層を反応開始温度まで内部から瞬時に加熱する、という2つの新しい概念を導入することで、従来型プロセスの弱点を克服し、アンモニア分解反応を室温から起動させ、水素を瞬時に発生させる新しい水素製造プロセスの開発に成功しました。またこのプロセスでは1度反応を起動させると、2回目以降は外部からの熱供給がなくとも、繰り返し反応を起動させることができます。開発した触媒プロセスの利用によって、水素製造にかかる起動時間の短縮、省エネ化、そして装置の小型化の達成が期待できます。また、基礎的な物理化学現象である吸着熱を触媒層の加熱に利用するという概念は、他のさまざまな反応の起動プロセスへの利用が期待できます。
本研究成果は、アメリカ科学振興協会発行の学術雑誌Science Advances(Science姉妹誌)のオンライン版に2017年4月29日に公開されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造推進事業 チーム型研究(CREST)「再生可能エネルギーの輸送・貯蔵・利用に向けた革新的エネルギーキャリア利用基盤技術の創出」(研究総括:江口 浩一 京都大学 大学院工学研究科 教授)の研究課題「エネルギーキャリアとしてのアンモニアを合成・分解するための特殊反応場の構築に関する基盤技術の創成」(研究代表者:永岡 勝俊 大分大学 工学部 准教授)(研究期間:平成25~30年度)の一環で実施されました。
(注)所属は論文採択時
<研究の背景と経緯>
近年、エネルギー供給源の多様化、CO2排出量削減の観点から、再生可能エネルギーの導入に注目が集まっています。この様な背景から、再生可能エネルギーを利用して水の電解などにより水素を発生させ、水素を含有するエネルギー貯蔵媒体(エネルギーキャリア)に化学的に転換することで、再生可能エネルギーの貯蔵・輸送を容易にするための技術開発が精力的に進められています。アンモニアは水素貯蔵密度が高い一方で、アンモニアの分解は吸熱反応であるため、反応を開始させるには高活性な貴金属触媒を用いた場合でも触媒層を400ºC以上に加熱し、常に外部からの熱供給が必要です。この点が燃料電池や水素エンジンなどの、起動・停止を頻繁に行う水素利用機器における、アンモニア利用を妨げる大きな要因となってきました。
<研究の内容>
本研究ではこの問題を解決する手段として、酸素を少量導入してアンモニアの一部を燃焼させる酸化分解反応(式1)に注目し、かつRuO2/γ-Al2O3触媒(酸化アルミニウム担持酸化ルテニウム触媒)注1)へのアンモニアの吸着熱を利用して触媒層を内部から急速に加熱することで、アンモニアからの水素製造を瞬時に起動させ、高速で水素を製造することに成功しました。開発した触媒プロセスの概念図を図1に示します。まず、RuO2/γ-Al2O3を不活性ガス雰囲気下で加熱処理することで触媒表面に酸点注2)を発現させます。ここに室温でアンモニアと酸素(あるいは空気)の混合ガスを供給すると、アンモニアが触媒上の酸点に吸着することで大きな吸着熱が発生して触媒が自己発熱し、アンモニア酸化分解の開始温度まで瞬時に加熱されます。この様に異なるプロセスが連動することで、ガスを供給するだけで反応が開始され、水素が発生します。
このプロセスで反応を起動させた際の触媒層の温度変化と水素、窒素の生成速度の変化を図2(左側)に示します。室温で反応ガスを供給した直後から触媒層温度が急激に上昇し、ごく短時間(20秒以内)で522ºCに達している様子がわかります。また、それとほぼ同時に水素と窒素の生成が始まっており、15、25秒後には水素の生成速度注3)はそれぞれ14、33Lh-1gcat-1に達し、非常に短時間で簡単に水素を取り出すことに成功しました。
(式1)NH3(g) + 0.25O2(g) → H2(g) + 0.5N2(g) + 0.5H2O(g)
酸化分解は発熱反応なので、一旦反応が始まると触媒層の温度は高温に保たれます。このため、アンモニアは反応中に脱離して吸着サイト注4)が再生されます(図1左側)。これに不活性ガスを流しておくことで、2回目以降は吸着サイトを再生するための前処理を行わなくても、反応ガスを供給するだけで、繰り返し反応を起動できると考えられます。実際に反応ガスの供給、排出のサイクルを繰り返してみたところ、前処理が必要なのは1回目の起動前だけで、その後は前処理をしなくても室温で反応ガスを供給するだけで、水素を繰り返し発生できることが明らかとなりました(図2右側)。
<今後の展開>
本研究の成果を利用することで、アンモニアからの水素製造にかかる起動時間の短縮、省エネ化と、小型化を達成した水素製造装置である「常温起動形アンモニアクラッカー」の実現が期待できます。このプロセスはさまざまな水素利用特に、燃料電池や水素エンジンなどの起動・停止を頻繁に行う装置に対して威力を発揮すると考えられ、エネルギーキャリアとしてのアンモニアの普及に貢献することができます(図3)。また、吸着熱の発生という基礎的な現象を触媒層の加熱に利用するという概念は、アンモニアの分解のみならず他のさまざまな反応の起動プロセスへと展開することが期待できます。
<参考図>
図1 開発した新しいアンモニア分解プロセスの概念図
図2 開発した触媒プロセスによって反応を起動した際の様子(左)と起動・停止の繰り返し(右)
図3 開発した触媒プロセスの応用
<用語解説>
- 注1) RuO2/γ-Al2O3触媒(酸化アルミニウム担持酸化ルテニウム触媒)
- 酸化アルミニウム粉末の表面に、直径1.5ナノメートル程度のナノ粒子状の酸化ルテニウムを分散させた触媒。酸化アルミニウムは石油化学用などの工業触媒に広く利用されており、表面に多くの酸点をもつ。ルテニウムは貴金属の一種であるが比較的安価で、アンモニアの合成・分解触媒として優れた性能を示す。
- 注2) 酸点
- 触媒表面上で電子対の供与を受ける点(ルイス酸)。塩基性のアンモニアを、強く吸着することができる。
- 注3) 生成速度
- 単位触媒重量、単位時間あたりに触媒が生成できる気体の体積を表したもの。文中の説明では1gの触媒が1時間あたり14リットルの水素を生成したことを示す。
- 注4) 吸着サイト
- 触媒においてアンモニアが安定して吸着出来る場所のこと。ここでは酸化アルミニウム上の酸点や、酸化ルテニウム粒子の表面を指す。これらの場所に吸着することによって、アンモニアはより大きな吸着熱を発生させる。
<論文情報>
タイトル | “Carbon-free H2 production from ammonia triggered at room temperature with an acidic RuO2/γ-Al2O3 catalyst” (酸性のRuO2/γ-Al2O3触媒によって室温で起動されるアンモニアからのカーボンフリーな水素製造) |
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著者名 | K. Nagaoka, T. Eboshi, Y. Takeishi, R. Tasaki, K. Honda, K. Imamura, and K. Sato |
掲載誌 | Science Advances |
doi | 10.1126/sciadv.1602747 |
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
永岡 勝俊(ナガオカ カツトシ)
大分大学 理工学部共創理工学科 准教授
〒870-1192 大分県大分市大字旦野原700番地
Tel: 097-554-7895
E-mail:
<JST事業に関すること>
中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
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<報道担当>
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