https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09541/?i_cid=nbpnxt_sied_blogcard
日本企業において金型に関するトラブルが後を絶たない。設計現場でも生産現場でも間違った扱い方がされており、コストが跳ね上がったり、不良品が発生したり、最悪の場合は不正を生んだりするケースがある。なぜこうした事態に陥っているのか。金型問題に詳しい小松技術士事務所副所長の小松勝男氏に聞いた。
これまで日本は金型について高い技術力を持っており、高品質な金型をうまく使いこなしていると捉えていました。ところが今、日本の製造業で金型周りのトラブルが増えていると聞きます。一体、何が起きているのでしょうか。
小松氏:ものづくりの上流側を見ると、コスト面で問題が生じています。日本企業は造りたい製品の企画からスタートし、そこで製品に必要な部品を洗い出します。そして、各部品に応じて金型を用意することになります。
ただし、全くの新規開発の機種として全ての部品を一から起こす(開発設計する)ケースはまれで、多くは流用設計です。流用部品が多ければ当然、金型も使い回せるのでコストを抑えられます。流用できない部品の金型だけを新たに起こせばよいからです。
ところが、新規に起こす金型が意外に多い企業が目立ちます。これは、部品を流用できるか、それとも新しい部品に変える必要があるかについて、明確な判断基準がないことが大きな原因です。判断基準が曖昧であるが故に、無駄な金型を起こして、結果的に開発費用の増大を招いているのです。
製品企画及び設計から既に金型の問題が発生しているのですね。では、金型そのものの設計ではどうでしょうか。
小松氏:金型の強度計算に甘さが見られます。ほとんどの場合、昔の金型設計を踏襲しており、一から計算しているケースが極めて少ないというのが実態です。もちろん、最初に金型を設計した人はきちんと強度を計算しています。しかし、従来の金型設計で問題が生じていないのだから、そのままでいいだろうと考える企業がほとんどなのです。そして、それを「ナレッジ」とか効率化などと呼んでいます。
これがどのような結果を招くかといえば、例えば新機種の開発で部品を少し大きくしたり、形状を微妙に変更したりした時に、金型が破損してしまうのです。強度計算を省略したために、射出成形時に金型にかかる溶融樹脂の充てん圧力や型締め力に耐え得るのに必要な強度が不足している点に気が付かないからです。果たして、これが正しい効率化の仕方と言えるのか疑問です。
さらに言えば、計算方法や解析結果の判断ができる人材も今、少なくなっています。かつては強度の計算式をノートなどに自分で書き、電卓を使いながら計算している人がいました。これはつまり、式の中身を考えながら設計していたということです。ところが、今はそうした計算自体を行わなくなっています。
その分、CAE解析などを駆使するのではありませんか?
小松氏:確かにCAE解析は使います。ところが、ここでも問題があるのです。CAE解析はかなり時間がかかるという点です。いろいろな条件を見なければならないので1回の解析では終わらず、条件を変えて何パターンも解析を行う必要があるのです。
例えば、ゲートを設ける位置やゲートの形状、ゲートの大きさ、冷却水管の配置といった条件をそれぞれどうするかを考え、さらにそれらを組み合わせていくと、文字通り無限となります。もちろん、無限にCAE解析を実施することはできないので、大まかな傾向を見ます。例えば、上記の4つについて、違う条件を3つ用意して12回(4×3)のCAE解析を行うといった具合です。
ここでCAE解析の時間は、シンプルな金型の設計(成形品基本設計)なら20~30分で済むものもありますが、複雑なものになると24時間以上かかるケースもあるのです。限られた開発期間の中で、これはかなりの時間的な負担になります。従って、CAE解析でも十分な結果を得られないというケースがあるのです。
こうした背景から、計算式までは見ていないというのが現状なのです。
0 コメント:
コメントを投稿