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オンプレミスのほうが安価に見える「6つ」の理由
「ガートナーの調査によると、オンプレミス環境よりもクラウドのほうが安いという結果が出ています。その理由をこれから説明しますが、例外はたしかに存在します。しかし、実際の例外よりも、例外であると思い込んでいる人のほうが多いことを伝えなければいけません」と語るのは、ガートナー シニア プリンシパル アナリストのオータム・スタニシュ氏だ。「例外となるのは、オンプレミス環境以外では動かせない特別なワークロードの場合のみです。ただ、多くのワークロードは残念ながら、そうした特別なものではないことのほうが多いのです」(スタニシュ氏)
そこで、スタニシュ氏は「なぜ、オンプレミスのほうが安価に見えるのか?」という質問に対して、次の6つの理由があると説明する。
まず1つ目は、「比較が間違っている」点だ。
オンプレミス環境とクラウドを比較する際に、「仮想マシンを動かす場合、オンプレミスのデータセンターとクラウドでは、どちらが安いのか」という質問をよく受けるという。スタニシュ氏は、そうした比較をすること自体が間違っていると指摘する。
ガートナーでは、クラウドを「インターネット・テクノロジーを活用して、拡張/伸縮可能なIT関連機能が“サービスとして”顧客に提供されるコンピューティング・スタイル」と定義している。そのため、スタニシュ氏は「サービスと物理的なサーバを比較することはできません」と説明する。
また、サービスとして提供されるクラウドにはいくつかのオプションがあり、それらを利用してクラウドに移行する最初の一歩を踏み出すことが可能になるという。具体的には「サービスとしての機能(FaaS)」「Step Functions」「サーバレス・コンテナ」「ホスト型Kubernetes」「クラウドVM/インスタンス」などが挙げられるが、それぞれのオペレーションの複雑さとコストは異なるという。
「クラウドへのシフトチェンジは基本的にリフトアップするだけというわけではありません。まずは、クラウド移行をこれまでとは違った角度から考えるべきです」(スタニシュ氏)
オンプレミスは「そんなに安くない」可能性も
2つ目は「オンプレミスのコストを過小評価している」点だ。スタニシュ氏は「実際、データセンターのコストを適切に分析するのは非常に困難です。また、社内政治などの要素が絡んでくることもあり、自分の部署の数字が少しでもよく見えるように見積もってしまうことも考えられます」との見解を示す。
「しかし、すべてのシリアルナンバーを追跡し、購入時の価格を確認するレベルまで詳細なコストを把握することも重要です。インフラそのものを改めて見直す必要があります」(スタニシュ氏)
その一方で、「多くの人はメンテナンスについて理解しておらず、サービスデスクのチケットをすべて調べて、実際にどれだけのコストがかかっているのかを調べようとする人はほとんどいないでしょう。つまり、インフラのコスト分析には多くの複雑な要素が絡んでおり、率直に言って自分自身で分析する時間がないのが現状なのではないでしょうか」と指摘する。
スタニシュ氏は、ガートナーが提供しているオンプレミス・データセンターの全コストを分析できるシートの活用を推奨している。同シートでは、パブリック・クラウドとの比較に適したデータセンター・コスト・モデルの作成方法を把握でき、データセンターのコストを正確に知ることが可能になるという。
そして、3つ目は「品質を考慮に入れていない」点である。
「クラウド・プロバイダーが提供する機能を自分たちの環境で実現することは難しいですが、クラウドはオンプレミスでは実現できない、さまざまな機能を有しています」とスタニシュ氏は説明する。
実際、スタニシュ氏の顧客の多くが、現時点ではクラウドが持つ基本的なオートメーションすらできていないという。「クラウドに移行することで、そうした複雑な作業を取り除くことができます」(スタニシュ氏)
続いて、スタニシュ氏は、同僚の1人がサーバ・エンジニア時代のデータセンターに冗長性を持たせる際の話を持ち出した。それによると「同僚が所属していた会社では、4日間道路を封鎖して、その下にファイバー・ケーブルを敷設し、再び道路を舗装し直すという作業を強いられたことがある」という。
「コロケーション・プロバイダーでさえ、ティア3やティア4のデータセンターを建設するのは一筋縄ではいきません。こうした冗長性の拡張も、クラウドであればボタンを1つクリックするだけで済みます。インフラを運営する上では、品質を考慮することは非常に重要です」(スタニシュ氏)
企業がクラウドへ「過剰支出」してしまうワケ
続いて、4つ目は「パブリック・クラウドへの支出が過剰である」点だ。スタニシュ氏は「パブリック・クラウドでよく見られる間違いは、多くの経費を使いすぎているということです。その主な理由は、クラウドの容量を最適化していないからです。データセンターと同じ感覚で運用していると、どうしても容量不足を心配しがちです。そのため、過剰なプロビジョニングがされがちですが、実際にはその必要はありません」と説明する。
また、クラウドへの過剰支出の理由として「キャパシティーの最適化の欠如」「コミットメントの管理の欠如」「コストに関する近代化」の3点を挙げている。
過剰支出を改善するためには、「規模を適正化してスケジューリングを行い、アナリティクス/自動化によって単価を統合する」「制度上の割引を利用し、プライベート・プライシング合意(PPA)を獲得する」「オートスケーリング、ネットワーク最適化、ストレージ・ライフサイクルの適用やサーバレスへの移行などでアーキテクチャーを見直す」ことなどを推奨している。
さらに、ガートナーが提供する「クラウド・コスト管理フレームワーク」の活用を奨めている。特定の割引や私的な価格協定などを達成したり、過去のデータを見て、今後必要となるものを把握し、より良い割引を達成したりするのに役立てられるという。
加えて、より戦略的で長期的な目標を達成するためには、クラウド・プロバイダーが提供する環境を最適化するために必要なツールを利用することも重要だ。
「クラウド・プロバイダーはプロビジョニングを過剰にしてリソースを浪費することを望んでおらず、データセンターを可能な限り効率的に利用することを望んでいます。彼らが提供してくれるツールを活用すれば、最初のアクション項目を見つける第一歩になるでしょう」(スタニシュ氏)
クラウドのコスト削減は即座には実現しない
5つ目は「特定の時点のみを測定している」点だ。スタニシュ氏は「クラウドのコスト削減は、即座には実現しない可能性があるのは事実です」と説明する。
「クラウドに移行し始めた段階では、コストが高くついてしまいます。それは、クラウドと並行して稼働しているインフラや、移行コストが加わるからです」(スタニシュ氏)
そして、1年目の運用を振り返って「クラウドに移行してインフラ費用が大幅に増えた。ひどい選択だった」というのは簡単だが、3年、5年後など長期的に運用していけば、クラウドの使い方がより賢くなり、コストが徐々に最適化されていくという。
「必要なワークロードのサイズを適切に設定し、過剰に消費したり過剰にプロビジョニングしたりすることがなくなると同時に、クラウド・プロバイダーとの付き合いが長くなることで、ボリュームディスカウントが適用され、クラウド・プロバイダーはより低価格で利用できるでしょう」(スタニシュ氏)
最後の6つ目は「機会費用を無視している」点だ。スタニシュ氏によると、これが最も重要なものだという。
クラウドに移行することで、担当者がこれまでになってきた「サーバ構築」「サーバのパッチ適用」「アプリケーションのデプロイ/アップデート」「ストレージ管理」「ライフサイクル管理」など、疲弊しがちな業務から解放される。
そして、クラウドに移行することで、オートメーションとDevOps、GitOpsとプラットフォーム・エンジニアリングなど、より価値の高い業務にシフトできる。「自組織が次のレベルのビジネス価値を提供し、I&O部門もこのような取り組みに対する評価を得ることができます」とスタニシュ氏は強調する。
ガートナーでは「2027年までに企業の全ワークロードの80%は、クラウド・インフラストラクチャーまたはプラットフォーム・サービスに展開される」と予測している。2023年の40%から大幅な増加が見込まれる中、「我々が歴史的に追跡してきたトレンドに沿った現象であり、クラウド環境に向かって物事が加速しているのを目の当たりにしています」との見解を示す。
「多くの企業・組織がクラウドに移行しています。例外も存在するので、すべてが完璧になるわけではありませんが、ワークロードの大半はクラウド上にある未来は訪れます。今から費用対効果を考え始めたほうが良いでしょう」(スタニシュ氏)
I&Oリーダーが今すぐ「やるべきこと」
最後にスタニシュ氏は、I&Oリーダーのための行動計画を提案した。それによると、クラウド・コストを抑制するための施策を直ちに実施すべきだという。具体的には、クラウド・プロバイダーの組み込みツールから着手し、予算アラートやその他の予防策を設置していくというものだ。
その上で、「オンプレミスの支出を正しく計算し、すべての経費を計上する」、「アプリケーションを近代化させ、クラウドネイティブ・テクノロジを最大限に活用する」ことなどのアクションを起こすべきだという。
「自社の差別化要因にならないものはクラウド上に置くなど、これまで見えていなかったコスト削減の可能性を理解していってほしいと思います」(スタニシュ氏)
※ 本記事は2023年12月12日-13日に開催された「ガートナー ITインフラストラクチャー、オペレーション & クラウド戦略コンファレンス」の講演内容をもとに再構成したものです。
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