大阪大学(阪大)は11月11日、作製が容易な周期スロット構造を窒化物半導体レーザーに適用することで、青色波長帯において小型で実用的な「波長可変半導体レーザー」(出力光パワーを一定に保ったまま発振波長を調整可能なレーザー)を実現したと発表した。
同成果は、阪大大学院 工学研究科の楠井大晴大学院生(研究当時)、同・上向井正裕助教、同・谷川智之准教授、同・片山竜二教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本応用物理学会誌の姉妹紙の応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。
紫外線は波長100~400nmの電磁波であり、波長が長い方から315~400nmの範疇はUV-A、280~315nmの範疇はUV-B、そして100~280nmの範疇はUV-Cと、3種類に大別される(紫外線全体の波長の範疇や、3種類の波長の区分は複数あり、ここでは気象庁に準拠)。このうち、UV-Bは長時間浴びると日焼けや水ぶくれの原因になるなど、生命にとって有害なことが知られている。それを利用し、現在は医療機関や公共機関などにおいて、波長222nmの紫外線(UV-Cの領域)を照射するエキシマランプや、波長265nm(UV-Bの領域)の深紫外光LEDを用いた殺菌や消毒が行われている。
しかし、エキシマランプは効率が低く寿命が短く、深紫外光LEDは人体に有害なため応用範囲が限られるなどの課題を抱えていた。また、非線形光学結晶を用いた波長変換による高出力深紫外光レーザーが産業用に実用化されているが、大型で高価なため、医療機関や公共機関などにおける殺菌や消毒といった用途には適していない状況だ。
そうした中これまでの研究において、小型で実用的なUV-Cの範疇に入る波長230nmの遠紫外光源を実現すべく、窒化アルミニウム導波路波長変換デバイスや、ストロンチウムとホウ素からなる酸化物の非線形光学結晶「SrB4O7」を用いた微小共振器型波長変換デバイスを提案・作製し、遠紫外光発生(波長230nm以下の第二高調波発生)を実証してきたのが、研究チームだ。しかし励起光源には大型・高価な超短パルスレーザーが用いられており、励起光源の小型化が必要不可欠だったといい、市販の青色半導体レーザーは多波長発振であり、単一波長発振および波長チューニングのための外部共振器構造を導入するとサイズが数十cm、価格が数百万円となってしまっていたのである。
そこで今回の研究では、長さ約1mmの青色半導体レーザーの内部に単一波長発振のための周期スロット構造と波長チューニングのための電極を導入することで、小型で実用的な波長460nm帯の青色波長可変半導体レーザーの実現を試みたとする。
まず、周期スロット構造における反射スペクトルが伝達行列法により計算され、各種パラメータが決定された。窒化インジウムガリウムレーザー用エピタキシャルウェハ上に、リッジ構造と周期スロット構造が電子ビーム描画と反応性イオンエッチングにより形成された。電極を形成後、劈開・端面コーティングが施され、周期スロット半導体レーザーが完成となった。
次に、その周期スロット半導体レーザーのリッジ構造にのみ電流が注入され、単一波長レーザーの発振が確認された。その後、周期スロット構造に注入する電流を徐々に増加させ、波長可変特性が得られたといい、これにより青色波長帯で初となる波長可変半導体レーザーが実現された。
開発された窒化物半導体波長可変レーザーは可視光域(およそ400~800nm)のうちの405nm帯(紫の範疇)で発振するが、この構造を波長460nm(青の範疇)帯レーザーに適用することは容易とのこと。このレーザーと研究チームが開発した新規構造波長変換デバイスを組み合わせることで、小型で実用的な遠紫外光源の実現が可能となるとする。これは人体に無害なため、これまでできなかった室内の常時殺菌・消毒が可能となるとした。また小型で長寿命のため、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品にも内蔵でき、社会に与える影響は非常に大きなものとなるとする。
また今回のレーザー技術は、この宇宙に反物質が極めて少なく、圧倒的に物質優勢であることの謎に迫るのにも役立つという。その謎を解明できるかもしれない鍵が、原子核崩壊事象の「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊」にある。この崩壊事象の研究には、カルシウムの放射性同位体「48Ca」を大量に用いることが効果的だが、天然同位体比が0.2%しかなく、この同位体比を上げるために、波長422.792nmの連続発振高出力レーザーを用いたレーザー同位体分離法の実用化が期待されているからだ。このように今回の技術は、基礎物理研究の発展にも大きな効果があるとしている。
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