2024年12月20日金曜日

リチウムイオンバッテリーの経済的なリサイクル手法を考案――華中科技大学

 https://engineer.fabcross.jp/archeive/240510_lithium-recycling.html


CREDIT: ©SCIENCE CHINA PRESS

華中科技大学の研究チームは2024年3月28日、使用済みバッテリーの正極材料から常温で直接リチウム金属を化学的に抽出するプロセスを開発したと発表した。多環芳香族炭化水素試薬とエーテル系溶剤から構成される抽出溶液を用い、従来の湿式精錬手法に比べて簡単で高効率、低エネルギー消費の化学リーチングプロセスを考案したものである。持続可能で優れたリチウム源を提供するとともに、回収されたリチウムが活性であって自発的な酸化還元反応を通じてリン酸鉄リチウム陰極材料を直接合成できるなど、高い経済性と実用性を持ち、リチウムイオンバッテリー(LIB)の持続可能な発展を促進すると期待される。研究成果が、2024年2月27日に『Science Bulletin』誌にオンライン公開されている。

LIB市場の旺盛な拡大によって、リチウム資源に対する需要が高まっている。使用済みLIBの陰極材料からリチウム金属をリサイクルする湿式精錬手法が確立されているが、金属のリーチングや析出、分離、高純度化など複雑な多段階プロセスから構成されており、経済性にはまだ改善の余地がある。

研究チームは、大量に発生する使用済みLIBから効率的にリチウムをリサイクルする経済的な手法について研究してきた。分子構造特性をベースにさまざまな酸化還元電位と溶解度を持つ抽出溶液をスクリーニングし、リチウムとの結合メカニズムについて調べるとともに、酸化還元電位と抽出効率の関係を系統的に解析し、理論計算と組み合わせて最適な抽出溶液を探索した。

その結果、多環芳香族炭化水素試薬とエーテル系溶剤から構成される抽出溶液により、使用済みLIBからリチウムを常温で直接抽出する、極めて簡単で高効率、低エネルギー消費の化学リーチング手法を考案することに成功した。回収リチウム材料の物理化学的および電気化学的分析評価によって、持続可能で優位性の高いリチウム源を提供できることを明らかにした。

さらに、この手法により得られたリチウムは活性であって、自発的な酸化還元反応を通じてリン酸鉄と反応し、直接的にリン酸鉄リチウム陰極材料を合成できることがわかった。近年、リン酸鉄リチウム陰極を活用したリン酸鉄リチウムイオンバッテリーが、熱安定性が高く高温環境においても安全に動作することから、自動車や工業機械などに用いられるようになっているが、研究チームは開発した回収プロセスにより得られたリン酸鉄リチウム陰極材料を用いて作製した56Ah角型LIBセルにおいて、最大容量の90%を1200サイクル後も保持する安定したサイクル性能を示すことを確認した。市販バッテリーからのリサイクルによりリン酸鉄リチウム陰極材料を大規模に合成でき、実用性の高さが実証された。

研究チームは、開発されたリチウム抽出手法は閉ループシステム内で作動し、環境汚染の可能性を極少化するとともに、リチウム抽出溶液は再使用に向けて繰返し使用できると説明し、LIBの持続可能な発展を大いに促進すると期待している。

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使用済みリチウムイオンバッテリーの性能を元に戻すリサイクル技術の開発

Credit: KOREA INSTITUTE OF ENERGY RESEARCH

韓国の国家科学技術研究会(NST)は2024年11月13日、韓国エネルギー技術研究院(KIER)の研究チームが、使用済みリチウムイオンバッテリー(LIB)から正極材料をリサイクルする、環境に優しく費用対効果の高い技術を開発したと発表した。

電気自動車(EV)やモバイル機器の増加に伴い、使用済みLIBの管理は世界的に重要な課題となっている。2040年までに廃車となるEVは4000万台を超えると予想されており、廃棄LIBが急増する見込みだ。LIBに含まれる金属は土壌や水質を汚染するため、LIBのリサイクルシステムが必要とされている。

従来のリサイクル技術では、使用済みLIBを粉砕し、化学処理によってリチウムやニッケル、コバルトのような有価金属を抽出するのが一般的である。しかし、従来の処理方法は、高濃度の化学薬品と高温環境を要し、多くの廃水とエネルギー消費を伴う。

研究チームは、従来のリサイクル方法の課題を克服する、使用済みLIBの正極材料を単純な方法で直接リサイクルする技術を開発した。同手法は、常温常圧下で修復溶液に浸すことで、使用済み正極を元の状態に戻し、リチウムイオンを効率的に補充できる。

同手法は、修復溶液内で2つの異なる材料が接触したときに、一方の材料が他方の材料を選択的に保護する電解腐食現象を利用した技術だ。使用済みLIBの集電体電極であるアルミニウムが修復溶液中の臭素イオンと反応して電解腐食を起こす。反応中、電子がアルミニウムから使用済み正極に移動し、還元反応を起こすとともに、電気的中性を保つために修復溶液中のリチウムイオンが正極に補充され、正極を元の状態に戻す。

研究チームは電気化学的性能テストを実施し、修復された正極が新しい材料と同等の容量であることを確認した。さらに、同手法は、使用済みLIBの分解を必要とする従来のリサイクル方法と異なり、修復反応を電池セル内で起こせるため、リサイクル過程を大幅に効率化できる。

KIERの上級研究員Jung-Je Woo博士は、「廃棄されたEVバッテリーを直接リサイクルする技術は、炭素排出量を大幅に削減し、循環型資源経済を確立する大きな可能性を持っています」と説明した。

同研究成果は2024年9月27日、『Advanced Energy Materials』誌に掲載された。

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Developing advanced recycling technology to restore spent battery cathode materials | EurekAlert!


超音波で100倍効率アップ、EVバッテリーの新しいリサイクル方法を発表

CREDIT: UNIVERSITY OF LEICESTER

英レスター大学らの研究チームは、超音波を利用した新しいバッテリーリサイクル方法を発表した。使用済みのリチウムイオンバッテリー(LiB)から高純度の電極材料を回収できるだけでなく、従来のリサイクル工程と比べて100倍効率的で環境にも優しい。研究結果は、2021年6月10日付の『Green Chemistry』に掲載されている。

英ファラデー研究所では、電気自動車のバッテリーが環境や経済に与えるメリットを確実にするため、バッテリーの初回製造から二次的な用途としての再利用、最終的なリサイクルまで、バッテリーのライフサイクルに焦点を当ててきた。

使用済みLiBのリサイクル工程では、粉砕や熱処理によって電極材料である活物質を回収することが多い。しかし、この工程は大量のエネルギーを必要とし効率も悪い。さらに効率的なリサイクルの妨げとなっているのが、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトといった重要な活物質の分離だ。もし、バッテリーを粉砕するのではなく分解すれば、より純度の高い活物質が回収できる。

同研究所のRecycling of Lithium-Ion Batteries(ReLiB)プロジェクトに参加しているレスター大学とバーミンガム大学の研究者らは、超音波による層間剥離技術を利用して接着剤を剥がし、電極から活物質を吹き飛ばすことに成功した。そのプロセスは、一般的にNMCとして知られる三元系正極材のリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物やグラファイトを除去するのに非常に効果的だと示された。

実験ではまず、電気自動車のバッテリーパウチを分解してアノードシートとカソードシートに分けた。アノードは銅箔、カソードはアルミ箔で、その表面は活物質でおおわれている。それぞれのシートを超音波装置にかけると、わずか数秒で従来の手法より100倍多い活物質を剥がすことができた。高濃度の酸を使う剥離方法と違い、溶媒に水や低濃度の酸を使うため、より環境に優しくコストも抑えられる。

「バッテリー製造工場のスクラップ品にこの技術を利用すれば、リサイクルした材料をそのまま生産ラインへ送れる可能性がある。これはバッテリーリサイクルにおける真の変革となり得る」と、研究チームを率いるレスター大学のAndrew Abbott教授は語る。

研究チームは既にこの技術に関する特許を申請しており、2021年の試験機導入を目指して、バッテリーメーカーやリサイクル企業と協議している。

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リチウムイオン電池リサイクルの課題と今後の取り組みについての総説を発表

独ミュンスター大学を中心とする研究チームが、リチウムイオン電池リサイクルの発展についての総説を発表した。2022年1月10日付で『Advanced Energy Materials』に掲載されたこの総説では、電池リサイクルのための新しい材料コンセプトの課題、持続可能な電池経済の有望なアプローチとしての「リサイクルのための設計」、そしてアメリカ、欧州連合(EU)、中国におけるリサイクル法規制や新しい電池についての指令の必要性について概要が示されている。

電池の循環型バリューチェーンには、環境保護や経済面において非常に大きな可能性がある。再生材料を使用することで、原材料のコストを削減できるだけでなく、電池生産で必要となるエネルギーの節約も可能になる。そのため、リチウムイオン電池のリサイクル技術向上について取り組みが続いているが、現在のところ成熟しているとは言い難い状況だ。そこで、現在の状況を分析し、改善して、将来の電池化学や電池部品に適応させる必要がある。

今回の総説では、電池材料と化学組成に関して将来の電池リサイクルの課題に関連する予測を示し、電池リサイクルへの将来の取り組みについて考察している。

材料に関する課題については、活物質として複数の材料の混合物が使用されていることが多いため、リサイクル効率を高くしたり異なる原材料の純度を高めたりすることが難しくなっていることが挙げられている。さらに、リン酸鉄リチウム(LFP)などの一部の活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)に比べて本来の材料価値が低い。そのため、このような材料をリサイクルする際の収益性は低くなる。

研究チームは、既存の課題や新規の課題を克服するためのアプローチの1つとして、「リサイクルのための設計」というコンセプトがあるとしている。これは、モジュールやセルとの間のねじ接続や結合を標準化し、セル分離のオートメーション化を容易にすることを目的としている。さらに、このアプローチは材料の設計も含んでいる。例えば、リサイクルの際に有害となる可能性がある高価な溶剤を削減するために、電極材料用に水系バインダーシステムが開発されようとしている。

もう1つの可能性は、直接リサイクルだ。このプロセスでは、主にカソードに使われている活物質を、使用後に再リチウム化して復活させ、新しい電池の中に直接組み入れる。この際、材料の完全な再合成は必要ない。

以上で挙げた工程やその他の工程は、世界の一部地域では電池のリサイクルに関する法律で定められている。EUと中国では、「拡大生産者責任(EPR)」に従って、電池の生産者が財政的にも物理的にも電池のリサイクルに対して責任を負う。また、使用済み電池の回収率、材料の回収目標、表示基準についての規制もある。

一方、アメリカでは、特にニッケルカドミウム電池と鉛蓄電池のリサイクルに重点が置かれており、リチウムイオン電池のリサイクルを含む包括的な要件は、今のところ4つの州でのみ効力がある状況だ。

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バッテリーの新しいリサイクル方法を開発――金属回収率98%を達成 米ライス大

米ライス大学の研究チームは、バッテリー廃棄物から精製された活物質を抽出する新しい方法を開発した。「フラッシュ・リサイクリング(flash recycling)」と名付けられたこの方法は、貴重なバッテリー材料の効果的な分離やリサイクルを低コストで促進し、電気自動車(EV)のより環境に優しい生産に貢献する可能性がある。研究成果は、2024年7月24日付で『Nature Communications』に掲載された。

バッテリー廃棄物が蓄積し続け、バッテリー用の金属資源が徐々に枯渇しているため、寿命が尽きたリチウムイオン電池の効果的なリサイクルは不可欠だ。特に、バッテリーを搭載するEVの利用が急増しており、バッテリーの持続可能なリサイクル方法の開発が急務となっている。従来のバッテリーリサイクル技術は、エネルギーを大量に消費する熱処理や化学処理によってバッテリーの材料や廃液を処理するが、コストがかかり環境にも大きな影響を及ぼす。

研究チームは、リチウムイオン電池を効率的にリサイクルするという環境問題に取り組んでおり、無溶媒の「フラッシュ・ジュール加熱(Flash Joule Heating:FJH)法」と磁気分離を組み合わせることで、使用済みバッテリー材料の分離と精製が容易になると考えた。

FJH法は、適度な抵抗を持つ材料に電流を流して急速に加熱し、材料を異なる物質に変換するというものだ。FJHにより、バッテリー廃棄物を数秒で2500ケルビン(約2227℃)まで加熱して、磁性シェルと安定したコア構造を生成し、磁気分離により効率的な精製ができるようになった。

この処理プロセスでは、一般的にEVで使われているバッテリーのコバルトカソードが外側のスピネル酸化コバルト層で磁性を示し、容易に分離できるようになった。バッテリー構造を維持しながら、98%という高い金属回収率を達成できたという。

さらに、FJH後のカソードは無傷で安定したコア構造を保っていることから、新しいカソードへの再構成が実現する可能性があることを示している。再リチウム化されたカソードをリチウムイオン電池に使用すると、新品の市販品と同等の優れた電気化学性能を示すという。

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わずか20分で廃バッテリーから98%の金属材料をリサイクルする技術を開発

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高性能充電池に必要なレアメタルは、クリーンエネルギー技術の成長とともに今後数十年にわたり増加する見込みだ。アメリカのライス大学の研究チームは、「ブラックマス」と呼ばれるリチウムイオン電池を熱処理した粉末から、直接金属を回収する技術を開発したと発表した。わずか20分で98%以上の金属を回収することができ、コストも低い。コバルトやニッケルのようなレアメタルは、天然鉱石よりもリチウムイオン電池に含まれる割合が高い。そのため、使用済みバッテリーのリサイクルは採掘による環境への影響を軽減するだけでなく、経済的にも魅力的と言えるだろう。研究成果は、『Science Advances』誌に2023年9月27日付で公開されている。

バッテリーのリサイクルは、現在大きな問題となっている。電子機器のバッテリー廃棄物が年間9%の割合で増加しているにもかかわらず、95%のバッテリーはリサイクルされていないのが現状だ。

研究チームが開発したバッテリーリサイクル技術は、「フラッシュジュール加熱」という技術を応用している。正極と負極の材料が混合した状態であるブラックマスを数秒間、2100K以上に加熱することにより、バッテリー金属上の不活性層を除去し、酸化状態を低下させて、低濃度の酸で溶解できるようにする。

強力な酸を使用する従来法と比較して、新しい手法は二次廃棄物である酸性浸出液の排出量を大幅に削減するだけでなく、リサイクルにかかる時間を約100分の1に短縮することが可能だ。さらに従来法では金属の溶解に24時間必要だが、新手法では20分もかからない。研究チームによると、エネルギー、水、酸の消費を削減し、二酸化炭素排出量を減らすことで、バッテリー廃棄物のリサイクルコストを削減できる可能性を秘めているとしている。

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