2019年7月5日金曜日

国産戦闘機F-3が上手くいかない3つの理由

勉強の為に転載しました。



文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・世界一の国産戦闘機製造の構想。
・純国産開発にはF9エンジン・ES探知器材が不可欠。
・予想される高コストにどう取り組むのか。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43143でお読みください。】

国産戦闘機F-3を作る話がある。空自は新戦闘機導入を検討している。それを純国産で開発する構想だ。従来の国産戦闘機F-1、F-2に続く機体となるため巷間ではF-3と通称されている。
構想は世界一流を目指すとされている。純国産エンジン、レーダを装備した世界一のステルス戦闘機を作りだす。そのように夢想されている。
だが、国産戦闘機の見込みはうすい。なぜならエンジン選定、ステルス戦対応、そしてコスト面に課題を抱えているからだ。

■ エンジンがコケればF-3もコケる
純国産開発には3つの課題がある。
その第1は国産エンジン依存である。
構想は国産エンジンF9を前提としている。これは小直径ながらハイパワーを売りとしたジェットエンジンだ。サイズは米F-18戦闘機で使用する中規模エンジンF414と同等やや大きい程度である。それでいながらパワーは1.5倍、15トンの推力を出す計画だ。これはF-35戦闘機用に肉薄する数字だ。それにより「新戦闘機は高性能を発揮できる」と主張されている。重量や空気抵抗、ステルス性で有利な小型機体にハイパワーを与えられるからだ。だが、このF9エンジンがコケたらどうなるだろうか?
計画は行き詰まる。代替品がないからだ。
F-3戦闘機に入る大きさの代替エンジンではパワー不足となる。機体は小直径のF9エンジン合わせだ。だから代替としても小直径エンジンしかはいらない。そして、そのようなエンジンではF9の推力15トンは達成できない。前述のF414では最大出力は10トンと2/3である。逆に推力15トン級以上のエンジンはF-3に入らない。F-35戦闘機用のF135エンジンやF-15戦闘機用のF110エンジンは直径でだいたい20センチ大きいのだ。
▲写真 戦闘機用エンジン XF9-1 F-9エンジンは試作中である。実用機搭載の試験を経ておらず信頼性は未知数である。そのため「平成の誉」となる可能性も高い。写真はXF-9「戦闘機用エンジンシステムの研究試作(プロトタイプエンジン)の納入について」 出典:防衛省,2018.6.29

■ 実物がない
そしてF9エンジンがうまくいく確証もない。
そもそも開発中であり実物はない。試作型のXF9が1基あるだけだ。しかも実物の戦闘機に取り付けてもいない。海山つかない段階である。F9エンジンが空中で確実動作するかの確証もない。陸上試験台の上では順調に回っただけだからだ。
だがF-3構想では見切り発車で搭載を決めた。唯一の選択肢とした。その点で危うい。
旧日本軍隊の誉エンジン採用機のハライタを繰り返すかもしれない。「小直径でありながら大出力を出せる」と全く同じ触れ込みで大規模導入が決まった。だが実物は性能未達成かつ信頼性不十分となった。搭載機はエンジン不調で悩まされたのだ。

■ コバート戦能力が実現するか?
第2の課題はステルス戦対応だ。F-3構想はステルス戦闘機を目指している。だが、必須のコバート戦能力が付与できるかは怪訝である。
ステルス戦闘機はコバート戦を目指す。これは「自分の存在を秘匿したままでの戦い」だ。*1 常に不意打ちできるので敵を圧倒できる。それがステルス戦の有利である。
そのためレーダは多用できない。強力な電波を撒き散らしステルス性を損なうからだ。
だからES探知機材が必要となる。これは敵レーダや敵通信等を逆探知する器材だ。それを光学センサや味方レーダとの情報共有と併用してコバート戦を実現する。
しかし、日本はこの戦闘機用ES探知器材を作れない。
▲写真 EP-3 自衛隊は仮想敵国装備の電波情報を収集している。例えば海自のEP-3は中国やロシア海軍の実弾演習を公海上からスパイして情報を入手する。だが、内陸で行われる戦闘機情報を集めるのは難しい。 出典:海上自衛隊ホームページ「装備品」よりEP-3
受信機そのものは作れる。電波の飛来方位や方位変化によるパッシブ・レンジング、さらに信号強度や周波数スペクトラムと時間軸変化の分析する程度の器材は開発できる。
ただ、日本には肝心の戦闘機や戦闘機用ミサイル電波のデータベースがない。
だから「その電波が何か」がわからない。「敵戦闘機の電波である」か「それ以外のレーダか」を照合判断ができない。だからあまり役に立たない。
このデータベースは作ろうとしても作れない。中国やロシア戦闘機の攻撃訓練やミサイル実射は概ね内陸で行われる。領海外からスパイする自衛隊の電波監視機では蒐集できないのだ。
このES器材不備もF-3構想を怪しくする。レーダの次に有力な探知手段である。その欠落は光学センサほかでは補いきれない。

■ コスト抑制がない
第3はコスト抑制の不存在だ。F-3は高コスト要素を多数含んでいる。だが、それを抑える工夫や見込みはどこにもない。その点でも構想は険しい。
まず、双発のため高くなる。大出力国産エンジンF9はどうしても高くなる。さらにそれを1機あたり2ヶ搭載するのだ。予備を含むエンジン代だけでも馬鹿にならない。
また、レーダも高くなる。半導体を用いた直接発振方式が構想されている。真空管式と比較して故障は減り寿命は伸び発振効率も上がるが価格も上がる。その上、日本独自のネットワーク開発費も追加される。
▲写真 F-2 F-2戦闘機も少数生産で価格は高騰した。なにより価格低減の試みはなかった。例えば機体を金属で作り、操縦系統を光ファイバではなく電線とし、航続距離延伸も背部燃料タンク増設で解決すれば安くつくれしかも長持ちしただろう。出典:航空自衛隊ホームページ「主要装備 F-2A/B」
F-3構想にはクラウド・シューティング能力付与が含まれている。自分が探知した目標を別の戦闘機のミサイルで攻撃する。あるいは飛んでいる自軍ミサイルの目標を任意に変える。まずはそのような技術だ。
もちろん能力としては結構である。米海軍の分布式殺傷、Distributed Lethalityでも似たような技術導入が見込まれている。時代には即している。だが、その実現には専用器材が必要となる。遅延がないリンクや対応ミサイルだ。これも国産ではいくらになるかわからない。
つまりF-3戦闘機はどうやっても高くなるのだ。
そして、その高コストを逓減する工夫や見込みはない。生産規模100機、多くても200機ではスケールメリットも生まれない。開発費の頭割りも過重となり量産効果もさほど見込めない。
この点でもF-3は危うい。「導入中のF-35戦闘機を買い増したほうがマシ」と判断される。開発費もかからない上、性能も確定しており納期も見えている。*2

*1 コバート戦は、80年代に対潜戦概念として生まれた用語である。それを仮借した。
*2 日米、日英共同開発も価格や納期からF-35に対して不利であり現実味はあまりない。開発元ほかは「安くできる、納期は守る」と宣伝するが戦闘機開発が安く済んで締切を守れた試しはない。
トップ写真:国産兵器は軍事ファンの関心に応える。勝手に万邦無比の高性能とヨイショされ不都合は意識的に見おとされる。写真はステルス実証試験機X-2、先行する諸外国の焼き直しだがやはりヨイショされた。出典:WIKIMEDIA; Hunini

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