過去に不祥事や失言が問題になった議員が次々と入閣した第4次安倍再改造内閣。自身の公式ツイッターでブロックを連発する河野太郎氏が防衛大臣に、実績ゼロの小泉進次郎氏がいきなり環境大臣に抜擢されるなど、ツッコミどころ満載だが、早々にボケをかましてくれたのは科学技術・IT担当大臣の竹本直一氏だ。
◆在日外国人からも呆れ声
自身の公式サイトが閲覧不能になっていたことについて、「なぜロックされているかよく分からない」と、IT担当大臣としていきなり先行き不安な発言をしたことだけではない。ご存知の方も多いだろうが、記者会見で突然「行政手続きのデジタル化と書面に押印する日本古来のはんこ文化の両立を目指す」と言い始めたのだ。
各種機関での手続きではんこが必要となることについては、たびたび議論が沸き起こっていたが、デジタル化を推進するはずの大臣がこんなことを言い始めたのだから、疑問が浮かぶのも当たり前だ。
また、はんこ文化はそもそも大陸から渡ってきたもので、それを「日本古来の」と表現するのにも首を傾げてしまう。
さらに問題となったのは、竹本大臣が通称「はんこ議連」の会長であることだ。こうなると公私混同もいいところ。文化というより利権を守ろうとしているようにしか聞こえず、およそ公益のことを考えているとは感じられない発言だ。
そんな竹本氏の発言にはSNS上でも批判的なコメントが見られたが、これに対して憤っているのは日本人だけではない。在日外国人たちに話を聞くと、彼らからも呆れる声があがった。
◆今は何世紀なんだ!?
まずは日本でビジネスをスタートさせているアメリカ人男性のJさん(男性・38歳)だ。
「日本に来てから、“お役所仕事”にはいつもイライラさせられます。そのなかでも一番ナンセンスなのが書類に押すはんこです。あんなものいくらでも偽造できますし、結局身分証を見せなきゃいけなんだから、セキュリティ面での意味はまったくありません。
今であればウェブ上でより安全かつ早くできることを、いちいち役所の窓口に行ってはんこを押した書類を出さなきゃいけない。いったい、今は何世紀なんだと思わされます。だいたいその書類も今は都合が悪いとすぐ役所側が廃棄するじゃないですか。これじゃ何かトラブルになったときも、何の証拠にもなりません」
はんこ文化自体を全否定するわけではないが、それを公共機関が率先して推し進めていることに対して、怒りを感じているようだ。
「最先端の分野にそれまでまったく畑違いの78歳のおじいさんをつけるところが、日本らしいですね。今回の発言も本人はもちろん、彼を選んでる人こそがおかしいですよ」(Jさん)
◆外国人ははんこ作りも大変
また、外国人ならではの悩みもあるようだ。同じくアメリカ人のPさん(男性・37歳)は次のように語る。
「日本人であれば苗字なんてせいぜい3文字程度じゃないですか。欧米人はカタカナに直しても文字数が多いから、収まらないんですよ。そもそもそこらへんで売っていないから、いちいち特注ではんこを作らなきゃいけなくて大変なんです。しかも、わざわざ作って持っていったのに、今度は大きさが違うとか言われて、また作り直して……。いい加減にしろよと思いますね」
「決まりだから……」というのはお決まりのセリフだが、その決まりを変えるのが仕事である大臣がこの体たらくでは、文句を言われても仕方ないだろう。
◆海外資本が遠のく原因に
仕事で日本と海外を行き来しているHさん(イギリス人・男性・53歳)は、はんこ文化は日本経済の足手まといになっていると指摘する。
「会社にもはんこが必要、さらにそのなかの従業員のはんこも必要……。といったように、はんこ文化にはキリがありません。そんなことをやっていると時間もかかるし、手続きを任せるとなると余計にカネもかかる。海外資本が遠のいてしまう原因にもなると思います。
多くの人が薄々無意味だと気づいているし、論理的には必要性が説明できないけど、文化だなんだといって結局続いてしまう。でも実際は既得権益を守ろうとしているだけ。今の日本を象徴するという意味では、たしかにはんこは文化的かもしれませんが……」
今回の人事や大臣の発言を見ても、はんこと紙の書類がデジタル化する日はまだまだ遠そう。この改造内閣は、こんな実務にも関わることは変えようという気持ちすらないくせに、無意味かつ有害な「憲法改正」を進めようというのだから困ったものである。
<取材・文/林 泰人>
【林泰人】 ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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