2023年2月8日水曜日

海水電解により過酸化水素水を製造すると、 有害な有機ハロゲン化合物が混入し、環境に悪影響を与 えていた。本発明は有機ハロゲン化合物を含まない過酸 化水素水を製造できる方法を提供する。 【解決手段】 分岐海水に、ストレーナーによる機械的 な分離、海水中のフロック等の凝集後の分離、海水を活 性炭処理等の化学的分離、紫外線照射による分解などの 各種処理を行って、前記分岐海水中の有機化合物を除去 した後に、該分岐海水を、酸素ガスが供給されている電 解槽へ供給する。電解槽で海水中の塩素イオンに起因す る塩素ガスや次亜塩素酸イオンが生成するが、原料であ る有機化合物が存在しないため、有機ハロゲン化合物が 生成せず、有害成分を含まない過酸化水素水が得られる。

https://patents.google.com/patent/JP2002053990A/ja 

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機化合物とハロ
ゲンを含有する電解水からトリハロメタン(THM)等
の有機ハロゲン化合物を生成することなく過酸化水素水
を電解製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】産業及び生活廃棄物に起因する大気汚染
や、河川及び湖沼の水質悪化などによる環境や人体への
悪影響が憂慮され、その問題解決のための技術対策が急
務となっている。例えば飲料水、下水及び廃水の処理に
おいて、その脱色やCOD低減及び殺菌のために塩素な
どの薬剤が投入されてきたが、多量の塩素注入により危
険物質つまり環境ホルモン(外因性内分泌攪乱物質)、
発ガン性物質などが生成するため、塩素注入は禁止され
る傾向にある。過酸化水素は、食品、医薬品、パルプ、
繊維、半導体工業において不可欠の基礎薬品として有用
であり、特に今後の用途として電子部品の洗浄や、医療
機器、設備の殺菌処理などが注目されている。この過酸
化水素は現状ではアントラキノン法により大量に合成さ
れている。
【0003】従来から、例えば冷却水として海水を使用
する発電所や工場では、復水器内部への貝類や藻類等の
生物付着を防止するために、海水を直接電解して次亜塩
素酸を生成させ、該次亜塩素酸を有効利用することが試
みられている。しかし次亜塩素酸をそのまま放流するこ
とは、次亜塩素酸自体、及び分解により生成する有機塩
素化合物や塩素ガスが有毒で環境保全上問題があり、そ
の規制が強化されつつある。一方微量の過酸化水素を前
記冷却水中に添加すると、良好な生物付着防止効果があ
ることが報告され、又養魚場の水質維持にも過酸化水素
の添加が効果的であるという報告がなされている。しか
も過酸化水素は分解しても無害な水と酸素に変換される
のみで環境衛生上の問題も生じない。
【0004】しかしながら過酸化水素は不安定であり、
長期間の保存が不可能であるため、又輸送に伴う安全
性、汚染対策の面から、オンサイト型装置の需要が高ま
っている。そしてこのオンサイトで過酸化水素を製造す
る手法として電解法が提案されている。電解法はクリー
ンな電気エネルギーを利用して、電極表面で化学反応を
制御することにより、過酸化水素の他にも水素、酸素、
オゾン等を製造できる。陽極での酸化反応では、水処理
に有効な酸化剤(有効塩素やオゾンなど)やOHラジカ
ルなどの活性種が生成し、活性水、機能水、イオン水、
殺菌水などの名称で汎用されている。陰極反応は通常は
水電解による水素発生であるが、酸素が存在すると酸素
ガスの還元反応が優先的に進行して過酸化水素が生成す
る。
【0005】電解による過酸化水素の製造に関しては、
Journal of Applied Electrochemistry Vol.25, 613 〜
(1995)に各種電解生成方法が比較して記載され、これら
の方法ではいずれもアルカリ水溶液の雰囲気で過酸化水
素が効率良く得られるため、原料としてのアルカリ成分
を供給する必要があり、KOHやNaOHなどのアルカ
リ水溶液が必須となる。又過酸化水素による有機化合物
分解の例としてホルムアルデヒド分解がJournal of Ele
ctrochemical Society, Vol.140, 1632 〜(1993)に記載
されている。更にJournal of Electrochemical Societ
y, Vol.141, 1174 〜(1994)には、純水を原料としイオ
ン交換膜を用いる電解でオゾンと過酸化水素をそれぞれ
陽極及び陰極で合成する手段が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】海水を電解水として使
用し陰極側に酸素を存在させた状態で電解処理を行う
と、生成する過酸化水素が海水中に溶解して過酸化水素
水が生成し、該過酸化水素及び該過酸化水素とともに生
成するスーパーオキシドアニオン(O) が海水中の
微生物等を殺菌して純度の高い過酸化水素が得られる。
しかし海水を電解すると海水中のハロゲン化物イオン、
つまり塩化物イオン、、フッ化物イオン、臭化物イオン
及びヨウ化物イオンが陽極で酸化されて塩素ガス等のハ
ロゲンガスや次亜塩素酸等の次亜ハロゲン酸を発生させ
る。これらの塩素ガス等を発生させにくい電極を用いて
も、又陽イオン交換膜を使用して陰極側を塩素ガス発生
サイトである陽極と分離しても塩化物イオンの酸化は完
全には防げない。
【0007】そしてこの塩素ガス等は海水中の有機化合
物と反応して有害なTHMを生成する可能性が高い。T
HMの生成を防止するには、水素ガス陽極を使用し水素
ガスを供給しながら水処理を行えば良く、これにより塩
化物イオンの酸化つまり塩素ガスや次亜塩素酸の生成が
抑制され、従ってTHM生成の原因が除去できる。しか
しこの方法では、水素ガス陽極の設置と水素ガス供給に
関するコストが嵩み、経済的な方法とは言いがたい。又
電解水中の有機化合物は、その一部が陽極で酸化分解す
ることが知られているが、有機化合物濃度が低く酸化分
解の効率が低いため完全には二酸化炭素までは分解され
ず、又塩素ガス発生が優先してTHM生成を促進するた
め、電解水中の有機化合物を陽極分解して除去すること
は実用的ではない。
【0008】このように有機化合物とハロゲン化物イオ
ンを含有する電解水を電解して過酸化水素水を製造する
際には、従来はTHM等の有機ハロゲン化合物の生成が
不可避であり、環境衛生的に大きな問題となっている。
本発明は、有機化合物とハロゲン化物イオンを含む電解
水から、THM等の有機ハロゲン化合物を実質的に含有
しない過酸化水素水を製造する方法を提供することを目
的とする。
【0009】
【問題点を解決するための手段】本発明は、有機化合物
とハロゲン化物イオンを含有する電解水を電解槽へ供給
し電解して過酸化水素水を製造する方法において、電解
槽への供給前に電解水中の有機化合物を除去することを
特徴とする過酸化水素水の製造方法である。
【0010】以下本発明を詳細に説明する。本発明で
は、電解水中に溶解し、THM等の有機ハロゲン化合物
の生成要因である有機化合物とハロゲン化物イオンのう
ちの有機化合物を前記電解水を電解槽へ供給する前に電
解水から除去して、有機化合物を含有しない電解水とし
て電解槽に供給しかつ電解することにより有害な有機ハ
ロゲン化合物を副生することなく、過酸化水素水を得る
ことを特徴とする。本発明における電解水は、好ましく
は海水である。海水中に存在する全有機炭素量(TO
C)は場所にも依るが、10ppm 程度である。公共用水域
におけるトリハロメタン化合物についても人体、生物系
への影響を与えないための規制値が示されている。例え
ばトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンの規制値
はそれぞれ0.03、0.01mg/l以下である。従って海水中の
有機物(TOC)成分と電解によって生ずる塩素ガス、
次亜塩素酸との反応により、あるいは直接の電解酸化反
応によりそのままでは有効塩素成分と有機炭素成分との
反応により生ずるTHMを基準値以内に維持することは
困難である。10ppm 程度のTOCを有する海水を電解す
ると、塩化物イオンの酸化により生成する塩素ガスや次
亜塩素酸が有機化合物を塩素化してTHMを生成するた
め、通常の海水電解ではTHMの生成は不可避である
が、本発明ではTHM生成の要因である有機化合物とハ
ロゲン化物イオンのうち有機化合物を電解水の電解槽へ
の供給前に除去することにより、THM生成を伴うこと
なく過酸化水素水を製造することを可能にしている。
【0011】有機化合物を除去した本発明の電解水を使
用しても陽極酸化により塩素ガスや次亜塩素酸は生ずる
が、目的生成物である過酸化水素が塩素ガス等と迅速に
反応してほぼ完全に消失する。従って生成する過酸化水
素水は有機化合物だけでなく塩素ガスや次亜塩素酸イオ
ンも実質的に含有しないので、得られる過酸化水素水を
処理前の海水と混合しても実質的なTHM生成は起こら
ない。そのため、大量の過酸化水素含有海水を製造する
際には、原料海水の一部を分岐させて、該分岐海水中の
有機化合物を予め除去し、その後電解により過酸化水素
を発生させかつ該分岐海水中に溶解させて過酸化水素含
有分岐海水とし、この分岐海水を前記非分岐海水と混合
すると希釈されたかつTHM等を含まない過酸化水素含
有海水が得られる。
【0012】生物の繁殖を抑制できる海水中の過酸化水
素注入量は約1ppm であり、電解により得られる過酸化
水素水の濃度は約1000ppm である。従って電解で生成す
る過酸化水素水は1000倍に希釈しても生物繁殖を有効に
抑制でき、つまり海水の1000分の1を分岐させて電解し
た後、非分岐の1000分の999 の海水と混合すると必要濃
度の過酸化水素を溶解した海水が得られ、最小限の海水
電解で所望の過酸化水素水が得られる。又電解後の海水
を1000倍に希釈するとその中に含まれるTHM等も1000
倍に希釈されることを意味し、仮に電解後の海水にTH
Mが10ppb 含有されていると仮定すると、1000倍希釈後
のTHMは0.01ppb という極低レベルになる。更に電解
処理される海水は全体の0.1 %であり、海水の水質には
殆ど影響はない。又全海水量を1000m3/hr、有機化合物
含有量を10ppm と仮定すると、電解槽へ供給される海水
量は1m3/hr、有機化合物量は10gであり、この有機化
合物を除去するために必要とする薬剤量は高々その10倍
つまり100 g/hrであり処理コスト及び処理の手間とも
軽微である。
【0013】沿岸海域の海水には家庭、工場から排出さ
れる有機化合物が多く含まれており、生態系の処理能力
を上回る負荷つまり有機化合物が排出されると生物群の
安定性は破壊される。全有機態炭素のうち溶存態有機物
(DOM)は孔径およそ1μmのフィルターを通り、コ
ロイド(0.001 〜0.1 μm)、バクテリアなどが含まれ
る。溶存態有機物の大部分は腐植物質であり、動物、植
物プランクトンの排泄物、種々の有機物がバクテリアに
より溶存化したもの、炭水化物、アミノ酸ペプチド、有
機酸などである。代表的な物質としてフミン酸、フルボ
酸などがある。人為的影響を考慮しても、TOCは最大
で10ppm と考えれば良い。又粒状の有機物には動物、植
物プランクトン、バクテリア、菌類、酵母などの生体
と、それらの死骸、動物プランクトンの排泄物があり、
又溶存有機物と無機粒子、生物が複合化した有機凝集体
が含まれる。これらの有機化合物を除去するためには、
ストレーナーによる機械的に分離する方法、海水中のフ
ロック等を凝集剤を使用して凝集させた後に分離する方
法、海水を活性炭処理して有機化合物を活性炭に吸着さ
せて海水から除去する方法、及び紫外線照射、又は、オ
ゾン又は過酸化水素を添加して分解する方法を単独又は
組み合わせて使用する。例えばスクリーン及びストレー
ナ装置(格子寸法が10μm〜10mm程度)に海水を通過さ
せて比較的大きな浮遊性物質を除去する。次いで残留す
る懸濁物質を多価金属イオン(濃度は10〜10000 ppm 程
度)等の凝集剤による荷電中和により、一般に負に帯電
した有機化合物として凝集させる。
【0014】次いでこの集合体をポリマー等の凝集剤に
よりフロック化させる。この際に使用できる凝集剤とし
て、明礬、硫酸バンド、パックなどのアルミや鉄の硫酸
塩や塩化物があり、ポリマーとしては、ポリエチレンイ
ミン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウ
ム、ゼラチン、デンプン、アルギン酸ナトリウムなどが
あり、いずれも100 〜1000ppm の濃度で添加することが
好ましい。この他にCODを特異吸着するポリマーも使
用でき、海水の種類によっては他の界面活性剤や凝集助
剤の使用も可能で、通常数時間の攪拌で凝集等の反応が
完結する。分離した凝集物は沈降分離や浮上分離で除去
するが、後処理を考慮すると脱水機で水と固形物に分離
することが望ましい。
【0015】この段階で海水中の残留有機化合物は0.1
〜1.0 ppm まで低減可能である。引き続き、更に海水中
に残留する低分子有機化合物は、活性炭塔に通水するこ
とで吸着除去し、有機化合物含有量を0.1 ppm オーダー
まで低減できる。活性炭の代わりにゼオライトや活性ア
ルミナを使用して吸着除去を行って良い。この段階では
より低分子量の有機化合物が残存しているが、該化合物
は、紫外線照射、オゾン又は過酸化水素の添加により除
去でき、これにより規制レベルである10ppb オーダーま
で低減できる。
【0016】本発明方法で使用する電解槽は過酸化水素
製造用であれば特に限定されず、例えば次のような電解
槽を使用できる。使用する電極は通常の酸素発生陽極及
び水素発生陰極でも良いが、特に陰極側は酸素ガス電極
とすることが望ましい。該酸素ガス電極は、触媒として
金等の金属あるいは金属酸化物、又は黒鉛や導電性ダイ
ヤモンド等のカーボンを使用することが好ましく、ポリ
アニリンやチオールなどの有機材料をその表面に塗布し
たものでも良い。これらの触媒はそのまま板状又は多孔
状として用いるか、ステンレス、ジルコニウム、銀、カ
ーボンなどの耐食性を有する板、金網、粉末焼結体、金
属繊維焼結体上に、熱分解法、樹脂による固着法、複合
メッキなどにより1〜1000g/mとなるように担持す
る。
【0017】陰極給電体としては、カーボン、ニッケ
ル、チタンなどの金属、その合金や酸化物を好ましくは
多孔体又はシートとして使用し、反応生成ガス及び電解
水の供給及び取り出しを円滑に行うために、疎水性又は
親水性の材料を給電体表面に分散担持することが望まし
い。疎水性シートを陽極と反対側の陰極裏面に形成する
と反応面へのガス供給が制御でき効果的である。陰極液
の電導度が低いと槽電圧の増加となり又電極寿命を短く
するため、この場合にはガス電極の材料による汚染を防
止する目的も含めて、イオン交換膜に接合する構造を採
用することが望ましい。陰極への酸素供給量は理論量の
1〜2倍程度が良く、酸素源として空気や市販のボンベ
を使用しても、別に設置した電解槽での水電解で生成す
る酸素を使用しても、又PSA装置により空気から濃縮
した酸素を使用しても良い。一般に酸素濃度が大きいほ
ど、大きい電流密度で過酸化水素を製造できる。
【0018】陽極室と陰極室を区画する隔膜を使用する
と電極反応で生成する活性物質を対極に接触させること
なく安定に保持でき更に電解水の電導度が低い場合でも
電解を速やかに進行させる機能を有する。隔膜としては
中性隔膜やイオン交換膜の使用が可能で、特に塩化物イ
オンの陽極における酸化を防止するために陽イオン交換
膜の使用が好ましい。隔膜の材質としてはフッ素樹脂系
及び炭化水素系があり、耐食性の面から前者の使用が望
ましい。陽極触媒としては、イリジウム、白金、ルテニ
ウムなどの貴金属又はそれらの酸化物と、チタン、タン
タルなどの弁金属の酸化物を含む複合酸化物が安定に使
用できる。その他に黒鉛や導電性ダイヤモンドなどのカ
ーボンも使用できる。使用する触媒は、水の酸化反応で
ある酸素発生反応が、塩化物イオンの酸化による塩素ガ
スや次亜塩素酸の生成より優先するように選択すること
が望ましい。二酸化マンガンあるいはマンガン−バナジ
ウム、マンガン−モリブデン、マンガン−タングステン
等の複合酸化物では、塩化物イオンの放電(塩素ガス発
生)が抑制されることが知られており、これらのイオン
を溶解した水溶液中にチタン等の電極基体を浸漬し、該
基体表面に前記陽極触媒を1〜1000g/mとなるよう
に形成できる。
【0019】電解槽材料は、耐久性、及び過酸化水素の
安定性の観点から、ガラスライニング材料、カーボン、
耐食性が優れたチタンやステンレス、PTFE樹脂等を
使用することが好ましい。陽極室には海水や市水を供給
しても良いが、前者では塩素ガスが発生しやすく、後者
では槽電圧が大きくなり不経済となる。この欠点を解消
するためには、市水を使用して陽極とイオン交換膜を密
着させるゼロギャップ型電解を行うことが望ましい。
【0020】電解条件は、液温5〜60℃、電流密度0.1
〜100 A/dmが好ましく、電極間距離は抵抗損失を低下
させるために小さくすべきであるが、電解水供給のため
のポンプの圧力損失を小さくし圧力分布を均一に保つた
めに1〜50mmとすることが好ましい。生成する過酸化水
素の濃度は水量と電流密度を調節することにより、10〜
10000 ppm までの制御が可能である。海水を使用して電
解を続けると、陰極表面に次第にカルシウムやマグネシ
ウムの水酸化物又は炭酸塩が析出する。これらの除去の
ために、定期的に塩酸洗浄やキレート剤注入を行うこと
が好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】本発明による過酸化水素水の製造
方法の好ましい実施形態例を図1に示すフローチャート
に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明方法による
過酸化水素含有海水の製造の一例を示すフローチャート
である。海水本流を分岐海水と非分岐海水とに約1:10
00の割合で分け、分岐海水をストレーナー及びスクリー
ンを通して比較的粒径の大きい不純物を濾過により除去
する。次いで分岐海水を凝集タンクに導き、凝集剤を添
加して次いで粒径の大きい不純物を凝集させ、引き続く
脱水機で凝集した固形分を除去する。
【0022】この段階で分岐海水中の有機化合物含有量
は0.1 〜1ppm であり、通常の機械的な分離ではより以
上の有機化合物除去は困難なため、次いで活性炭塔(又
は他の吸着剤を充填した塔)に通して有機化合物を吸着
除去し、更に該活性炭塔でも除去できない有機化合物を
含む分岐海水に紫外線照射して有機化合物を分解除去す
る。この分岐海水を電解槽に供給する直前では有機化合
物含有量は1〜10ppb程度となっている。より以上の濃
度低減が必要な場合は紫外線照射に加えて、オゾン添加
等の他の手法を併用しても良い。このようにして有機化
合物含有量を低減した分岐海水を電解水として電解槽へ
供給する。図2は、本実施形態例で使用できる2室型電
解槽を例示する縦断面図である。電解槽1は陽イオン交
換膜2により多孔板状の陽極3を有する陽極室4と陰極
室に区画された2室型電解槽であり、酸素ガス電極5を
陰極として使用し、この酸素ガス電極5により陰極室を
陽イオン交換膜側の溶液室6と反対側のガス室7とに区
画している。
【0023】酸素ガス電極5にはその背面に密着した多
孔性給電体8により給電され、かつ背面側に設置された
酸素ガス供給管9から酸素ガスが供給される。供給され
た酸素ガスは該電極を透過しその間に一部が電極触媒に
より還元されて過酸化水素に変換され、前記溶液室6に
達する。一方溶液室6には(及び場合によっては陽極室
4にも)前述したストレーナー、凝集タンク及び活性炭
塔などの有機化合物除去手段10により処理された分岐海
水が電解水供給管11を通して供給される。酸素ガス電極
により生成した過酸化水素は溶液室6内の分岐海水中に
溶解して過酸化水素水として過酸化水素取出管12を通し
て電解槽1外に取り出される。分岐海水には塩化物イオ
ンが含まれているため、分岐海水の一部が陽イオン交換
膜を通して陽極室に移行して(及び陽極室に供給された
分岐海水が)陽極酸化を受けて塩素ガスや次亜塩素酸が
生成する。この塩素ガス等は分岐海水中に有機化合物が
実質的に存在しないためTHM等の生成には使用され
ず、陰極室で生成する過酸化水素との反応により消失
し、実質的に電解槽外に取り出される過酸化水素水には
含有されない。
【0024】このように実質的に有機化合物と塩素ガス
及び次亜塩素酸を含まない過酸化水素水は非分岐海水と
混合され過酸化水素を含む混合海水となる。仮に混合前
の分岐海水にTHMが残存していても、分岐海水と非分
岐海水の混合により1000倍に希釈されるため、実用上無
視できる濃度になり、実質的に有害な有機ハロゲン化合
物を含まない過酸化水素水がオンサイトで得られ、発電
所や工場等の冷却水等として使用できる。
【0025】実施例 次に本発明による過酸化水素水の製造の実施例を記載す
るが、該実施例は本発明を限定するものではない。実施例1 スクリーン(格子寸法1mm間隔)及びストレーナー装置
(格子寸法10μm間隔の樹脂フィルター)を配置し、海
水中の有機化合物のうち比較的大きな浮遊物質を除去し
た。次いで硫酸第二鉄塩を20ppm の濃度になるように前
記海水に添加した後、ポリエチレンイミンを100 ppm と
なるように添加し、2時間攪拌した。沈降分離を行い、
脱水機で海水と固形物に分離した。得られた海水中の有
機化合物濃度は約1ppm であった。この海水を活性炭塔
を通したところ有機化合物濃度は100 ppb に低減した。
更にこの海水に紫外線ランプにより紫外線を照射したと
ころ有機化合物濃度は10ppb まで低減した。
【0026】チタン多孔板に酸化イリジウム触媒を熱分
解法により10g/mとなるように担持させ陽極とし
た。カーボン粉末(ファーネスブラック、Vulcan XC-7
2) を触媒とし、これをPTFE樹脂と混練してカーボ
ンクロス(日本カーボン株式会社製)に塗工し、330℃
で焼成した厚さ0.4 mmのシートを酸素ガス電極とした。
イオン交換膜(デュポン社製ナフィオン117 )に前記陽
極を密着させ、かつ電極間距離を5mmとなるように前記
酸素ガス電極を配置し、電解有効面積が20cm2である図
2に示すような電解槽を組み立てた。PSA装置で得ら
れた酸素ガスをガス室に20ml/分で供給し、前述の有機
化合物濃度が10ppb である海水を溶液室に20ml/分で供
給し、両極間に2Aの電流を流したところ、槽電圧は8
Vで、過酸化水素取出管から1000ppm の過酸化水素を含
む海水が約95%の電流効率で得られ、該海水中の有効塩
素濃度は約0.1 ppm であり、過酸化水素取出管出口のT
HM濃度は1ppb であった。前述の条件で電解槽の運転
を200 時間継続したところ、電流効率は85%に減少し、
槽電圧も9Vに増加したが過酸化水素の電解製造は継続
できた。過酸化水素取出管出口のTHM濃度は2ppb で
あった。
【0027】実施例2 チタン多孔板に、酸性硫酸マンガン水溶液中の電着によ
り二酸化マンガン触媒を50g/mとなるように担持し
た陽極を使用したこと以外は実施例1と同様にして電解
槽を組み立てかつ電解を行った。過酸化水素取出管から
1000ppm の過酸化水素を含む海水が約90%の電流効率が
得られ、該海水中の有効塩素濃度は検出限界未満であ
り、過酸化水素取出管出口のTHM濃度は0.2 ppb であ
った。
【0028】実施例3 電解槽へ供給する前の海水へ紫外線照射を行わなかった
こと以外は実施例2と同様にして電解を行った。電解槽
に供給した海水の有機化合物濃度は100 ppb であった。
過酸化水素取出管から1000ppm の過酸化水素を含む海水
が約90%の電流効率が得られ、該海水中の有効塩素濃度
は検出限界未満であり、過酸化水素取出管出口のTHM
濃度は1ppb であった。
【0029】比較例 前処理を行っていない有機化合物濃度が5ppm の海水を
使用して実施例1と同一条件で海水処理を行った。槽電
圧は8Vで、過酸化水素取出管から800 ppm の過酸化水
素を含む海水が約80%の電流効率が得られ、該海水中の
有効塩素濃度は約0.1 ppm であり、過酸化水素取出管出
口のTHM濃度は50ppb であった。前述の条件で電解槽
の運転を200 時間継続したところ、電流効率は60%に減
少し、槽電圧も10Vに増加した。更に過酸化水素取出管
出口のTHM濃度は100 ppb であった。
【0030】
【発明の効果】本発明方法は、有機化合物とハロゲン化
物イオンを含有する電解水を電解槽へ供給して電解して
過酸化水素水を製造する方法において、電解槽へ供給す
る前に電解水中の有機化合物を除去することを特徴とす
る過酸化水素水の製造方法である。通常有機化合物とハ
ロゲン化物イオンを含有する水を電解すると、ハロゲン
化物イオンの酸化により生成する塩素ガスや次亜塩素酸
イオンにより有機化合物がハロゲン化されてTHM等の
有機ハロゲン化合物が生成する。前記本発明方法では、
電解前の有機化合物とハロゲン化物イオンを含有する電
解水から有機化合物を除去することにより、該電解水の
電解により過酸化水素とともに塩素ガス等が生成しても
有機ハロゲン化合物の原料となる有機化合物が存在しな
いため、有害な該有機ハロゲン化合物は生じない。更に
副生する有害な塩素ガスや次亜塩素酸の多くが過酸化水
素により分解除去され、毒性の殆どない過酸化水素水が
得られる。従って従来の海水電解により生ずる過酸化水
素水に不可避的に含有されていたTHM等の有機ハロゲ
ン化合物の生成が回避でき、過酸化水素が殺菌後に無害
な成分に変換できることと合わせて、環境に悪影響を与
えない殺菌用水等が得られる。
【0031】有機化合物とハロゲン化物イオンを含有す
る代表的な水は海水であり、海水を本発明方法により電
解処理すると、オンサイトで過酸化水素含有海水が得ら
れ、これにより例えば海岸付近に位置する工場や発電所
の各種機器用の冷却水等として使用できる。前記電解水
中の有機化合物の除去は、ストレーナー等による機械的
分離、凝集剤を使用する有機化合物の凝集後の機械的分
離、活性炭やゼオライト等へ吸着させて除去する化学的
分離、紫外線照射、オゾン、過酸化水素及び電解等によ
り分解して除去する手法等により行うことができ、これ
らを組み合わせるとより効果的に有機化合物の除去が達
成できる。
【0032】過酸化水素は酸素ガスの陰極還元により生
成するが、電解槽の陰極として酸素ガス電極を使用する
と、通常は水素ガス発生に使用されてしまうエネルギー
を過酸化水素発生に有効に利用できる。電解槽の陽極室
と陰極室をイオン交換膜で区画すると、対極での生成物
の影響を最小限にすることができる。又海水を使用して
過酸化水素含有海水を製造する際には、海水の一部を分
岐させ、分岐させた海水中の有機化合物を除去後に電解
して過酸化水素水とし、これを非分岐海水と混合して過
酸化水素含有海水とすることができる。電解で得られる
過酸化水素水は通常必要とする濃度の数百〜数千倍の濃
度を有している。従って海水を分岐させることにより、
有機化合物除去及び電解処理を行う海水量を大幅に減少
させることができるとともに、所望濃度の過酸化水素を
含有する海水を大量に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法による過酸化水素含有海水の製造の
一例を示すフローチャート。
【図2】本発明方法で使用できる2室型電解槽を例示す
る縦断面図。
【符号の説明】
1 電解槽 2 陽イオン交換膜 3 陽極 4 陽極室 5 酸素ガス電極 6 溶液室 7 ガス室 10 有機化合物除去手段
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 中島 保夫 東京都杉並区南荻窪4−26−1オーク荻窪 401号 (72)発明者 勝本 暁 大阪府大阪市東淀川区東淡路2丁目10番15 号 株式会社片山化学工業研究所内 (72)発明者 西村 国男 大阪府大阪市東淀川区東淡路2丁目10番15 号 株式会社片山化学工業研究所内 Fターム(参考) 4D050 AA06 AB11 BB02 BB09 CA06 CA07 CA10 CA16 4D061 DA04 DB09 DB19 DC08 EA02 EB13 EB19 EB33 EB35 ED01 FA06 FA07 FA13 FA14 FA16 4K021 AB15 BA01 BC01 BC09 DB16 DB31

0 コメント:

コメントを投稿