2020年1月24日金曜日

中国の偏愛? トヨタがVWに勝てないワケ どうなる世界首位奪還

https://www.sankei.com/premium/news/170619/prm1706190006-n1.html
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VWが発表した新型「ゴルフ」=5月25日、東京都内VWが発表した新型「ゴルフ」=5月25日、東京都内
 2017年の自動車販売の世界首位は前年覇者の独フォルクスワーゲン(VW)か、返り咲きを狙うトヨタ自動車か。1年の戦いの折り返しを迎えたところで、勝負の行方を占うために足元の自動車市場の状況を点検すると、次々にトヨタに不利な材料が出てきた。
 米自動車専門誌オートモーティブニュース(電子版)などによると今月初め、現代自動車の米国販売トップのデリック・ハタミ氏が辞任したという。5月に退任が発表された米フォードモーターのマーク・フィールズ社長兼最高経営責任者と同様、業績不振で事実上解任されたようだ。競合メーカー首脳の相次ぐ退任に、トヨタは警戒感を強めているはずだ。両氏が地位を追われた背景には、米国自動車市場の変調と競争の激化があるからだ。
 いうまでもなく米国は、販売台数と利益の両面で最大の比重を占めるトヨタにとっての要の市場。好調な米景気とともに、米新車販売は昨年まで7年連続で拡大し、市場規模は過去最高の1755万351台に達していたが、今年は明らかな調整局面に入っている。5月の米国新車販売(米調査会社オートデータ調べ)は前年同月比0.5%減の151万9175台と5カ月連続の前年割れ。年率換算(季節調整済み)では1666万台と前年同月から3.0%減り、市場予想(1690万台)を大幅に下回った。変調は、販売ローンなど自動車金融でも顕著だ。米金融政策が利上げ局面に入ったこともあり、自動車ローンでは信用力の低いサブプライム層で返済の焦げ付きが増加。SMBC日興証券の調査によると、90日を超える延滞率は今年1~3月期まで3四半期連続で上昇し、新規の深刻な延滞残高はすでに金融危機前の2008年7~9月期に匹敵する水準にあるという。
7年続いた“宴”の反動は大きく、これまでの買い替えによる大量供給で中古車価格が下落し、新車の購入を押し下げる悪循環もみられ始めるなど、市場環境は厳しく、1~5月期のトヨタの実績も前年同月比4.7%減の95万2785台とさえない。一方、VWはといえば、排ガス規制逃れによる顧客離れの「底」からの反動で、6.9%増の13万3861台と伸びているから皮肉だ。トヨタも市場の調整をある程度は織り込み、2018年3月期は米国を軸とする北米販売台数を前年同期比1万7000台減の282万台と前年割れで計画しているものの、前半のペースからはこの数字の下ぶれリスクが浮上する。
 さらにトヨタにとって悩ましいのは、世界最大の自動車市場を牛耳る中国政府とVWの蜜月関係が一段と色濃くなり始めたことだ。
 トランプ米大統領が地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を宣言した6月1日、トランプ氏に当てつけるようにドイツのメルケル首相と中国の李克強首相が満面の笑みで握手を交わしていたのをご存じだろうか。
 両首相は温暖化対策や貿易取引などで協力を確認。「中国はより重要かつ戦略的なパートナーになった」と李首相を持ち上げたメルケル首相は、その言葉を象徴する、あるイベントに李首相を伴って出席した。VWと中国の自動車メーカー、江淮汽車との電気自動車(EV)合弁生産契約の調印式だ。
中国政府は、外資に対し国内自動車メーカーとの合弁生産を2社までに規制。VWは大手の上海汽車と第一汽車、トヨタは第一汽車と広州汽車など、中国メーカーを育成するため、外資の勢力を管理する「2社規制」は厳格に適用されてきた。
 今回、VWに認められた江淮汽車との合弁はその規制をねじ曲げた外資初の3社目提携だ。しかも江淮汽車は李首相の出身地、安徽省のメーカーというからVWに肩入れする中国政府の偏愛ぶりが際立つ。中国政府は、その後、VWと江淮汽車の合弁を正当化するためか、「2社規制」を“後付けで”緩和。EVなどエコカー事業については3社目を認める措置を打ち出したが、3社目をどこに、どんなタイミングで認めていくか、規制の運用は政府のさじ加減次第だ。
 VWが、トヨタを押しのけて2016年に世界販売トップに立った原動力は、前年比19.4%増の約2340万台と、拡大が続く巨大な中国自動車市場でシェアトップを獲得していることにある。今年の中国市場は、小型車減税などの景気刺激対策で需要を先食いした反動もあり、大きく伸び率は鈍化しそうだが、それでも業界団体の中国汽車工業協会は5%の市場成長を見込んでいる。人気のスポーツ用多目的車(SUV)の強化などで、1~5月期に4.5%増の51万7100台と好調なトヨタに対し、VWはここまで前年割れとやや苦戦しているようだが、VWの勢力拡大に“お墨付き”を与えた中国政府の存在を考えればこのまま大きくつまずくとは思えない。実際、VWに3社目のEV合弁を認可したことは意味深長だ。

中国政府は、大気汚染への国民の反発もあり、環境に優しいEVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの「新エネルギー車」の普及推進に本腰を入れている。2020年までに200万台普及させる目標を掲げ、各メーカーに一定の割合の新エネルギー車の生産・販売を義務づける方向だ。だが、ロイター通信などによると、メルケル首相と李首相は6月1日の会談でこのEVの割当制度をめぐり、メルケル氏が中国に独メーカーへの歩み寄りを促し、李氏から前向きな対応を引き出したようだ。詳細は明らかになっていないが、VWと江淮汽車の合弁は2018年にEV生産を始める計画。中国政府はVWの準備が整うまで、割り当ての規制を猶予するなどの便宜を図る可能性がある。
 VWと江淮汽車の合弁契約とちょうど同じタイミングで、独ダイムラーも、高級車「メルセデス・ベンツ」の生産提携先の中国メーカー、北京汽車のEV子会社への出資を決めており、メルケル首相と李首相の握手の裏には、中国市場でドイツ勢を利する何らかの取引があったとみられる。トヨタもEVの市場投入にかじを切っているが、中国政府を味方に付けたVWとの競争は苦戦が見込まれる。
 そもそも、中国でのVWとトヨタの関係には因縁がある。1970年代後半に●(=登におおざと)小平氏の改革開放政策で外資の自動車メーカーの中国進出を促した際、トヨタは断り、VWは真っ先に誘いに応じたという。以来、VWブランドは中国政府の公用車やタクシーなどに採用され、中国自動車市場拡大の恩恵を受ける一方、トヨタは政府の冷遇によって中国への進出に出遅れたとされる。EVをめぐる最近の動きは、トヨタにとってこの悪夢の再現となる恐れがあるわけだ。
もちろん、過剰設備や不動産バブルなど多くの構造問題を抱える中国に、グループ世界販売のおよそ4割を依存するVWの傾斜ぶりには危うさもある。
 ただ、稼ぎ頭の米国に牽引(けんいん)役を期待できないトヨタにとって、最大市場の規制を意のままに操る中国政府とVWのさらなる接近は世界首位奪還への大きな障害となりそうだ。(経済本部 池田昇)

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