2020年5月30日土曜日

4,500万円超えの超弩級アナログプレーヤー、TechDAS「Air Force Zero」試聴会レポート(トーンアームの開発予定も発表)

https://www.phileweb.com/news/audio/201910/09/21189.html
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オーディオ編集部:浅田陽介

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2019年10月09日
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(株)ステラは、自社ブランドとなるTechDAS(テクダス)の最上位ターンテーブル「Air Force Zero」の試聴会を2019年10月5日(日)、東京・有楽町の国際フォーラムで開催した。

TechDAS「Air Force Zero」

試聴会には100名を超えるオーディオファンがその音を聴こうと集まった

本機は、今年3月16日に正式発表された、世界でも最高級のアナログターンテーブル(関連ニュース)。本体質量だけでも350kgに及ぶなど、文字通り超弩級と呼ぶにふさわしいターンテーブルとなっている。

本体価格は、トッププラッターにチタンを採用したタイプが¥45,000,000(税抜)、トッププラッターにタングステンを採用したタイプが¥50,000,000(税抜)。この他、下記オプションをラインナップする。

Air Force Zero本体専用ラックMaster Kio:¥5,000,000(税抜)
Air Force Zeroポンプユニット/電源ユニット/3筐体専用ラックMaster Kio:¥3,500,000(税抜)
Air Force Zero専用ラック2台フルセットMaster Kio:¥8,500,000(税抜)
※Air Force Zero本体専用ラックとポンプユニット/電源ユニット/3筐体用専用ラックのセット
Air Force Zero専用プラットホームベース:¥950,000(税抜)
※外形寸法910W×678D×55Hmm
タングステン製交換用アッパープラッター:¥5,500,000(税抜)
追加用トーンアームベース(チタン製):¥600,000(税抜)
※使用するトーンアームによっては別途加工賃がかかる場合あり
ディスクスタビライザー・アルティメイト(タングステン製):¥400,000(税抜

今回の試聴会でもオプションのラックを使用。スピーカーにはウィルソンオーディオの「ALEXX」、その後方にコンステレーションオーディオのパワーアンプ「HERCULES II」、プリアンプ「ALTAIR II」がセッティングされている


本試聴会の冒頭ではこのAir Force Zeroの開発背景について、同社代表取締役会長の西川英章氏による解説からスタートした。

(株)ステラ 代表取締役会長 西川英章氏による詳細の説明も見どころのひとつだった

最も長い期間をかけて開発されたモーター

同社はAir Force Zeroの正式発表以来、「ワールドツアー」として各国で試聴会を開催。アメリカ・サンタモニカやミュンヘンのHIGH END、香港のAVショウなどに訪れた世界中のオーディオ評論家やオーディオファイルから非常に大きな驚きと評価を受けてきたと話す。

特にアナログオーディオの分野で世界的な権威を持つMichael Fremer氏(Analog Planet)やJacob Heilbrunn氏(Absolute Sound)の両名は、それぞれのレビューでAir Force Zeroのサウンドを絶賛。「いずれも世界で最高のアナログプレーヤーのランクが変わったというコメントをいただいた」と西川氏は紹介した。さらにサンタモニカでの試聴会では、その場で2台のオーダーが入ったという。

サンタモニカの試聴会の様子。写真中央にはアナログオーディオにおいて世界でも最高の権威を持つMichael Fremer氏(Analog Planet)とJacob Heilbrunn氏(Absolute Sound)が熱心に耳を傾ける様子が写っている

香港での試聴会の様子。ここでもAir Force Zeroは極めて高い注目を持って迎えられた

Air Force Zeroの開発自体は、2015年の段階ですでに発表されていたが(関連ニュース)、続報として基幹パーツとなるモーター部が先行発表されたのは、2017年のミュンヘン HIGH ENDにおいてのこと。モーター部だけで設計に2年がかかっていることになるが、これは「予算的にも技術的にも、何の制約も受けない製品」を目指したAir Force Zeroに見合うドライブモーターそのものを見つけ出すために、計り知れない困難があったことを意味する。

Air Force Zeroのモーター部は、4年におよぶターンテーブル開発期間のうちの半分となる2年を費やして完成した

最終的に採用されたのは、独Papst社がかつてテープレコーダー用として開発していた最高級の3相12極シンクロナスACモーター。3月の発表会では、Air Force Zeroの生産台数は50台に満たないことが発表されているが、それはシンクロナスACモーターの入手の難しさと数量が関係している。

Air Force Zeroに搭載された独Papst社製のACシンクロナスモーター(写真右)

このシンクロナスACモーターを基礎として開発されたのが、フライホイール式エアーベアリングモーターだ。高精度メタルベアリングとエアーベアリングによる面振れが数ミクロン以内という高精密な回転、エアーベアリング効果による高S/Nのプラッター駆動など数多くの利点を備え、これまでのアナログプレーヤーの常識を大きく超えた性能を実現するに至った大きなポイントにもなっている。

Air Force Zeroのモーター部の全景

そして、ドライブモーターの開発にあたって「特に大変だった」と西川氏が振り返るのが制御回路だ。
アナログ再生において、プラッターの正確な回転はワウ・フラッターやモーターそのものから発生するノイズなどさまざまな影響を与える。Air Force Zeroの場合は回転をDSPで制御する仕組みを採用し、この問題を根本から解決した。レコードの定速回転である33 1/3rpmあるいは45rpmの精度を常にセンサーで監視し、内部の基準クロック発振器とずれると即座に内部のDSPが検知して補正。後述する極めて高いイナーシャ性能を誇るプラッターを組み合わせることで、アナログ再生における理想の回転を実現している。

Air Force Zeroのモーター制御回路のブロックダイヤグラム

ちなみに、モーター部を先行発表した際は従来モデル「Air Force One Premium」に搭載するかたちとなったことから、Air Force Oneのオプションとしての発売を希望する声も挙がったそうだが、「ドライブモーターの数そのものが限られるということもあり、現時点では難しいと思います」と西川氏は話す。

プラッターについても、常識からは考えられないほどの物量が投入されている。全部で5層からなるプラッターは、最下層が40cm径/34kgの鍛造ステンレス(SUS 316L)製、第2層が31cm/20kgの鍛造ステンレス(SUS 316L)製、第3層が31cm/20kgの鍛造砲金製、第4層が31cn/20kgの鍛造ステンレス(SUS 316L)製、そして最上層が31cm/26kgの焼結タングステン製(またはチタン)という構成で、総質量は120kgにも及ぶ。しかもこの5層のプラッターは機械的ストレスが発生するネジではなく、ディスクバキューム用の空気を活用してチャッキングしていることも見逃せないポイントだ。

途方もなく巨大なプラッター部とレコード盤を一体化するエアーバキュームポンプは片手で持てるほどのサイズだ

プラッター部の内部構造図

また、プラッターを支えるプラッターベースは35kgの超々ジュラルミンで、ここから枝葉のようにアッパーパネルが伸び、トーンアームやサスペションの機構へつながる設計とした結果、フローティング部分の質量はプラッター含め250kgに達した。しかし、これは重さを稼ぐためではなく、プラッターとフローティングサスペンションの重心を支点よりはるかに低くするという観点から採用されたものだ。また、サスペンションは横揺れを中心に吸収するつくりとなっている。これは共振周波数が低くなるとその振動は横方向になることが理由となっている。

超々ジュラルミンによるプラッターベースだけでも重量35kg

カートリッジ側からみた低域における共振のグラフ。Air Forceではその数値は異常に低く、これが圧倒的なクロストーク性能などへとつながっている

そもそも“Air Force”という名は文字通り空気の力をフル活用することに由来している。エアーベアリングとエアーフローティング、そしてバキュームという相反する要素の同時実現こそ、Air Forceを語るうえで欠かせない最大の特徴となっている。「海外も含めて、この“吸って吐く”という動作同時に行うことは、まず難しいだろうと言われてきた」と西川氏は振り返るが、だからこそAir Forceは世界的に注目を集めるにいたった。

プラッターベースに、プラッターを載せたところ。トーンアームやサスペンション機構も含めると250kgを空気の力でフローティングさせている

レコードとプラッターを一体化した上で回転し、エアーによって外部からの振動を完全に切り離して再生する。内と外、双方の問題を一挙に解決する、まさに極まったというべき構造だろう。
実際に音を聴いてみると驚くのが、その驚異的な静けさだ。試聴では『ハリー・ベラフォンテ/At Carnegie Hall』(RCA/1959年録音)や、アルフレッド・ブレンデル(ピアノ)、ジェームス・レヴァイン(指揮)、シカゴ交響楽団による『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲』(PHILEPS 1976年録音)など西川氏自身のレコードコレクションを用いて進行。「バッググラウンドノイズ、スクラッチノイズが聴こえて来ない。これはAir Force全体に通じる特徴でもあったが、Zeroではそれがより際立った」と西川氏は話しているが、事実、そこで展開されるサウンドは一般的にレコードという言葉からイメージされるものではない。

オプションの専用ラックに設置されたコンステレーションオーディオのフォノイコライザー「PERSEUS」

また、1960年代後半に録音されたというコリン・デイヴィス指揮、コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団・合唱団『プッチーニ:歌劇「トスカ」』(PHILIPS)をかけた際は、この年代特有の盤そのものの薄さについて言及。「当時はきれいな溝をプレスするなど、さまざまな試行錯誤を行っていた時代です。その過程でこうしたペラペラ盤が登場しましたが、私もそのほうが音は良いと思っています。Air Forceにはこういう盤が向いている」と話し、レコードを完全にプラッターと一体化再生するAir Force Zeroの優位性を強調する。また、TechDASがバキュームを採用した理由についても次のように解説した。

Air Force Zeroに取り付けられたグラハムエンジニアリングのトーンアーム「PHANTOM ELITE Ti」も新製品となる。カートリッジにはTechDAS「TDC01 Ti」を使用し、主にクラシック作品の試聴で使用

もうひとつのアームベースには、SMEの「3012-RG」にオルトフォンの「SPU Royal」をマウント。ジャズなどの作品で使用された

「バキュームは音に良くないと言われますが、それはとんでもない間違いです。ラッカー盤が最初に切られるとき、つまりレコードを作る最初の工程ではバキュームで吸着して進められています。だからこそ、その音を聴く再生の時でも同じことをしなければならないと思います。動かず、レコードの溝だけをトレースする。これをするためには、Air Forceの方法しかない。Air Force Zeroは、私自身の理論、つまり“こういうふうに作れば良くなるだろうな”ということを全てやったプレーヤーです」

試聴会に用いられたレコード達

本試聴会の最後に、西川氏は「アナログプレーヤーはこれで完結」とした上で、次なるアイデアとしてトーンアームの構想があることを発表した。「トーンアームには色々と心残りがあるので、2年くらいの間に形にしたい」とその意欲を示す。

以上のように、文字通り超弩級のアナログプレーヤーとなったAir Force Zeroだが、第1ロットに関してはすでに完売済みとのこと。次のロットは3月頃からスタートするという。

「本当の音楽はアナログプレーヤーで聴いて欲しい」という西川氏の思いを込めたプレーヤーがいま、世界のオーディオファイル達から異例といえるほどの注目を集めている。本試聴会には100名を超えるオーディオファイルが集まり、その音に耳を傾けた。次なるお披露目の機会は、11月22日/23日/24日の「2019 東京インターナショナルオーディオショウ」を予定している。

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