三菱電機で2年前にあった男性新入社員(当時20代)の自殺が労災として認められた。同社は認定を踏まえ、杉山武史社長ら関係役員を処分するという。ここ数年、社員の自殺や過労による労災認定が相次いでおり、企業体質があらためて問われる。

 男性新入社員の遺族側弁護士は11日に会見し、「言葉の暴力は労災として認められづらい。今回は遺書があり、(上司の発言が)裏付けられた」との見方を示した。尼崎労働基準監督署からはまだ認定の理由が示されていないが、教育主任だった上司からの暴言がパワーハラスメントにあたると判断された可能性が高いという。亡くなった新入社員は、教育主任から「殺すからな」などと言われたとするメモを残していた。

 自殺に対する労災の申請は毎年200件前後あるが、認められるのは半数に満たない。オフィスへの入退時間やパソコンの使用履歴といった証拠を示しやすい長時間労働と比べ、暴言などによるパワハラでの認定はハードルが高いとされる。2017年に自殺したトヨタ自動車の男性社員(当時28)の例では、日常的に上司から「バカ、アホ」と言われていたなどとされ、労災だと認められている。今回の三菱電機の労災認定を受けて、企業側は対策の強化をせまられそうだ。

 遺族側弁護士は11日の会見で、三菱電機に対して謝罪と再発防止策、損害賠償などを求めて交渉していく方針も明らかにした。会社側からは昨夏に謝罪をしたいとの意向が伝えられているという。

 遺族側は、会社側への不信感を抱いている。

 男性新入社員は19年4月に入社し、同年7月に兵庫県尼崎市の事業所に配属された。当時の教育主任から指導を受けるなか、同年8月に自殺した。三菱電機ではこの3年前の16年にも、尼崎市の同じ敷地内にある別の事業所で働いていた男性新入社員が、自ら命を絶っている。労災認定はされていないが、遺族側は17年、上司や先輩のいじめや嫌がらせが原因だとして、損害賠償を求めて会社側を提訴した。19年に和解している。

 遺族側によると、この社員はソフトウェア開発を担当していた。「5年10年やってる先輩上司が非難しかしないことに絶望しました」などと記したメモも残していたという。この社員と、今回の労災が認められた新入社員は同じ社員寮で暮らしていた。

 ほかにも、14年12月~17年8月にシステム開発の技術者や研究職の男性社員5人が相次いで労災認定されている。いずれも長時間労働が原因で、このうち2人は過労自殺だった。

 今回の労災が認められた新入社員の遺族は11日、弁護士を通して公表したコメントで「今後も同じような事例が起きそうで心配でなりません」としている。

会社は再発防止策掲げたが…

 三菱電機で心身の健康を害する社員が続出している問題は、18年秋に朝日新聞が報じて表面化した。会社側は当時、それぞれの労災について「個別の事情がある」(人事部)とし、構造的な問題があるとは認めていなかった。16年春から「働き方改革」を掲げて長時間労働の抑制に努めていることは強調していたが、その後も子会社で長時間労働による過労自殺が起きている。

 今回新たに新入社員の自殺が労災認定されたことで、会社の対応が適切だったのかどうかが問われる。「上にモノが言いづらい企業風土」(ベテラン社員)があるといった声もある。

 三菱電機は11日、新たな労災認定について「重く受け止めており、今後、真摯(しんし)に対応していく所存です。あらためて亡くなられた方のご冥福を深くお祈り申し上げるとともに、ご遺族の皆さまへ心からお詫びとお悔やみを申し上げます」とのコメントを出した。

 昨年1月に再発防止策として発表した「職場風土改革プログラム」を徹底する。この改革プログラムの効果には社内から疑問の声も出ている。複数の関係者によると、盛りこまれた具体策の多くは前から実施済みのものだった。社外の有識者からも「施策の有効性が十分ではない」などと指摘されたという。

 三菱電機は昨年11月、追加の再発防止策も発表している。役員も含む全従業員が研修を受けてハラスメントをしない「宣言書」を出すことなどが柱だ。ある社員は「研修のテキストをきちんと読まなくても、パソコンの画面をクリックすれば宣言書を出せる。これで効果があるとは思えない」と漏らす。別の社員は「業務量が減らないのに残業時間の上限の死守をきつく命じられる。これではサービス残業が増えかねない」と心配する。

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