米軍岩国基地(山口県岩国市)所属のKC130空中給油機が、海上自衛隊鹿屋航空基地(鹿屋市)で訓練を始めて2年が過ぎた。昨年9月15日を最後に1年間以上実施されておらず、市民の関心は低下している。受け入れと引き換えに鹿屋市に支払われる米軍再編交付金の「恩恵」は生活に広がる半面、今後の運用は未知数で、地元の思いは複雑だ。 【写真】再編交付金でトラックを改修した鹿屋運動公園陸上競技場=鹿屋市西原2丁目
訓練は着陸直後に再加速して離陸するタッチ・アンド・ゴーを含む離着陸、輸送機MV22オスプレイなどを使った地上給油、荷下ろしの3種類。2019年9月17日の開始以降、訓練が予定されたのは計20日間だったが、「米軍の運用の都合」(九州防衛局)で中止が相次ぎ、離着陸6日、地上給油1日の計7日間にとどまる。 鹿屋市町内会連絡協議会の上籠司会長(71)は「当初は騒音への懸念が強かったが、1年以上訓練がないこともあり、今は住民から不安の声はほとんど聞かれない」と語る。 ■広がる「アメ」 一方、受け入れの対価は鹿屋市民の暮らしに溶け込んでいる。市が訓練の受け入れを表明した15年度から、国は「米軍再編交付金」を払う。20年度までの交付総額は計21億8400万円に上る。 20年度の4億5689万円は道路改良や鹿屋運動公園改修、自治公民館の整備補助など幅広い事業に充てた。さらに交付金を基金に積み、子ども医療費の全額助成の対象を高校生までに拡充する取り組みを今年4月から始めた。
中学生と高校生、社会人の娘3人を持つ鹿屋市の鞍掛里美さん(42)は「子どもの医療費が無料になるのはとても助かる」と話す一方、「財源に交付金が使われているとは知らなかった」。気付かない間に「アメ」が配られていることに「原発問題と似ていて、事故などがあったとき、追及しにくくなるのではと思うと複雑」という。 協議会の上籠会長も「町内会運営はやりやすいが、今はアメだけもらっている状況。後でどんなムチがくるか」。防衛省が進める西之表市馬毛島への米軍機訓練移転と自衛隊基地整備計画が進めば、戦闘機が鹿屋基地上空を飛び交うようになるのではと案じ、「状況が変わる際はしっかり説明してほしい」と求めた。 ■必要性薄い? 訓練の反対運動に取り組む市民団体代表の松下徳二さん(83)=鹿屋市=は市民の関心低下を危惧する。「運動も若い人が集まらず広がらない。交付金につられ、米軍利用が一層拡大するのではないか」と不安を漏らす。 在日米軍を監視する市民団体「リムピース」共同代表で元岩国市議の田村順玄さん(76)は「単に『鹿屋も使える』というだけで訓練自体は鹿屋でやる必要性が薄いのでは」と指摘。その上で「受け入れ実績があり交付金も受け取っている以上、今後さらに訓練が拡大する可能性は否定できない」とする。 鹿屋での訓練が1年以上実施されていないことについて在日米軍司令部(東京・横田基地)は「鹿屋基地は空中訓練の拠点の一つ。部隊の訓練目的をサポートするため、各拠点の近接性や能力を考慮しスケジュールを決定する」と説明。「基地の使用や日程調整の可能性などについては現在、2国間協議の対象になっている」と答えた。 ■KC130空中給油機 米海兵隊所属の固定翼機。航空機の航続距離や滞空時間を延ばすため、飛行中に翼の下からホースを伸ばし燃料を給油できる。全長29.8メートル、全幅40.4メートル、全高11.8メートル。搭載可能人員は最大94人。在日米軍再編に伴い2014年、普天間飛行場(沖縄県)から岩国基地(山口県)に15機が移駐した。部隊の通称は「スモウズ(相撲)」。
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