「公衆トイレ」といえば、どんなイメージがありますか。最近は地下鉄の駅や公園で改修が進み、かつての「汚い」「暗い」から、「きれいで利用しやすい」という印象に変わってきました。 ところが、改修で逆に困っているという人もいます。 〈和式が必要な人がいることを知ってほしい〉 長野県在住の会社員男性(56)から切実なメールが届きました。 男性は、10年以上前から難病の「潰瘍性大腸炎」を患っています。大腸の粘膜がただれる病気で、下痢や血便の症状があり、トイレに行く頻度が高くなります。潔癖症で他の人が座った便座に腰掛けることに抵抗があり、公衆トイレではいつも和式を選びます。 悩みの種は、車での通勤中に利用する道の駅などのトイレが最近、次々に洋式に改修されたこと。わずかに残った和式を利用するようにしていますが、不安は消えません。 男性に直接聞くと、「私のような事情を抱える人のため、少しでもいいので和式を残してほしい」と話しました。 大手トイレメーカーの「TOTO」によると、和式と洋式便器の出荷比率は、1960年代は和式8割、洋式2割でしたが、その後は洋式が増え続け、2018年度には洋式が99・6%を占めました。 公衆トイレの洋式化を加速させたのは、訪日外国人の増加です。国は観光振興の一環で17年度から、自治体や民間事業者を対象に、公衆トイレの洋式化に補助金を出しています。 新型コロナウイルス対策で、公園や病院のトイレの洋式化を進める自治体もあります。ふたを閉じて水を流す洋式は、和式と比べて飛沫(ひまつ)の拡散防止に一定の効果があるとされるためです。
一方で、男性のように和式を支持する声もあります。 文部科学省が全国の公立小中学校に実施した昨年9月の調査では、校内のトイレ全体の57%が洋式で、16年度に比べて13・7ポイント増える一方、4割以上の学校が和式を1か所以上は残す方針だと回答しました。便器に肌をつけたくないという児童や生徒がいるほか、駅などではまだ和式も多く、子どもたちに使い方を教える狙いもあるそうです。 NPO法人「日本トイレ研究所」の加藤篤代表理事は「障害のある人でも使いやすい洋式が増えるのは基本的にはいいこと」としつつ、「多様性が重視される時代。色々なニーズに応えるため、一部は和式を残すといった配慮も大切です」と指摘します。 大阪市では、今年度中に完了する市役所本庁舎のトイレ改修で、市民が多く利用する1階部分には、男女とも1か所ずつ和式を設置する予定です。担当者は「和式を望む人がいることを踏まえた」と話します。 男性に取材するまで、和式は古くて使いにくい、というイメージしかありませんでした。トイレの様式をどうするかというテーマの中にも、誰もが生きやすい社会へのヒントがある気がします。
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