(ブルームバーグ): 日立製作所とフランスのアルストムは、英国の次世代高速鉄道HS2から20億ポンド(約3000億円)相当の車両を受注した。 9日のHS2発表によれば、日立とアルストムの合弁事業体は、HS2計画の1期で進められているイングランドとバーミンガム間を結ぶ路線で列車54本を供給する。1本当たり200メートルで、16両編成に倍増され、1000人余りの乗客を運ぶ。速度は時速362キロメートル。2025年に製造を開始するという。 原題:Hitachi-Alstom Win $2.6 Billion U.K. Train Deal for HS2 Line (1) 2021年12月、日立製作所のグループ企業である日立レールがフランスのアルストムと共同で英国の高速鉄道HS2向け新型車両の製造・保守を受注したニュースは、センセーショナルに伝えられた。新型車両の設計から製造、導入後12年間の保守業務までを請け負い、その契約金額は19億7000万ポンド(約2957億円)という大型契約だ。日本の鉄道技術が世界で認められたということを誇らしく感じた方も多かっただろう。 【写真を見る】フランス・パリでTGVと並んで停まる、イタリアのETR400型(フレッチャロッサ1000) だが気になるのは、ライバルであるはずのアルストムと共同受注という点だ。アルストムと言えばTGVで有名な会社である。なぜ同社と手を組むのか、日立とアルストムの役割分担はどうなるのか、不思議に思われるのではないだろうか。 今回の日立による受注については、まず英国の高速鉄道HS2プロジェクトの入札がどのように進んでいたかを知る必要がある。 2017年、車両納入に関する最初の入札では、アルストム、ボンバルディア、シーメンス、日立、タルゴの5社が最終候補に挙げられていた。しかしその翌年、ボンバルディアは日立と共同での応札が決まり、一方でシーメンスとアルストムは当時、合併が取り沙汰されていたため、万が一この合併が実現した場合に入札に参加するメーカーが減ることが懸念された。そのため、競争を維持するためにCAFを追加でリストアップすることになった。 入札に対し、各社はそれぞれ自社の優位性をアピールしている。 アルストムは、「従来のネットワークでも新しいHS2インフラでも同様に快適な、ワールドクラスのモダンで柔軟性のある列車」を提供すると述べた。同社はフランスのTGV、「イタロ」のブランドで知られるイタリアのNTV社に納入したAGV、アメリカのアムトラック向けに製造中のAvelia Liberty(アヴェリア・リバティ)、モロッコと韓国の高速鉄道など、数多くの高速列車を納入した実績がある。 日立は「日本が世界に誇る」新幹線への取り組み、ボンバルディアはヨーロッパと中国における世界最大の高速鉄道ネットワークでの国際的な経験を強調した。 両社は共同で、イタリアのトレニタリア社に「フレッチャロッサ1000(ミッレ)」ETR400型を納入しており、「現在ヨーロッパで最も速く、かつ最も静かな高速列車」であると述べている。ETR400型は、営業最高時速360kmで走行するように設計されているが、インフラの関係で現状は300kmで営業運転している。 シーメンスは英国と欧州大陸を結ぶ国際列車「ユーロスター」を筆頭に、ドイツ、スペイン、中国、ロシアといった国々で運用されている高速列車Velaro(ヴェラロ)の優位性をアピールした。すでに英国内でユーロスターとして運用実績のあるヴェラロを例に、「英国の鉄道事業における存在感、技術知識、グローバルな高速化の経験により、シーメンスこそ理想的なパートナー」であると述べた。 ところが最終決定へと至る前に、また業界内で大きな動きがあった。アルストムとシーメンスの合併話が破談となったことで、これまでどおりアルストムとシーメンスはそれぞれ独自に入札へ参加することとなったが、今度はアルストムがボンバルディアを買収するという話が持ち上がったのだ。最終的に、この合併は欧州委員会によって承認され、2021年3月をもってボンバルディアはアルストムへ吸収合併されることになった。 結局、日立とアルストムの共同受注という結果に至ったが、ここでいう「アルストム」とは、「旧来のアルストム」ではなく、「元ボンバルディアで、買収されそのまま事業を引き継いだアルストム」ということになる。 つまりアルストムと言っても、今回のHS2の受注を勝ち取ったのはTGVやAGVの技術ではなく、日立+旧ボンバルディアの技術ということになる。 日立+旧ボンバルディアと言えば、先のレポートでご紹介したZEFIRO(ゼフィロ) V300プラットフォームで、イタリアのフレッチャロッサ・ミッレでお馴染みの技術だ。その点について、日立は「HS2向けの新型車両は、ZEFIROと新幹線の技術を融合した車両になる」と説明している。車体にはアルミニウムを採用し、騒音対策としてより空力を考慮したデザインを採用するという。 新幹線車両の知的財産権はJRが保有しているので、そのままそれらの技術を用いるとは考えにくいが、これまで新幹線の製造現場で蓄積してきた経験や技術は、HS2車両の製造でも生かされるだろう。アルミニウム製車体の製造も、英国ニュートン・エイクリフ工場にはIEP(Intercity Express Programme)向け800(801/802)系車両の製造を任された段階で、日本で使用されているものと同じ摩擦攪拌接合の最新式溶接機を導入しており、日立としてはお手の物だ。 日立はほかに、運行システムと制御システムを担当するとしている。特に制御システムに関しては、同社が得意としているSiC(炭化ケイ素)を用いた低損失パワーデバイスを採用。従来のIGBTに代わるSiCインバーターに関しては、すでに国内外で多くの採用実績があるため、開発に大きな支障はないだろう。 今後、日立とアルストムは開発を進め、2025年から製造を開始する予定だ。製造を担当するのは日立のニュートン・エイクリフ工場とアルストムのダービー工場だが、このダービー工場が旧ボンバルディアの工場という点も、ボンバルディアの影響が色濃く残っていることを示しているといえるだろう。 HS2向け車両の受注は、日立が世界へ向けてより大きく踏み出す一歩となることは間違いない。このプロジェクトの成功いかんでは、アルストムやシーメンスに並ぶ世界有数の高速列車メーカーとして、確固たる地位を築くことになるはずだ。日立は当初別メーカーと共同で応札
TGVやAGVの技術ではない
世界有数の高速列車メーカーに?
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