2023年2月14日火曜日

「インボイスはデスゲーム」、税の押し付け合いが始まる 反対署名18万、 “身バレ”問題も未解決。

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2023年02月14日 10:22  ITmedia NEWS

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財務省の担当者(最左、顔出し・名前出しNG)に、署名を渡したところ。インボイスに反対する漫画家などがイラストを描いた箱に、USBメモリを入れた

 10月からスタートするインボイス制度。対応に向けた動きが活発になる一方で、反対の機運も高まっている。「インボイス制度を考えるフリーランスの会」(STOP!インボイス)が募ったインボイス反対のオンライン署名には、2月13日までに約18万筆が集まった。



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 1人のライターから始まった反対運動だが、声優や映像作家、配送業者、八百屋、企業の経理担当者など、さまざまな業種・職種の人が声を上げている。



 2月13日、議院第二議員会館(東京・永田町)で、インボイスに反対するフリーランスの有志が、署名を保存したUSBメモリを財務省の担当者に手渡した後、記者会見を行った。



 「インボイスはデスゲーム」――STOP!インボイス代表で、フリーの編集者、ライターの小泉なつみさんは、記者会見でこう指摘した。そのココロは……。



●インボイスはデスゲーム 農家もライブハウスも苦境に



 インボイスは、年収1000万円以下のフリーランス(免税事業者)に新たな税負担・事務負担を求める制度だ。声優やミュージシャン、映像作家、配送業者、八百屋などの幅広い業種の個人事業主の他、会社員・経営者・消費者にも影響がある。



 「インボイス制度は、民間で負担を押しつけ合うデスゲーム構造。発注者と受注者、消費者で負担を押しつけ合う構造だ」――STOP!インボイス代表で、フリーの編集者、ライターの小泉なつみさんはこう指摘する。



 小泉さんの父親は、レストランに野菜を卸している卸売業者だ。父は配送事業者にインボイス登録を求めない代わりに、増える税負担をまかなうため野菜の値上げを検討しているという。野菜の値段が上がって影響を受けるのは、レストランや消費者だ。



 「取引先の農家に税負担・事務負担をお願いするのは難しい。うちで負担しようと思っている」――群馬県の野菜を東京都の飲食店に卸している八百屋・草木堂野菜店の代表の甲田崇恭さんはこう話す。同社の昨年度の営業利益はわずか3万円、代表の手取りは最高でも月15万円という切り詰めた状況だが、高齢化した農家に負担を求められず、年間30万円ほどの身銭を切る予定だ。



 東京でライブハウス「ロフト新宿」「阿佐ヶ谷ロフト」などを運営するロフトプロジェクト代表の加藤梅造さんは「ライブハウスは、アーティストや音響、証明、カメラマン、メイクさん、配信担当者などのフリーランスに支えられているが、全員がインボイスに対応するのは無理。こちらで負担しなくてはならないだろう。経理の手間も考えただけでめまいがする」とウンザリする。



●“激変緩和措置”はまるでマイナポイント?



 インボイスをめぐっては、声優、漫画家・脚本家・アニメ・演劇人・税理士など、さまざまな団体が反対運動を続けている。有志が政治家へのロビー活動を行っており、これまで約100人の政治家に会ってきたという。野党議員を中心に昨年11月、「インボイス問題検討・超党派議員連盟」も立ち上がり、国会で盛んに質問が行われている。



 反対論を意識した政府は、納税額を売上税額の2割に軽減する措置(2割特例)を3年間限定で導入するなどの発表した。



 激変緩和措置について小泉さんは、「3年間だけまけてあげるから、その間に何とかして」というその場しのぎでしかなく、根本的な解決になっていないと訴える。「『ポイントをあげるからマイナンバーカードを取得して』と誘うマイナンバーカードと同じことが、インボイスで行われようとしている」



 激変緩和措置についても、6081人の個人と30の団体が反対を表明している。



●“身バレ問題”解決せず 「ストーカー被害のリスクも」



 インボイス事業者を公表する国税庁のWebサイトで、個人事業主の本名などが一括ダウンロードできてしまう”身バレ”問題にも進展は見られない。



 「(国税庁は)システムを改修したと言うが、Excelを使った簡単なプログラムを使えば誰でもすべて復元できる状態だ。サイトを通じて簡単に事業者の本名が手に入るのは、芸名やペンネームを使っている人には大きな問題。ストーカー被害などもあり得る」と小泉さんは危惧(きぐ)する。



●消費税分“値下げ要求”の実態



 「もらった消費税は払えという“クソリプ”が付くが」――映画やドラマなどを幅広く手掛けてきた映像ディレクターのブンサダカさんは、消費税が上がっても代金に上乗せできない実情を訴える。「消費税が上がった分、広告代理店から値下げを要求された。断ると発注が止まった」(ブンさん)



 発注主との力関係により、増税分を価格に転嫁できない中小事業者は多い。公正取引員会の調査によると、2013年に消費税引き上げ(5%→8%)が行われた際、大手小売業者から値下げ要求を受けたと答えたメーカーは4割近くに上ったという。



 不公正な商取引は、公正取引委員会が取り締まるとされているが「公取委の拠点は全国に数十カ所、インボイスに関係する事業者は1000万ともいわれ、対応が整っているとはとうてい言えない」と小泉さんは指摘する。



 ヨガインストラクターの塙律子さんも、「業務委託契約を結んでいるフィットネスクラブやスタジオの一部から、インボイスに登録しない場合は報酬を減額するという通知が来ている」と話す。昨年度の年収は100万円に満たず、共働きで2人の子どもをかかえ、ギリギリの生活を強いられているという。



●「僕らは日本を捨てます」とクリエイター



 映像クリエイターのブンさんは、年収1000万円を超える課税事業者だが、コストが大きい(例えば、月固定費だけでAutodeskに約15万円、Adobeに約5万円、ハードに約15万円、サーバに約5万円、電気・通信費に約10万円……合計約50万円)上、テレビ局などの制作費用が年々減っているため予算はギリギリだ。インボイスが始まり、制作に参加してくれる免税事業者(俳優など)の消費税分を肩代わりすると、経営はさらに厳しくなる。



 赤字スレスレでも文化を創る仕事に誇りを持っていたが、仲間のクリエイターは次々に米国や中国などに渡っているという。「インボイスがこのまま続行されるなら、クルーを連れて海外に行く手もある。官僚も政府も日本の文化が大嫌いのようで、毎回いじめられるので、このままならば、僕らは日本を捨てます。僕らには選択肢がある」



 ロフトの加藤代表も「この国は文化や芸術を重く見ていない。商売にしか見ていないんだと思う。日本の文化芸術は今でも遅れをとっているが、さらに遅れてしまう」と危機感をあらわにする。



●企業の経理に無駄な業務



 企業も例外ではない。“経理のプロ”として、多くの中小企業でパートタイム経理として働く、経営士の堺剛さんによると、中小企業の管理部門はほぼワンオペ状態で、経理・総務・労務などを数人で回しており、インボイス対応でさらに忙しくなりそうだ。



 経理担当者には、請求書がインボイスの形式に合っているか確認し、インボイス番号も確認するという作業が新たに必要になる。取引先が100社あれば、1社3分で終わったとしても300分、5時間分の、付加価値を生まない“無駄な作業”が発生する。「国は中小企業に付加価値を生む努力を求めながら、何の価値を生まない作業を押しつけている」(堺さん)



 経理担当者の間でも個人事業主への発注を控えるよう、担当部署に依頼する動きが出ているという。「インボイスは、岸田政権が掲げている、フリーランス活用や起業しやすい活用づくりに逆行する」(堺さん)



●格差を助長する制度 違法の疑いも



 「インボイス制度は”弱いものいじめ”だ」――不公平な税制について研究している弁護士の宇都宮健児さんはこう批判する。年収1000万円以下をターゲットにしたインボイス制度で、年間2180億円というわずかな増収を目指すより、富裕層への金融所得課税を見直して3兆円増税した方が、格差是正につながると主張する。



 「日本はコロナ禍・物価高の中で弱い者の負担を過重にしようとしている。コロナ禍で消費税を減税したヨーロッパ諸国と対照的で、弱い人をますます追い詰める政策だ」(宇都宮さん)



 取引先がインボイスに耐えられずに廃業し、仕事を失ったというシングルマザーもいると、小泉さんは言う。「インボイス実施前から傷ついている人がとても多い」(小泉さん)



 宇都宮さんは、「仕入れ税額控除を適格請求書に限るのは、税制改革法の10条2項に違反し、法律的にも問題だ」と、違法性も指摘した。



●登録申請は「3月ではなく9月まで」



 フリーランスは確定申告作業の時期に入っている。取引先から支払調書とともに、インボイス登録の依頼を受け取る人も増えているという。「3月末までに登録だと思っている人も多いが、登録申請は9月末までに延長されている。登録した後、取り下げもできる。登録事業者になれば新たな負担が発生する。どうか焦らずに、制度を知るところから始めてほしい」と小泉さんは言う。



 STOP!インボイスは「おてがみ大作戦」と称し、地方議会に陳情書を送る活動も行っている。「インボイスは小規模事業者に重い負担を求め、地域社会に影響を及ぼす。地方・田舎ほど、小さな事業者が潰れたら復活できない。統一地方選挙が春にあるので、そこに向けて争点となるよう、きっかけを作りたい。各地の方にもぜひ行動していただけたら」(ライターの阿部伸さん)

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