https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08673/
ADEKAは2023年11月、「SPAN(硫黄変性ポリアクリロニトリル)」と呼ぶ硫黄系有機材料を正極材料、Li金属を負極材料に用いたリチウム(Li)硫黄2次電池(Li-S電池)の一種「Li-SPAN電池」について新しい開発成果を多数発表した。
具体的には、
(1)セルの重量エネルギー密度が803Wh/kgという2次電池としての世界最高水準を達成
(2)同500Wh/kgのセルでは充放電サイクルが200回以上、回ることを確認
(3)全固体Li-SPAN電池でセルの重量エネルギー密度350Wh/kgを達成し、充放電サイクルが50回以上、回ることも確認
(4)電池パックとしての重量エネルギー密度が315Wh/kgのLi-SPAN電池で、マイクロドローンのフライトに成功
(5)SPAN正極を用いたLi-SPAN電池の充放電サイクル寿命が他のLi-S電池よりはるかに長い理由を一部解明
(6)Li-SPAN電池の釘刺し試験で、温度上昇が、SPANのS含有率によらず、いずれの場合でも発火や発煙は起こらないことなどを発見
(7)充放電特性を高めた同350Wh/kgのセルで放電レートとして3Cかつ200回以上の充放電サイクルを確認
(8)半固体電池(Semi-solid、またはクレー型電池)で、正極材料の「超厚塗り」によって、単位面積当たりの容量密度が100mAh/cm2を実現
(9)ドライ電極プロセスを適用した液系Li-S電池を試作
これらのうち、(1)~(6)については、2023年11月28~30日に大阪市で開催された電池技術の学会「第64回電池討論会」で詳細を発表した。
電解液や集電体をとことん軽い材料に
ADEKAは2022年の電池討論会で、セルの重量エネルギー密度として708Wh/kgの世界最軽量級Li-SPAN電池を試作したことを発表している。今回の(1)は803Wh/kgで、1年前の記録を更新した(図1)。ちなみに、体積エネルギー密度であればもはや800Wh/Lは珍しくない。しかし、重量エネルギー密度が800Wh/kg超は2次電池としては世界初といえる。
ADEKAによれば、セルの作製プロセスは基本的に今回も同じだとする。軽量化を追求するため、(i)電解液も比重が小さい材料系を選択した、(ii)負極の集電体材料を、一般的な銅(Cu)からより比重が小さいLi箔に変更した、(iii)セルは、100%放電状態で作製するいわゆる「アノード(負極)フリー」プロセスを採用した――といった点である。
SPANの硫黄含有率が52重量%
前回と異なるのは、SPANの硫黄(S)含有率を48重量%から、52重量%に高めた点。48重量%のSPANは既に年間100kgの規模で製造しているが、52重量%のSPANはADEKAの福島県相馬市にある相馬工場で特別に試作した材料だという。
こうして実現した803Wh/kgのセルの充放電サイクル寿命は充放電レートが0.05C(20時間充電)の場合に7~8回だとする。
ADEKAによれば、他機関の研究開発で700Wh/kgというセルの報告例があるというが、その充放電サイクル寿命はわずか1回。事実上の1次電池だ。
7~8回でも実用化にするにはサイクル寿命がやや短いが、「800Wh/kg超という、これまでにない水準の2次電池を開発できたことで、電池としての今後の可能性を示せた」(ADEKA 研究開発本部 環境・エネルギー材料研究所 環境・エネルギー材料研究室の撹上健二氏)という。
500Wh/kgなら実質500サイクル
(2)の500Wh/kgのセルは、軽量化に全振りした(1)のセルよりは、電池設計や材料選択をよりバランスの取れたものにして作製した「バランス型」だという。ただ、(1)と同様、負極集電体にCuは用いていない。SPANとしては“量産品”である48重量%の「ADEKA AMERANSA SAM-8」を用いた。電池容量は5Ahだという。
その充放電サイクル寿命は現在も計測中だが、現時点では「200回以上」(ADEKA)とする。ただし、グラフを見ると250サイクル時点での容量維持率は83.9%。仮にこの傾向が続く場合、電気自動車(EV)などで寿命の基準となる同70%に達するまでには、日経クロステックの計算では506サイクル回る見通しだ(図2)。「用途によっては実用化可能な水準かもしれない」(撹上氏)。
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