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dts Japanが「IMAX Enhanced」についてのメディア向け説明会を開催した。ソニーの液晶テレビ「BRAVIA 9」(「XR90」シリーズ)を使ったデモンストレーションの様子と「IMAX Enhanced」についての解説をお届けする
最新AV機器は映像、音声を問わずさまざまな規格(フォーマット)に対応し、それらを再生することが求められている。中には事実上対応が必須のものもあれば、そうでもないものもあり、ユーザーとしては自分にとって必要なものを取捨選択していく必要があるというわけだ。
ここでは、そういった規格のひとつである「IMAX Enhanced(アイマックスエンハンスド)」について解説しよう。
そもそも「IMAX Enhanced」って何?
念のため確認しておくと、「IMAX(アイマックス)」とは、カナダのIMAXコーポレーションによる映画館向け独自システムのこと。映画撮影時のカメラ、フィルムのほか、上映時のプロジェクターやスピーカー、画面アスペクト比などに独自の基準があり、一定の基準を満たした映画館(スクリーン)はIMAXシアターとして認証される。
詳細は関連記事をご覧いただきたいが、これは詰まるところ、IMAX認証を得た映画館であれば高画質・高音質を楽しめますよ、ということだ。もちろんこれはIMAXが勝手に言っていることで、本当に高画質・高音質かどうかは皆さん自身が確かめるしかない。
そして「IMAX Enhanced」である。これをひと言で表せば、「IMAX」の家庭バージョンということになるだろう。IMAXコーポレーションが認証を与える相手が、映画館(スクリーン)ではなく、テレビやプロジェクターといったディスプレイ、AVアンプ、サウンドバーなどに置き換わったものだと言える。
テレビやAVアンプが「IMAX Enhanced」認証を得るためには、やはり独自の基準を満たす必要があり、認証を得ていれば「IMAX Enhanced」対応コンテンツを“お墨付き”の状態で――つまりは高画質・高音質で――楽しめる(はず)。これが「IMAX Enhanced」の概要だ。
「IMAX Enhanced」が発表されたのは2018年のこと。AV機器を追い続けている人は「IMAX Enhanced」対応製品というのを耳にすることが多かったと思うが、これまで大きな盛り上がりは見せていない。これには明確な理由がある。「IMAX Enhanced」対応コンテンツが普及していなかったからだ。
Disney+が「IMAX Enhanced」対応作品を配信開始
Disney+は「QUEEN ROCK MONTREAL」などの「IMAX Enhanced」バージョンを配信開始した。日本では合計17作品を視聴可能だ(2024年10月23日時点)
そんな状況下で「IMAX Enhanced」対応製品だけが何となく増えていたのだが、この停滞感を打破する出来事があった。Disney+で「IMAX Enhanced」対応コンテンツが配信されることになったのだ。
Disney+とは、ディズニーが展開する動画のサブスクサービスのこと。ディズニーやピクサー作品に加え、マーベル作品や「スター・ウォーズ」シリーズなどが見放題のサービスだ。日本でも名の知れたメジャーサービスで対応コンテンツが配信されるとあって、いよいよ「IMAX Enhanced」が動き出したと筆者も期待している。
ただし、日本で視聴可能な「IMAX Enhanced」対応コンテンツは、クイーンのコンサート作品「QUEEN ROCK MONTREAL」など17作品とまだまだ限定的。そのほかは以下の表のとおり、マーベル作品が中心だ。
Disney+で配信される「IMAX Enhanced」対応作品表(これと「QUEEN ROCK MONTREAL」で合計17作品)。「IMAX Enhanced」バージョンの再生にはプレミアムプランでの契約が必要だ
「IMAX Enhanced」のユーザーメリットは大きく3つ
認証システムの立て付けや理想はともかく、ユーザーにとって何より重要なのは、再生時に何のメリットがあるの? ということだろう。dts Japanが開催した説明会で、いろいろなことが明らかになったので、「IMAX Enhanced」のユーザーメリットについて解説しよう。
「IMAX Enhanced」の特徴が説明されたスライド。3つの要素としてあげられているのは「IMAGE」(画質)、「SOUND」(音質)、そして「SCALE」(専用アスペクト)だが……
「IMAX Enhanced」のユーザーメリットを簡単にまとめると、以下の3つということになりそうだ。順に見ていこう。
●専用の画質・音質モードを利用できる
●DTS:X音声を再生できる
●専用のアスペクト比(画角)で作品を視聴できる
認証製品は「IMAX Enhanced」専用の画質・音質モードを持っている
「IMAX Enhanced」の認証基準は明らかにされていないが、画質にしても音質にしても一定以上の性能が求められるようだ。つまり、認証を得た製品はある程度のクオリティが担保されていると考えられる。少なくとも、映画館と同様にIMAXコーポレーションが認めた製品であることは間違いないというわけだ。ここはかつて流行したTHXの認証システムに似ている。
さらに「IMAX Enhanced」認証製品はクオリティの基準を満たしているだけではない。必ず「IMAX Enhanced」専用の画質モードもしくは音質モードを持っているのだ。ユーザーの実使用に関わるのはこの部分だろう。
こちらはAVアンプ。「IMAX Enhanced」コンテンツを再生して信号を入力すると、「IMAX DTS:X」と表示された
基本的には「IMAX Enhanced」対応コンテンツを再生すると、テレビであれば専用の画質モード、AVアンプであれば専用の音質モードに切り替わり、IMAXコーポレーションが認めた画質・音質で作品を楽しめる。これが想定される形だ。
現状では必ずしも自動切り替えが行われるわけではないようだが、制度の趣旨からいえば、専用モードでコンテンツを視聴してもらうのが筋だろう。たとえばテレビの場合、せっかく認証を得た製品であっても明るさ重視の店頭モードで“IMAX画質”を得るのは難しいはずだ。
専用画質モードがどのようなものであるか、基準は明らかにされていないが、色温度が映画の基準である6,500Kになるなど、基本的なマナーが守られていることは間違いなさそう。再生コンテンツとハードウェア、双方の特性を把握しているIMAXコーポレーションが「これが最適です」と提示しているモードなので、ここにメリットがある、という筋立てだったはずだ。
いっぽうの専用音質モードについては、発表当時はベースマネージメントを積極的に行う設定であることが言及されていた。やはり詳細は非公開ではあるが、THXのようにフロントを含む全スピーカーの80Hz以下の帯域をサブウーハーから再生させるような設定だ。
2018年時点の話によれば、これは元々のIMAX劇場用音声である5.0や7.0、12.0chといったLFE(サブウーハーch)を持たないデータを7.1chや7.1.4chのDTS:X音声に変換して利用するという点に由来しているようだ。変換時のベースマネージメントの仕方(「.1」の作り出し方)がポイントであり、それを生かす設定がAVアンプにも反映されるということなのだろう。
とはいえ、このような設定はAVマニアにはフィットしない可能性があることに注意が必要だ。音質モードはあくまでAVアンプのものであって、ユーザーがどんなスピーカーをどんな状況で使っているかはわからない。ユーザーとしてはスピーカーと自宅環境に合わせた自動もしくは手動設定をしているはずなので、そちらを優先したほうがよい結果を得られることもあるはずなのだ。
というわけでよい結果が得られるかどうかはさておき、1つ目のユーザーメリットは、「IMAX Enhanced」専用の画質・音質モードを選択できることにある。
独自にミックスされたDTS:X音声を楽しめる
2つ目のメリットは、DTS:X音声を楽しめること。DTS:Xとは、DTSによる3次元立体音響フォーマットのこと。誤解を恐れずに言えば、Dolby Atmosのようなものだ。これだけ聞くと「別にDolby Atmosでいいよ」と思われるかもしれないが、重要なのはその中身。
説明会に参加したプレミアムオーディオカンパニーテクノロジー(旧オンキヨーテクノロジー )の担当者によれば、「IMAX Enhanced」向けのDTS:X音声では、一般的な家庭用として製作されるようなニアフィールドミックスを行わないという。
オンキヨー、パイオニアブランドのAVアンプの設計、開発を手掛けるプレミアムオーディオカンパニーテクノロジーの担当者によれば、「IMAX Enhanced」向けの音声は、一般的なニアフィールドミックスを施されない
こちらが一般的な家庭向け映画音声制作のワークフロー。映画館向けミックス音声のダイナミックレンジ(音の大小の差)をあえて狭めて、狭小空間でもそれなりに楽しめるように仕上げたのがニアフィールドミックスというわけだ
具体的には、「IMAX Enhanced」向けのDTS:X音声は、一般的な家庭用ミックスよりも広めのダイナミックレンジをとってあり、それを再生できるすぐれた性能を持った製品が「IMAX Enhanced」認証を得られるという。
さらにdts Japanの担当者によれば、Disney+などのストリーミング再生向けDTS:Xの中身は、ストリーミングに最適化されたProfile2もしくはP2と呼ばれるもの。従来の(非可逆圧縮の)DTS音声よりも高効率で、「聴感的にはロスレス(可逆圧縮)と同等」とのことだ。
上記のとおり劇場向け音声をベースとした広いダイナミックレンジの音声を再生できるならば、「ちょっとよさそうかも」という気がしてこないだろうか。
専用のアスペクト比(画角)で作品を視聴できる
3つ目のメリットは、専用アスペクトの映像を楽しめること。特に「IMAX Enhanced」対応コンテンツにIMAXカメラで撮影された素材などがある場合、いわゆるシネスコよりも上下に広い映像を再生できるのだ。
グレー部が16:9つまりテレビの画面サイズ。多くの映画で採用されるシネスコ(2.35:1)では上下の黒帯(映像非表示部)が多めだが、「IMAX Enhanced」対応コンテンツでは(1.90:1)黒帯が少なくなる
映画館の「IMAX」では、写真のように大きな映像を再生できることをアピールしている。これはIMAXカメラで撮影された素材が元々シネスコサイズよりも上下に広いから。作品によってはシーンごとに映像の縦横比が変わる
つまり、「IMAX」仕様の映画館で上映される映像と同様に、元々の素材が上下に広い場合、それを活用して見せてくれるということ。映画全編にわたって上下に広い映像素材がない場合は、左右をトリミングして拡大することもあるようだ。こうした処理は一律にされるわけではなく、作品や素材、そしてシーンに応じて最適化されるという。
そして、この独自アスペクト比の映像は「IMAX Enhanced」対応製品でなくとも再生できる。「IMAX Enhanced」対応コンテンツを再生する場合は誰でもメリットを享受できるわけで、実はこの点が「IMAX Enhanced」の最も大きなポイントなのではないかと思う。
実際にDisney+で対応コンテンツを確認すると、一般的なアスペクト比(シネスコ)と「IMAX Enhanced」の1.90:1を選択できるようになっていた。これは面白い。映画館に足を運ぶ際に、一般的なスクリーンで見るか、「IMAX」で見るかを選ぶような感覚だ。
アスペクト比が異なるということはもちろん映像素材の出所から異なるはずで、2018年時点では、IMAXコーポレーションの独自処理「DMR(Digital Media Remastering)」を施したデータがマスターだとされていた。アスペクト比だけではなく、画質にも差があるかもしれない。
Disney+の「IMAX Enhanced」対応作品をDTS:Xで楽しむには……
ソニーの最新テレビで「IMAX Enhanced」対応コンテンツを見ると、「IMAX Enhanced」「dtsx」というバッジが表示される
では、「IMAX Enhanced」対応コンテンツをDTS:X音声を含めて再生するには、どうすればよいのか。これが説明会の趣旨だったわけだが、2024年10月時点ではかなり限定的だ。
1 DTS:X対応の「IMAX Enhanced」認証Android/Googleテレビで
2 Disney+アプリを立ち上げ、「IMAX Enhanced」対応コンテンツを再生
3 eARC/ARC経由で「IMAX Enhanced」認証AVアンプへ音声を送る
この手順を踏まなければならない。ここで問題となるのは「1」だ。説明会時点での対応テレビはソニーの最新テレビのみ。現状では、皆さんどうぞ体験してくださいというわけにはいかないのだ。
とはいえ、各プラットフォームでDisney+のDTS:Xを再生できる環境は整っていくはずだ。アマゾン「Fire TV」シリーズやアップル「Apple TV 4K」などで再生できるようになることを期待したい。
ソニーの2024年モデルで「IMAX Enhanced」認証を得ているのはこちらの7機種(シリーズ)。テレビとしては「A95L」シリーズのほか、「BRAVIA 7」(「XR70」シリーズ)、「BRAVIA 8」(「XR80」シリーズ)、「BRAVIA 9」(「XR90」シリーズ)が対応している
ソニー製のテレビは「Sony Pictures CORE」という独自の映画ストリーミングサービスに対応している。こちらでも「IMAX Enhanced」対応作品が配信されているが、2024年10月時点ではDTS:Xに非対応。今後のアップデートを予定しているとのこと
「BRAVIA 9」で「IMAX Enhanced」を体験してみた
dts Japanの視聴室にて、「BRAVIA 9」の85V型モデル「K-85XR90」を使ったデモンストレーションを体験した。AVアンプはマランツの「AV8805」と「MM8077」、スピーカーはKEFの「Q」シリーズを中心とした7.1.4chシステム
最後に、「BRAVIA 9」の85V型モデル「K-85XR90」を使ってDisney+の「IMAX Enhanced」対応コンテンツを再生してもらったのだが、確かに充実した画質・音質だと感じられた。
特に「QUEEN ROCK MONTREAL」は1981年に撮影された作品とは思えないほどのきれいさ。35mmフィルム撮影とのことだが、フィルムグレインが少なすぎでは、と思うほど。リマスターが入念に行われたのだろう。
もちろんこれは「BRAVIA 9」の素性のよさがあってのこと。「XRバックライト マスタードライブ」によるmini LEDバックライトの操作、「エックス ワイド アングル」での広視野角化の効果が出ているのだろう。85V型という大画面であっても、液晶テレビで目につきやすい弱点を感じさせない仕上がり。そもそもテレビの方式を意識させない自然な動きだ。mini LEDバックライト液晶テレビをひとくくりにしがちな昨今ではあるが、ソニーのフラッグシップモデルはさすがにひと味違う。
音質についても、確かに「DTS:X、ちょっといいかも……」と思わせる迫力と音場の広がり。「ソー:ラブ&サンダー」で流れる「Welcome to the Jungle」のイントロのディレイが2ch音源ではありえないほど心地よく広がり、戦闘におけるSEの移動感が明瞭。重低音もストリーミングにしてはズシンと響く。環境やセッティングの影響もあるとは思うが、自宅で確認したいと思わせる再生だったことは間違いない。
この日はソニーの最新テレビを使ったデモンストレーションが行われたが、現状でもXiaomiの「TV S Mini LED 2025」シリーズやTCLの「C755」「C855」「X955」シリーズは「IMAX Enhanced」の認証自体は受けており、Disney+での「IMAX Enhanced」コンテンツ再生もソフトウェアアップデート対応を検討しているとのこと。DTS:X再生を含めた「IMAX Enhanced」対応機器が順調に増えることを期待したい。
Xiaomiのmini LEDバックライト搭載液晶テレビ「TV S Mini LED 2025」シリーズやTCLの「C755」「C855」「X955」シリーズも「IMAX Enhanced」認証を受けている
主な「IMAX Enhanced」認証製品としてあげられたのはこちらのリスト。サウンドバーではソニーの「BRAVIA Theatre Bar」シリーズ(「HT-A9000」「HT-A8000」)があげられている
「BRAVIA Theatre Quad」とは、ワイヤレススピーカーでサラウンドシステムを構築するセット「HT-A9M2」のこと
オンキヨーのAVアンプはトップエンドの「TX-RZ70」(写真)のほか、弟機「TX-RZ50」も「IMAX Enhanced」の認証を得ている
パイオニアブランドでは「VSA-LX805」(写真)と「VSX-LX305 」が「IMAX Enhanced」の認証品。リストにはデノン、マランツの現行AVアンプもあげられているが、2018年に発売された 旧モデル「AVC-X8500H」なども「IMAX Enhanced」の認証を得ていた製品だ。高級AVアンプのユーザーはすでに“レディ”状態の可能性もある。確認してみるとよいだろう
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