2025年4月11日金曜日

細菌から作った第4の回路素子「メモリスタ」で人間の脳を模倣することに成功(米研究) 牡丹堂 (著)・パルモ (編集) 公開:2020-04-29・更新:2020-04-29

https://karapaia.com/archives/52290168.html#comments

https://karapaia.com/archives/52290168.html#comments

この画像を大きなサイズで見る
細菌から作るメモリスタで人間の脳を模倣 /iStock

 人間はもちろん、生物の脳は、きわめて効率的に信号を処理して、知的な意思決定を行うことができる。

 その処理メカニズムを真似することができれば、これまで以上に高度なコンピューターシステムを開発することができるだろう。

広告の下に記事が続いています

 その実現のために有望視されているのが、第4の回路素子と呼ばれる「メモリスタ」だ。これはある状態変数によって蓄積型の刺激を記録できるために、脳の神経形態学的な挙動を模倣できると考えられている。

 新たなる研究によると、細菌から開発されたタンパク質ナノワイヤーで、メモリスタの電圧を神経形態学的レベルにまで引き下げることに成功したという。

生物学的コンピューター実現を阻む最大の難関

 だが、メモリスタで生物学的コンピューターを実現するには、脳のエネルギー効率性という大きな難関がある。

 マサチューセッツ大学アーマスト校(アメリカ)のフ・ティエンダ氏によると、従来のコンピューターのほとんどが1ボルト以上の電圧で作動しているのに対して、脳はわずか80ミリボルト(1ボルト = 1000ミリボルト)で信号を送信できるのだという。

 ティエンダ氏は、メモリスタが登場してから10年の時を経て、ようやく既存のコンピューター並みのエネルギー効率が達成されたが、脳に匹敵するほどの効率性となると不可能に思えたと語る。

 この研究は『Nature Communications』(4月20日付)に掲載されている。

Bioinspired bio-voltage memristors | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-15759-y

細菌から作り出したナノワイヤーでメモリスタの実現に成功

 しかし、ついにほとんど不可能とも思われた脳並みのエネルギー効率が実現可能であることが実証されたようだ。

 フ氏らは、ゲオバクター属の細菌から開発されたタンパク質ナノワイヤーで、メモリスタの電圧を神経形態学的レベルにまで引き下げることに成功したと報告している。

 ゲオバクターから作られた電導タンパク質ナノワイヤーを組み込んだ新型メモリスタは、脳と同じく、非常に小さな電圧でも圧倒的な処理能力を発揮し、ニューロンからニューロンへと信号を伝えることができる。

これまで、脳に匹敵するエネルギー効率のデバイスが開発できるなど期待すらされませんでしたが、ついに超低電力コンピューティングが可能であるという現実的な証拠を手にすることができました(ヤオ・ジュン氏)

この画像を大きなサイズで見る

ジオバクター属の細菌(オレンジ)から採取されたタンパク質ナノワイヤー(緑)は、電子メモリスタデバイス(銀)が生物学的電圧で機能し、脳の神経コンポーネント(青い接合部)をエミュレートするのを容易にする

image credit:

呼吸するナノワイヤー

 実験では、メモリスタに組み込まれている金属スレッド(糸)に正電荷と負電荷がオンとオフに切り替わるパルスを流して、さまざまな電圧の下でのその性能が確認された。

 金属スレッドが利用されたのは、タンパク質ナノワイヤーが金属還元をスムーズに進め、金属イオン反応と電子移動特性を変えることができるからだ。

 だが、デレク・ラブリー氏によると、こうした性能は特に驚くには当たらないのだという。と言うのも、ちょうど私たちが酸素を呼吸をするのと同じように、タンパク質ナノワイヤーもまた呼吸をしており、金属を化学的に還元することでエネルギーを得ているからだ。

この画像を大きなサイズで見る
電気化学信号を送るシナプス細胞とニューロン細胞/iStock・cosmin4000

ハードウェアレベルでシナプスの挙動を模倣

 オン・オフのパルスが金属スレッドを変化させると、人間の髪の毛の直径の100分の1という極小デバイスの中で新しい分岐と結合が形成される。これが、脳が学習するときのメカニズムと似たような効果を発揮してくれる。

 「導電性――つまりナノワイヤー・メモリスタ・シナプスの可塑性を調節して、脳をモデルにしたコンピューター用の生物学的部品をエミュレートできます。従来のコンピューターとは対照的に、このデバイスにはソフトウェアに依らない学習能力があるのです」と、ヤオ氏は説明する。

 さらに、タンパク質ナノワイヤーには、高価で、製造には有害な化学物質や大量のエネルギーが必要だった従来のシリコン・ナノワイヤーにはない、いくつもの利点があるという。

 たとえば、タンパク質ナノワイヤーは水や体液の中でより安定的だ。これは将来的に生体医療への応用を考案する際にも重要な性質であるそうだ。

References:Researchers unveil electronics that mimic the human brain in efficient learning/ written by hiroching / edited by parumo

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中
今、あなたにオススメ

この記事へのコメント 13件

コメントを書く

  1. そして今この記事を見ているつもりの君は
    仮想的な人生をシミュレーションされてる作られた脳なんだけどね

  2. こんなのが自然界に放たれ、勝手に進化してとんでもない生物に変化することはないのか?

  3. 薄い膜状で記憶装置として使えるなら脳に置かなくても筋肉内や臓器表面に置いてドライブレコーダーとして人類に強制使用すれば犯罪以外もあらゆる面で管理できる、と思えば中国が頑張って実用化してくれそう

  4. まずは電子デバイスと人体をつなぐインターフェイスに利用できそうだな

  5. 今、メーカー・大学がこぞってタンパク質ナノワイヤー研究してるみたいやね

  6. この「タンパク質ナノワイヤー」って、耐久性はどうなんだろう?
    使ってるそばから、断線したり、タンパク質だから熱変性したり分解したりとか、そういう長く使っていく上での問題点はないのかな?
    回路を維持・修復するための工夫が欠かせないけどそれは未だだとか、「ナノマシンを活用します(キリッ!)」とか、じゃないよね?

0 コメント:

コメントを投稿