2015年5月12日火曜日

刑務所内でIT教育をして再犯防止を!

(世界発2015)塀の中、IT起業夢見て 米国初、刑務所でプログラミング講座

2015年5月12日5時0分


修了書を手に記念撮影する受刑者ら=いずれも米カリフォルニア州、宮地ゆう撮影
 米サンフランシスコ近郊の刑務所で、プログラマーやIT起業家を育てる米国初の試みが進んでいる。出所後、起業を目指す人も出てきた。シリコンバレーのプログラマー不足を補い、再犯率を減らす「一石二鳥」になるのではと期待の声が上がる。
 4月20日、サンフランシスコ近郊のサンクエンティン刑務所を訪れた。死刑囚約710人を含む約3900人の男性受刑者が収容されている。
 分厚い鉄格子を3回通って中に入ると、青のシャツとズボンに黄色の文字で「受刑者」と書かれた囚人服の4人に「ようこそ」と笑顔で迎えられた。
 この日、半年間のプログラミング集中講座の初の修了式があった。シリコンバレーの投資家やIT企業、州矯正局関係者ら約100人が招かれた。
 修了者16人を代表して、クリス・シューメーカー受刑者(42)がスピーチした。「679時間、コンピューターに向かって学び、人生の道筋が変わった。いつか同じ時間を人のために役立てたい」。殺人を犯して最長で終身刑の判決を受け、15年服役。6月に仮釈放が検討される。
 修了者のエリン・オコナー受刑者(43)は教室のコンピューターで、作ったプログラムを見せてくれた。プログラム言語を学ぶ人向けの学習ツールだという。
 1994年に殺人罪で25年の判決を受けた。服役して21年。「ネットのある世界はまだ知らない」と話す。それでも「技術を磨いて、出所したらIT関係の仕事に就きたい」。
 米国の刑務所で初となるプログラミング講座は、昨年10月に始まった。
 刑務所内では、ネットの利用を禁じられている。プログラミングの専門学校が、ネット接続なしでできる教材を無償で開発した。同校の卒業生数人もボランティアで講師を務めるため、通常1人100万円以上かかる費用は無料だ。
 希望者約350人から約20人が選ばれ、1日8時間、週4日の授業を受けた。修了書を得るには試験に合格しなくてはならない。
 州矯正局の担当者チャック・パティーロさんによると、プログラミングの仕事をこの講座の修了生に発注してもらう方向で、すでに数社と話が進んでいる。
 この刑務所では2011年末、起業家養成講座が先に始まった。資金調達や会社運営など、すぐに役立つ起業のノウハウを半年間、集中的に学ぶ。
 IT産業の基礎を書籍で学び、起業家らに来てもらって話を聞く。その後、自分で起業プランを立て、投資家向けに発表する。12年5月に初開催された発表会には、投資家ら約400人が参加した。
 ■プログラマー不足も補う
 試みの始まりは、2010年、投資家のクリス・レドリッツさん(59)が、講演のため、この刑務所を訪れたことだった。「不運な環境のために犯罪に走った人がたくさんいた。人生をやり直す手伝いができないかと、考えるようになった」
 刑務所では、車のナンバープレートや家具作りなどの職業訓練もしているが、安定した就職につながっていない。出所後3年以内に再び罪を犯す率は6割を超す。州矯正局によれば、受刑者1人にかかる費用は年間約6万2千ドル(約740万円)。出所者が安定した職を得られれば再犯率は減り、州の財政負担も減ることが期待される。
 レドリッツさんは「出所後の生活を維持するには、成長産業に目を向けるべきだ」と考えた。シリコンバレーを中心に、プログラマーは不足している。
 雇う人の不安を払拭(ふっしょく)するため、雇用者は元受刑者に犯した罪を含めて何でも尋ねてよく、受刑者もすべてを正直に話す、というルールを決めた。
 「シリコンバレーは失敗してもやり直しがきく場所。ここから受刑者が人生をやり直す機会を広めたい」
 すでに実社会で歩み始めている人もいる。
 サンフランシスコ市内の「ロケットスペース」。起業家に共有の仕事場を提供し有名ベンチャー企業を育んできた会社だ。講座で学んだ元受刑者3人が働く。
 施設管理者のケニヤッタ・リールさん(46)は、起業家養成講座の初の卒業生だ。強盗や銃の不法所持で24歳で終身刑となった。模範囚として仮釈放が検討され、講座で必死に学んだ。
 13年7月に出所。「ロケットスペース」で時給15ドル(約1800円)で働き始め、現在は年収5万ドル以上(約600万円)を得る。起業家を間近に見ながら、「いずれは自分も」と意気込む。
 時折、刑務所を訪れて自分の体験を語る。背広姿に、かつての仲間が羨望(せんぼう)の目を向ける。「あいつができるなら自分もやれる、と希望を与えるのが自分の役目なんだ」
 (カリフォルニア州サンクエンティン=宮地ゆう

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