国民的熱狂を生んでいるポケモンGOは、1兆円規模に迫る日本のモバイルゲーム市場にどう影響するのか――。矢野経済研究所は今年3月、2016年度の国内スマホゲーム市場規模が9,450億円に達すると予測した。しかし、この予測にはもちろん、その数ヶ月後に登場したポケモンGOの効果は見込まれていない。
ポケモンGOは7月22日の日本配信開始から1日足らずで「パズドラ」や「モンスト」を抜き去りiTunesのトップセールス首位に躍り出た。これに対しソーシャルゲーム業界関係者からは次々と「ポケモン脅威論」が浮上した。
アプリ業界に詳しい小倉大介氏は「ポケモンGOに殺されるアプリ市場と広告市場」と題したブログ記事で、ユーザーの可処分時間を奪い尽くすポケモンGOは従来のゲームの利用時間を奪い、売上を激減させるとの持論を展開。口コミのみで人気を獲得したポケモンGOは、数億円レベルのテレビCM費用が投じられる広告ビジネスをも破壊するとも懸念されている。
また投資関連ニュースサイト「Market Hack」も、オンライン・ゲームから多くの売上を得ているLINEもポケモンGOに「ぶっ殺される」リスクがあると述べた。
ポケモンGO上陸から数日が経過した現在、関係者らは現状をどう捉えているのだろう。ドイツ出身で海外の投資家向けに日本のモバイルゲーム情報を提供するカンタンゲームス代表、セルカン・トト氏に話を聞いた。
「パズドラ」には影響無し
――ポケモンGOの日本上陸はソーシャルゲーム業界に壊滅的打撃を与えるとの憶測も流れました。現状をどのように分析しますか?
配信開始後、初めての週末を終えた7月25日時点のデータでは、「パズドラ」や「モンスト」といった大手の売上にはほとんど影響が出ていません。私は、ポケモンGOは既存のゲームとは全く違った客層を獲得したと見ています。ポケモンGOは誰にでも理解可能で、操作も簡単なカジュアルなゲームです。
【関連】「ポケモンGO」の任天堂だけじゃない モバイルゲーム関連銘柄が好調
パズドラやモンストは、収益の大半をごく限られたゲーム中毒的な客層から得ています。こういった層はポケモンGOが上陸したからといって、すぐに今遊んでいるゲームから離れたりはしません。
ただし、パズドラやモンストを運営するガンホーやミクシィ等の企業にとっては今後、コア層をいかにつなぎとめるかが一層重要になります。さもなければ、彼らのビジネスは危機に瀕します。
――日本のモバイルゲームは世界から見ると非常に特殊で、グローバル市場から孤立した”ガラパゴス状態”という見方もありますが。
一般的にはそう捉えられています。しかし、ここ数年で状況に変化が生まれつつある。ストアの売上ランキングの上位を見てみれば、ヨーロッパや米国、韓国のゲームが入っていることに気づきます。5年前の日本のソーシャルゲーム市場は本当に閉ざされた世界でしたが、外国勢の流入は進んでいます。そんな流れの中でポケモンGOは上陸したのです。
「ガチャ依存」が続く国産ゲーム
――ポケモンGOが画期的なのは日本のソーシャルゲームで必須になっている、ガチャ課金(くじ引き的な仕組みでアイテムを付与し、ユーザーの射幸心を煽る仕掛け)がない点です。これは日本のモバイルゲーム業界に「目を覚ませ」と呼びかける効果もあると思いますか?
ガチャは日本では受け入れられていますが、海外では決して成功しない仕組みです。海外ではゲームを有利に進めるためのアイテムやコインに課金する方式が主流で、客単価も日本のゲームと比べると格段に低い。ナイアンティックの戦略が優れているのは、ポケモンという日本のブランドを用いたゲームでありながら、日本上陸に際して、ガチャの存在を無視した点です。
しかし、ポケモンGOの成功を目にしても、日本のモバイルゲーム企業は、今後もガチャを使い続けるでしょう。何故なら、ガチャは非常に強力な集金システムだからです。さらに、ポケモンGOは従来のソーシャルゲームとは全く違ったゲームであり、彼らの参考にはなりません。ポケモンという非常に強力なIP(キャラクター)とGPS、そしてARを組み合わせたポケモンGOは、ガチャを必要としない「例外的な」ゲームなのです。
ポケモンGOが与える「恩恵」
――ガチャは非常に有害なシステムであるという批判もあります。月に数十万円に及ぶ重課金を生じさせるガチャは、社会問題も引き起こし、業界団体はガチャでレアアイテムを取得させる際の金額の上限を5万円以下にする動きも見せています。しかし、このガチャ依存こそが、日本のモバイルゲームが海外で成功できない理由との見方もあります。
全くその通りです。正直な話、ヨーロッパや米国のユーザーはガチャに嫌悪感を抱きますし、理解不能と捉えるでしょう。ガチャ依存が日本のモバイルゲームの海外進出を阻んでいることは確かです。
そして、さらに深刻なのは海外市場向けに、ガチャに置き換わる仕組みを生み出すことが非常に困難であることです。今後も日本企業は、ガチャを搭載したゲームをヨーロッパや北米向けにリリースして、失敗を重ねるという状況が続くと見ています。
――見方を変えると、ポケモンGOの大ブームにより、これまでスマホのゲームに触れたことのない新たな客層が日本で生まれたとも考えられます。その意味では日本のモバイル業界には好機とも考えられますか?
同意見です。ポケモンGOと既存のソーシャルゲームは非常に異なったコンセプトで、異なったユーザーを相手にし、全く違うユーザー体験を与えています。ポケモンGOは全く新しいゲームとして、これまで既存のソーシャルゲームを一切触れたことが無かった層を掘り起こします。それらのユーザーが既存のソーシャルゲームに流入するといった事態も想定できます。ポケモンGOは文字通りゲーム・チェンジャーとして、従来の流れを変える存在です。しかし、必要以上に恐れる必要はありません。ゲームはまだ終わってはいないのです。
ポケモンGOは7月22日の日本配信開始から1日足らずで「パズドラ」や「モンスト」を抜き去りiTunesのトップセールス首位に躍り出た。これに対しソーシャルゲーム業界関係者からは次々と「ポケモン脅威論」が浮上した。
アプリ業界に詳しい小倉大介氏は「ポケモンGOに殺されるアプリ市場と広告市場」と題したブログ記事で、ユーザーの可処分時間を奪い尽くすポケモンGOは従来のゲームの利用時間を奪い、売上を激減させるとの持論を展開。口コミのみで人気を獲得したポケモンGOは、数億円レベルのテレビCM費用が投じられる広告ビジネスをも破壊するとも懸念されている。
また投資関連ニュースサイト「Market Hack」も、オンライン・ゲームから多くの売上を得ているLINEもポケモンGOに「ぶっ殺される」リスクがあると述べた。
ポケモンGO上陸から数日が経過した現在、関係者らは現状をどう捉えているのだろう。ドイツ出身で海外の投資家向けに日本のモバイルゲーム情報を提供するカンタンゲームス代表、セルカン・トト氏に話を聞いた。
「パズドラ」には影響無し
――ポケモンGOの日本上陸はソーシャルゲーム業界に壊滅的打撃を与えるとの憶測も流れました。現状をどのように分析しますか?
配信開始後、初めての週末を終えた7月25日時点のデータでは、「パズドラ」や「モンスト」といった大手の売上にはほとんど影響が出ていません。私は、ポケモンGOは既存のゲームとは全く違った客層を獲得したと見ています。ポケモンGOは誰にでも理解可能で、操作も簡単なカジュアルなゲームです。
【関連】「ポケモンGO」の任天堂だけじゃない モバイルゲーム関連銘柄が好調
パズドラやモンストは、収益の大半をごく限られたゲーム中毒的な客層から得ています。こういった層はポケモンGOが上陸したからといって、すぐに今遊んでいるゲームから離れたりはしません。
ただし、パズドラやモンストを運営するガンホーやミクシィ等の企業にとっては今後、コア層をいかにつなぎとめるかが一層重要になります。さもなければ、彼らのビジネスは危機に瀕します。
――日本のモバイルゲームは世界から見ると非常に特殊で、グローバル市場から孤立した”ガラパゴス状態”という見方もありますが。
一般的にはそう捉えられています。しかし、ここ数年で状況に変化が生まれつつある。ストアの売上ランキングの上位を見てみれば、ヨーロッパや米国、韓国のゲームが入っていることに気づきます。5年前の日本のソーシャルゲーム市場は本当に閉ざされた世界でしたが、外国勢の流入は進んでいます。そんな流れの中でポケモンGOは上陸したのです。
「ガチャ依存」が続く国産ゲーム
――ポケモンGOが画期的なのは日本のソーシャルゲームで必須になっている、ガチャ課金(くじ引き的な仕組みでアイテムを付与し、ユーザーの射幸心を煽る仕掛け)がない点です。これは日本のモバイルゲーム業界に「目を覚ませ」と呼びかける効果もあると思いますか?
ガチャは日本では受け入れられていますが、海外では決して成功しない仕組みです。海外ではゲームを有利に進めるためのアイテムやコインに課金する方式が主流で、客単価も日本のゲームと比べると格段に低い。ナイアンティックの戦略が優れているのは、ポケモンという日本のブランドを用いたゲームでありながら、日本上陸に際して、ガチャの存在を無視した点です。
しかし、ポケモンGOの成功を目にしても、日本のモバイルゲーム企業は、今後もガチャを使い続けるでしょう。何故なら、ガチャは非常に強力な集金システムだからです。さらに、ポケモンGOは従来のソーシャルゲームとは全く違ったゲームであり、彼らの参考にはなりません。ポケモンという非常に強力なIP(キャラクター)とGPS、そしてARを組み合わせたポケモンGOは、ガチャを必要としない「例外的な」ゲームなのです。
ポケモンGOが与える「恩恵」
――ガチャは非常に有害なシステムであるという批判もあります。月に数十万円に及ぶ重課金を生じさせるガチャは、社会問題も引き起こし、業界団体はガチャでレアアイテムを取得させる際の金額の上限を5万円以下にする動きも見せています。しかし、このガチャ依存こそが、日本のモバイルゲームが海外で成功できない理由との見方もあります。
全くその通りです。正直な話、ヨーロッパや米国のユーザーはガチャに嫌悪感を抱きますし、理解不能と捉えるでしょう。ガチャ依存が日本のモバイルゲームの海外進出を阻んでいることは確かです。
そして、さらに深刻なのは海外市場向けに、ガチャに置き換わる仕組みを生み出すことが非常に困難であることです。今後も日本企業は、ガチャを搭載したゲームをヨーロッパや北米向けにリリースして、失敗を重ねるという状況が続くと見ています。
――見方を変えると、ポケモンGOの大ブームにより、これまでスマホのゲームに触れたことのない新たな客層が日本で生まれたとも考えられます。その意味では日本のモバイル業界には好機とも考えられますか?
同意見です。ポケモンGOと既存のソーシャルゲームは非常に異なったコンセプトで、異なったユーザーを相手にし、全く違うユーザー体験を与えています。ポケモンGOは全く新しいゲームとして、これまで既存のソーシャルゲームを一切触れたことが無かった層を掘り起こします。それらのユーザーが既存のソーシャルゲームに流入するといった事態も想定できます。ポケモンGOは文字通りゲーム・チェンジャーとして、従来の流れを変える存在です。しかし、必要以上に恐れる必要はありません。ゲームはまだ終わってはいないのです。
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