無線LAN規格「IEEE 802.11ah(以下、802.11ah)」の関連団体である802.11ah推進協議会が2018年11月、国内での活動を開始した。同協議会には通信事業者や通信機器メーカー、商社、学術団体など56社(者)が参加。日本国内ではまだ使用できない802.11ahという規格を利用可能にするための取り組みを進めるという。
 突如現れた感もあるが、802.11ahはIEEE(米電気電子学会)で標準化済みの規格で、業界団体のWi-Fi Allianceでは「Wi-Fi Halow(ヘイロー)」と呼ばれている。れっきとした無線LAN技術の一種だが、その知名度は低い。またカバーエリアが広いことから、IoT向け通信技術「LPWA(ローパワーワイドエリア)」の方式にも数えられており、なおさらその位置付けが分かりにくい。そこで新団体が立ち上がり、新たな無線LAN技術として推進することになった「802.11ah」とは何かを解説する。

無線LANだが、かなり低速

 802.11ahは、Wi-Fi Halowという名前だけでなく、仕様を見ても明らかに無線LANの仲間だ。標準化作業は完了しており、既に国際標準規格となっている。電波を出すために免許を取得する必要がない「アンライセンス」の規格である。
 分かりやすくいえば、既存の無線LAN規格である802.11acをカスタマイズしたものだ。無線LANビジネス推進連絡会の北條博史会長は、「802.11ahは、802.11acの物理層の動作クロック周波数を10分の1にした(ダウンクロックした)ものだ。ダウンクロックしただけなので、無線LANのチップは設計からやり直す必要がなく安価に作れる」と説明する。
 ダウンクロックによって、伝送データの最小単位(1シンボル)を送るのに10倍の時間がかかる。よって802.11ahの通信速度は、既存の無線LAN規格に比べて相当遅い。実際、802.11acの規格上の最大値は6.9Gビット/秒だが、802.11ahの理論上の最大値は1MHz幅(詳細は後述)、MIMOなしの場合で4Mビット/秒しかない。さらに、劣悪な電波環境でも使える低速のモードもあり、その速度は150Kビット/秒だ。つまり802.11acや802.11nはもちろん、初期に標準化された802.11a/b/gよりも低速の規格なのである。
 通信時に使う周波数帯域はどうか。これも802.11acに比べて10分の1にとどまっている。具体的には802.11acが20/40/80/160MHz幅なのに対して、802.11ahは2/4/8/16MHz幅である。さらに、データを運ぶ「搬送波」の数を半分とする代わりに、1MHz幅で通信することも可能になっている。
IEEE 802.11ahと802.11acの違い
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 そんな802.11ahの最大の特徴は、カバーエリアが既存規格よりも格段に広いことだ。802.11acの場合、一般的な住宅でも遮蔽物があると電波が届かないケースがある。だが、802.11ahは見通しが良ければ1キロメートル程度はカバーできるという。
 カバーエリアを広げるために、802.11ahの規格には電波の反射に強くする仕組みを盛り込んでいる。NTTアクセスサービスシステム研究所無線アクセスプロジェクトプロジェクトマネージャの鷹取泰司主席研究員は、「屋外で遠くまで電波を飛ばすと、様々な場所に当たって届く反射波が出てくる。そこでガードインターバルと呼ぶインターバル時間の長さを10倍にして、電波が反射することで遅延が生じても受信できるようにしている」と話す。
 使用する周波数は、920MHz帯になる予定。無線LANでは、周波数が低いほどカバーできる範囲も広い。その点で802.11ahが使う920MHzは、802.11a/n/acが使う5GHz帯はおろか、802.11b/g/nが使う2.4GHz帯よりもかなり低い。使用周波数が大きく異なるので、802.11ahと802.11acには互換性がない。
 ちなみに920MHz帯は、「Sigfox」や「LoRaWAN」といったIoT向けの通信技術が使っている。

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