2020年2月7日金曜日

すぐにできる小さなデジタル変革で 顧客の体験をこそ変える

https://bizhint.jp/report/387636?utm_campaign=website&utm_source=bizhint.jp&utm_medium=email
シェアしました。

BizHint 編集部 2020年2月6日(木)掲載
メインビジュアル
中小企業の中にはデジタル変革(デジタルトランスフォーメーション= DX)に高いハードルを感じている経営者も少なくないのではないだろうか。新たにシステムを構築するには費用がかかるうえ、それを理解して進めてくれる担当者も必要だ。 そこで、企業のデジタル変革を行なっている株式会社Kaizen Platformの代表取 締役・須藤憲司さんに、中小企業がまず取り組むべきDXの方向性を聞いた。

須藤憲司さん
株式会社Kaizen Platform 代表取締役
1980年生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社リクルートに入社。マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立ち上げる。株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍した後、2013年にKaizen Platform, Inc.を米国で創業。
https://kaizenplatform.com

中小企業のデジタル化は小さなところから進める

チラシやパンフレット、マニュアルの動画化から、会社のデジタル変革の相談まで、幅広い領域でIT支援を行っているのがカイゼンプラットフォーム。1万7000人のプランナーやデザイナー、映像ディレクターなどの専門人材を国内外で外部組織化。そのスピーディーな対応に、驚かれることも多いという。代表の須藤憲司氏は語る。
「社内の基幹システムに手を加えようとすると、大変な時間やコストがかかることが少なくありません。しかし、そんなところに触れなくても、できることはたくさんあるんです。 ITの活用、デジタル変革というとき、まずはすぐできる小さなところからやってみること をお勧めしていますね」
そもそも社内の基幹システムは、社内向けに作られている。それが進化したからといって、顧客の体験が進化するとは限らない。そこにこそ大いに注意しなければならないという。
「むしろ、社内の基幹システムは最初は放っておけばいい、くらいに思っています。それをDX して、例えば受発注管理が便利になったとしても、お客さまには関係がなかったりするわけです。大事なことは、お客さまの体験が大きく変わるかどうかなんです」

何を生業にする会社なのか再定義をするタイミング

なぜかといえば、これからはすべての会社が体験を提供する会社になるからだ、という。
「モノを売っている会社は、実はモノを売るだけではなく、モノを通して体験を提供していることに気づく必要があります。例えば、ミシュランというタイヤメーカーは、タイヤを売るだけでなく、車に乗る充実した体験を増やすために、ミシュランガイドを発行しているんですね」
今、問われているのは、自分たちはどんな体験を提供しているのか、改めて認識することだと須藤氏は語る。
「トヨタ自動車は、車屋ではなく、移動サービスの会社になろうとしています。 自分たちは何屋なのか、再定義をしていったほうがいい。この再定義でデジタルを活用する。ここでこそ、DXをしていくべき なんです」
会社は顧客に体験を提供している、ということに気づけないとどうなるか。今後は目の前に「思わぬ競合」が現れるようなことが起こるという。
「中国にウーラマという名前のITサービスがあります。近隣のレストランの料理を、30分以内に約12円で配送してくれる。これが飲食業や小売業を今、大きく揺るがせているんです」
アプリには各国の料理がずらりとラインナップされており、オフィスビルで働くビジネスパーソンの席まで持ってきてくれる。
「アツアツの料理が、スマホアプリひとつで頼めるわけです。もうランチのために外に出る必要はないし、行列に並ぶ必要もない。結果として何が起きたのかというと、コンビニの弁当が売れなくなってしまったんです。一度、冷めたものを温めた弁当をわざわざ買いに行く人はいなくなってしまった」
コンビニにすれば、まさか宅配サービスのアプリに脅かされるようになるとは、思いも寄らなかっただろう。これぞまさに、顧客の体験が変わってしまった、ということ。こういうことが、いろんな世界で起こり得るのだ。
「日本のサービスは、総じて多くの機能をバンドルして提供されています。コンビニでもレストランでも、すべてを充実させようとする。すべてがバンドルされているから価値があるようなところがある。しかし、それを別々のサービスとして分解し、特化したところで突き抜けると、びっくりするような体験を顧客に提供できるようになる。そうなると、とても総合力では勝てなくなります。むしろ、これからは何かひとつ突出していたほうがいい」

カスタマーの行動の深掘り前提を壊し、ニーズに寄り添う

そのためにも 今、顧客にどんな体験を提供できているのかを、徹底的に洗い出す必要がある というのだ。
「いわゆるカスタマージャーニーです。お客さまは、なぜ自分たちの商品やサービスを買ってくれているのか。どんなものと比較して選んでくれたのか。商品が届いたときに、どんな反応をしているのか。とにかく考えてみる。そうすることで、サービスのスピード感やパーソナライズ化などにより、顧客の体験をよりリッチにしていくアイディアが得られます。そしてそこにこそ、デジタルを活用するんです」
例えば先のウーラマの場合、適切なタイミングで今日のランチのレコメンドが送られてくる。
「昨日は麻婆豆腐を食べましたよね、じゃあ、今日は洋食はどうですか、と来るわけです。これはDXだからできることです。そして、こんなふうに便利になり過ぎると、もう離れられなくなる。こういう顧客体験をこそ、作るべきなんです」
そして体験を軸に事業を再定義すると、びっくりするようなポテンシャルに気づくこともできる。例えば農業。
「農作物を作って売るだけでは厳しい、と考えている人は少なくありませんが、農業体験、収穫体験ができる場と考えたらどうか。例えば、子ども向けの農業体験は大変な人気です。なかなか予約が取れなかったりする。野菜が苦手だった子どもが、自分で収穫した野菜は喜んで食べたりする。そういう収穫体験ができるなら、それなりの費用を払ってでも親は子どもを連れていきたいと考えます」
この事業はこういうもの、という発想をこれからは捨てたほうがいいと語る。その前提を壊し、顧客に寄り添って考えると、新たな価値に気づける。
喜んで農業体験をしたいという人が、たくさんいることにも気づける。
「そうした体験サービスの予約システムにデジタルを使えばいい。顧客体験をより便利にするものとして使う。デジタル化やIT化は、もっともっとシンプルに考えたほうがいいんです」
実際、カイゼンプラットフォームに数多く寄せられているオーダーのひとつに、パンフレットやチラシ、カタログやDMなどの動画化があるという。 ﹁紙の素材を組み合わせて、動画にする。難しい技術ではありません。1本数万円でできてしまう。でも、紙のチラシやパンフレットを見るのと、タブレットで動画を見ることができるのとでは、顧客の受け止め方が圧倒的に変わることは想像してもらえると思います。顧客の体験を、たったこれだけでも変えられるんです﹂
実際、あるファストフードチェーンでは、紙のクーポンチラシを動画にした。これだけで、素材はまったく同じなのに、一気に顧客が使いたいと思えるものになったという。しかも、LINEのDMにしたり、インスタグラムに投稿したり、YouTube で店の近くに住む人に流したりすることもできる。
「今、20代の女性たちから50代の男性たちまで、インスタグラムで買い物をする人が増えている。公式アカウントを取得し、もともとあった紙の素材を動画化するだけで、大きな反響が得られる。これも立派なDXです」
BtoBの事業も大きく変化しているという。DMを送ったところで、ほとんど開封されない。それよりもターゲットがセグメントされた広告を使ったり、メールDMやメッセンジャーに動画を貼り付けたりしたほうが見たくなるという。
「徹底的に顧客の立場に立ってみることが大事です。顧客は、どんな体験をしたいと考えているのか。どんなことをしたら、驚いたり、喜んだりしてもらえるのか」
あるワイン輸入を手がける会社の社長と会ったとき、ひたすらワインについて熱く語られたという。大変な知識だと感じた。
「だから提案したのは、社長にYouTube に登場して語ってもらうことでした。実際、本当に詳しいし、説明されていると飲んでみたくなる。これだけでも、DXなんです」

経営者自身が日頃からデジタルに触れていくことが必要

費用をかけて会社の基幹システムを変えようとするのではなく、今できることをやる。顧客の体験を変えられることをやってみる。そのためにも 必要なことは、経営者自身が日常生活からデジタルに触れていくこと だという。
「今では70代でも3割がスマホを持ち、そのうち7割がLINEを使っているというデータもあります。経営者自身が幅広いデジタル体験をするから見えてくることがある。どんどん自分で使ってみることです」
そして大事なことは、まずはやって みること、作ってみることだ。
「いくら概念を議論していても、話は前には進みません。形のないところで話をしていると、あれはダメ、これはダメということになる。ところが、できたものを見ると一目瞭然です」
だから、ときには受注前に動画を作って持っていってしまうこともあるという。
「そうすると、これはいい、やってみよう、ということになりますね。説明ではなく、やっぱり体験してもらうのが一番なんです。そして実際のものがあると、やるかやらないか、という議論が、どうやるか、に変わっていく」
顧客の体験をこそ変える。小さなところから始める。まずはものを作ってみて議論する。多くの会社のデジタル変革を手がけている会社ならではの、目からウロコのDX指南だ。
(取材・文/上阪徹 撮影/島村緑)

この記事についてコメント(0)

利用規約をお読みになったうえで投稿してください。

0 コメント:

コメントを投稿