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 パッケージソフトウエア製品やクラウドサービスをグローバルで展開する巨大ITベンダーといえば、そのほぼ全てが米国企業だ。グーグル(Google)やアマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services)、マイクロソフト(Microsoft)、オラクル(Oracle)……。当然、人月商売に明け暮れる日本の大手ITベンダーはグローバルどころか、国内でも存在感が薄くなる一方で、その差にもはやため息すら出ない。

 だが、唯一の例外がある。言わずと知れたERP(統合基幹業務システム)最大手の欧州SAPだ。ドイツが生んだこの巨大ITベンダーは今のところ、オラクルやマイクロソフトなど米国のITベンダーの挑戦を退け、ERPで世界トップシェアを維持している。

 実は、私にとってこのSAPは謎だった。なぜドイツで米国企業をしのぐ巨大ITベンダーが誕生したのか。だってそうだろう。「ドイツは日本と似ている」というイメージがある。ものづくりが得意な国であり、堅実で保守的。日本と同様、米国の西海岸、特にシリコンバレーとは対極の存在に思える。

 そもそも米国以外の国に、パッケージソフト製品の分野で巨大なグローバルプレーヤーが誕生したこと自体が謎だ。そのうえ、日本とよく似たドイツが発祥の地となると、謎はさらに深まる。日本のIT業界の惨状を見ると、とてもじゃないがドイツ生まれのITベンダーが成功する余地は無いと思える。

 日本の大手ITベンダーもかつて、SAPをまねて自社開発の業務パッケージソフトをERPとして育てようとした。だが、独自の基幹系システムの構築を求める客のわがままに抗しがたく、ご用聞きの人月商売ベンダーに落ちぶれた。その揚げ句、ゼロベースで基幹系システムを構築する力も失い、ERPをベースにアドオンを量産する存在に成り果てた。

 そんなわけなので、日本とよく似たドイツでSAPが成功したのは、考えれば考えるほど不思議な話だ。ものづくりの国であるから、ドイツの企業でも「現場」が強いはず。日本企業の現場ほど愚かではないにしろ、「うちのやり方に合わせてシステムを作ってくれないと困る」と要求しているだろう。だから、汎用性の高いERPで商売するのは難しいはずなのに――。こう仮定して疑問に思っていたのだ。

 ところが最近、その疑問が一気に氷解した。ドイツには、日本はもちろん米国にもないERPを生み出す素地があった。ドイツでは企業の業務が標準化されていたのだ。よく「ERPを使って業務を標準化せよ」と言うが、実は話が逆で、業務が標準化されていたからこそ、グローバル競争を勝ち抜けるERPが生まれた。これは驚くべきことだった。