2021年12月6日月曜日

世界初、民間プラント実系統に三相同軸型超電導ケーブルシステムを導入する 実証試験を完了


 この試験では三相同軸型超電導ケーブルシステムを敷設、連続的かつ安定的に電力を供給し、液体窒素によるケーブル冷却と信頼性・安全性の検証、運用コストの算出を行った。その結果、超電導状態の維持に必要な液体窒素によるケーブル冷却がより厳しい盛夏を含め、システムの信頼性・安全性を実証した。

 また、既存設備を利用することでケーブルの設置および運用コストの低減にも成功しました。この超電導ケーブルシステムを30MW以上の大規模電力を使うプラントに採用することにより従来に比べ送電時の損失を95%以上削減するめどが立ったほか、CO2排出量の削減効果も確認でき、本超電導ケーブルシステムが効率的な送電システムとして脱炭素社会に貢献できることを証明した。

図1 工場構内への超電導ケーブル敷設状況

概要

 地球温暖化への対策として温室効果ガスの削減が求められる中、電力の有効活用が緊急の課題となっている。一方、超電導技術は電力損失が生じない高効率な電力供給技術として、電力エネルギーやエレクトロニクス、医療、輸送といったさまざまな分野において多くの注目を集めてきた。しかしながら、その超電導状態を維持するには液体窒素などで冷却し続ける必要があるため、実用化に向けて低コストでの運用技術の確立が求められていた。

 このような背景の下、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、日本における省エネルギー型経済社会の構築および産業競争力の強化を目指して「戦略的省エネルギー技術革新プログラム※1」を推進しており、同事業で昭和電線ケーブルシステム(CS)とBASFジャパン(BASF)は2021年9月に、BASFジャパン戸塚工場(横浜市戸塚区)で2020年11月から共同で進めてきた実証試験※2を完了した。

 本実証試験では、2017年度から2018年度までの実用化開発で開発した低コストでコンパクトな三相同軸型超電導ケーブルシステムを同工場構内に敷設※3し、約1年間連続的かつ安定的に電力を供給する中で、液体窒素によるケーブル冷却と信頼性・安全性の検証、運用コストの算出を行った。その結果、超電導状態の維持に必要な冷却がより厳しい盛夏でも冷却システムの信頼性・安全性を実証できたほか、設置および運用コストの低減に成功した。

 超電導ケーブル導入による省エネルギー効果は大電流を通電する系統へ適用することでより大きくなることから、今後は大電力を使用するプラントや発電所の母線、将来的にはスマートシティのインフラへの適用などが期待される。また液体窒素など冷熱を扱うプラントでは、その冷熱が冷却に利用できることから冷凍機の設置が不要であるため、比較的低コストでの運用が可能となり、高い導入効果が見込める。30MW以上の大規模電力を使うプラントで従来のケーブルを本超電導ケーブルシステムへ置き換えることにより、従来のケーブルで発生していた送電時の損失を95%以上削減できるめどが立った。同時にCO2排出量の削減効果も確認できたことから、本超電導ケーブルシステムが効率的な電力送電システムとして脱炭素社会に貢献できることを証明した。

本事業の成果

1)低コストでコンパクトなケーブルシステムを開発
 実用化開発(2017年度〜2018年度)で、一般プラント向けに低コストでコンパクトな三相同軸型超電導ケーブルを開発した(図2)。三相同軸型ケーブルでは誘導電界を遮断するための遮蔽層に使用する超電導線材の量を単心ケーブルの3分の1にできることから、トータルの超電導線材のコストを3分の2に削減できた。また、三相同軸型とすることでケーブルが1本になるため、コンパクトで柔軟性のある構造を実現した。

図2 常伝導ケーブルと三相同軸型超電導ケーブルの比較

 通常の単芯ケーブルは三相交流の各相を独立して流すため、終端電極が6台必要。これに対し、三相同軸型では同軸に電極を配列することにより2台で収まるため、コンパクトな形状にすることができた(図3)。

図3 終端
図4 中間接続

 ケーブルの三相同軸化に伴い、中間接続についても既存技術を発展させた同軸接続構造を採用し、外径340mmのコンパクトな形状とした(図4)。この中間接続技術の確立により、線路の長距離化が可能となった。

 今回採用したサブクール式冷却システム(図5)はエア・ウォーターとCSが共同開発したもので、密閉容器に蓄えた液体窒素を減圧することによって、液体が気体に変わる際の蒸発潜熱を利用してマイナス200°Cまで冷却する。プラントで大量に保有している液体窒素を冷媒として利用し、減圧するために排気した窒素ガスは回収してプラントで利用するというコンセプトで設計している。

 超電導ケーブルは常時冷却して使用することから、冷却に用いる液体窒素の状態を常に監視する必要がある。今回の実証試験では終端部分に圧力、温度、流量、液面レベルを計測するセンサーを配置し、これらのデータを一元的に監視するシステムを設定した。緊急時には送電回路を切り替える機能も付加している。

図5 サブクール式冷却システム

2)実プラントでの実証試験により、ケーブル設置の容易性、省エネルギー効果などを確認
 本実証試験ではプラントの既存設備を利用する必要があったことから、構内の既設ラック(高さ5m)上にケーブルを設置するなど構内経路に沿って敷設した(図6)。そのため、4カ所の屈曲部(90度、曲げ半径1.5m)を設ける必要があったが、ケーブルの柔軟性により問題なく敷設することができた(図7)。なお、コンパクトなケーブルでは屈曲部などで液体窒素の流路が狭くなるが、本システムでは長距離(往復約400m)でも問題なく液体窒素を流すことができ、複雑なプラントレイアウトにも対応できることが確認できた。

図6 ラック部(高さ5m)へのケーブル敷設状況
図7 屈曲部(90度、曲げ半径1.5m)敷設状況

 ケーブルや終端・中間接続部などの部品のコンパクト化による熱侵入量の低減およびプラント内の冷熱を活用することによる省エネルギー効果について、ほぼ設計値通りの結果が得られた。本実証試験での結果を基に長さ1,000mの超電導ケーブルと従来のケーブル(CVケーブル)に3,000Aの三相交流電流を通電して1年間に生じる送電損失を比較(図8)したところ、本超電導ケーブルシステムへの置き換えにより、従来ケーブルで発生する電力損失量を95%削減できるめどが立った。

図8 省エネルギー効果(電力損失)

 本実証試験では約1年間にわたり無事故で電力供給を行い、盛夏期でも安定した液体窒素の循環を確認できた。従来の液体窒素ポンプは数カ月に一度の分解整備を必要とするが、本事業で開発したポンプは約1年間、メンテナンスフリーによる運転を達成した。これによりポンプのメンテナンスをプラントの定期点検に合わせて実施できることになり、高い実用性が証明できた。 また開発した監視システムで実証試験期間を通して常時監視を行った結果、その有効性が確認できたことから無人の監視体制も導入可能であることが確認できた。
 これらのシステムをプラントに適用することにより、大きな省エネルギー効果が見込める。図9は、本システムを導入した場合の省エネルギー量と初期投資回収年数を表している。各バブルは色で冷熱利用の有無と種類、大きさで代替可能な回線数を表しており、例えば初期投資回収年数を10年以内とした場合、1,080の回線(約300事業所)が対象になる。その中で液体窒素を利用するプラント(緑色)で30MWの電力を利用するプラントは420回線(約190事業所)あり、年間省エネルギー量は原油換算で約110kL、初期投資は約8年で回収できることを示している。

図9 省エネルギー効果と初期投資効果

※1 戦略的省エネルギー技術革新プログラム研究開発項目:実用化開発・実証開発/プラント内利用のための低コスト型三相同軸超電導ケーブルシステムの開発【助成事業】期間:2017年~2021年10月末助成先:昭和電線ケーブルシステム株式会社助成先の委託先:BASFジャパン株式会社、エア・ウォーター株式会社、国立大学法人九州大学、国立大学法人東北大学※2 2020年11月から共同で進めてきた実証試験参考:NEDOニュースリリース2019年6月12日「世界初、民間プラントでの三相同軸超電導ケーブルの実証試験開始へ」https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101132.html
※3 三相同軸型超電導ケーブルシステムを同工場構内に敷設参考:NEDOニュースリリース2020年11月11日「世界初、民間プラントに三相同軸超電導ケーブルを敷設」https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101377.html

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