2024年の「LEARN with Porsche」は熊本・天草が舞台

ポルシェジャパンと東京大学 先端科学技術研究センターが共同で実施した中高生向けの合宿プログラム「LEARN with Porsche(ラーン ウィズ ポルシェ)」。前編でお伝えしたとおり、今年は2つのチームに分けられ、3日目までは別々に旅をするという行程が組まれていた。

⇒前編はここから

本稿は、3日目の夕方に天草市の中心地・本渡で、両チームが初対面した場面からお伝えする。
御所浦島で甘夏の摘果作業のお手伝いをしてきた熊本チーム
天草最南端の牛深の燻製蒲鉾工場で働いてきた鹿児島チーム

それぞれの文化を探ってきた2チームがついに合流

ようやく全メンバー9名が顔を合わせた

 別のグループが存在することは薄々勘づいていながらも、どこで何をしているのか? いつ会えるのか?などは一切知らされていなかった子供たち。両チーム向かい合わせに座ると、ワクワクしつつも若干緊張しているような表情にも見える。

「君たちはどこから来たんだい?」と中邑先生が聞くと「熊本です!」「鹿児島から!」と元気な返事
まずは自己紹介。学年と学校名は言わないのが今年のルール

 どこを出発して、どんな経路で本渡まで来たかを発表し合い、体験談を共有したところで、ディレクターである中邑先生からこう伝えられた。

「君たちが地元の人々と交流しながら調べてきた熊本、鹿児島の文化って、おそらく全然違うものなんじゃないかと思う。そして今いる天草との関係はとてもおもしろいんだ。それを今夜両チームから発表してもらおうと思う」

熊本チームの5人
鹿児島チームの4人
「食文化は気候風土によって生まれるものなんだ」とアドバイザーとして同行した料理研究家の土井善晴先生
東京先端研の特任助教でLEARNの統括マネージャーを務める赤松裕美さん

 夕食後にグループごとに発表せよといきなり告げられ、動揺する様子が見られた子供たちだったが、ここで「さて、ポルシェ乗りたい人?」というサプライズな提案があった。なんと駐車場には、ポルシェの「911 GT3 RS」と新型の「タイカンクロスツーリスモ」が待機していたのだ。

ポルシェ試乗体験も。短時間だったが子供たちは大興奮!
チームで事前打ち合わせ

 その夜、ホテルで開催したオールメンバーでの発表会では、町で声をかけて聞いたり、地域の人々との交流で得たりした熊本・鹿児島のさまざまな文化について、次々と発表された。

熊本にはタイピーエン(太平燕)というソウルフードがある
熊本には“肥後のいっちょ残し”というものがあるらしい
鹿児島県民は甘いもの好き。味噌や醤油も甘口
牛深は漁師町なので鹿児島と比べると言葉が荒っぽい

 しかし、その発表を黙って聞いていた中邑先生からは少々厳しい評価が下る。

「君たちにの発表には“比べる”という大切なことが欠けていないだろうか。例えば熊本で知った“肥後のいっちょ残し”について、御所浦で聞いたかい?」

 中邑先生はさらにこう続けた。

「君たちは点と点を結び付ける勉強の仕方をしなくてはいけないんだ。点と点を結ぶと線になる。3点が結びつくと面になる。面になると動きが違ってくる。もっと増えると全体像が見えてくるはずだ」

 何も言えずに黙り込む子供たち。中邑先生は「明日がんばりましょう」と告げて3日目を締めくくった。

常に前に起きたことを頭に置いて考えることが大切なんだと中邑先生

今まで調べてきたことをつなげてみようの4日目

天草キリシタン館にて

 初めて全メンバーで朝から行動する4日目は、天草市の文化施設「天草キリシタン館」からはじまった。館長の平田豊弘さんは、天草キリシタン史はもちろん、天草の歴史や風土などに造詣が深いスペシャリスト。同席してくださった本多康二さんは天草市立歴史民俗資料館の元館長でもある知識人だ。そんな講師陣に今まで調べてきたなかでの分からないことや疑問をぶつけてみる濃い時間となった。

天草四郎陣中旗についてなど、平田館長の説明に耳を傾ける
歴史民俗に詳しい本多さんにもいろいろ教えてもらう
質問タイムも
熱心にメモをとる

 天草キリシタン館のあとは、本渡バスセンターへ。一行が次に向かう「崎津」は、潜伏キリシタンがひそかに信仰を続けた集落の一つとして知られる場所だ。

「次は崎津」と伝えられた。地図や時刻表で崎津行きのバスを調べる
下田温泉停留所で乗り換え
こんなのどかな風景のなかをバスは走っていく

 路線バスに1時間半ほど揺られて到着した崎津では、集落のシンボルでもあるカトリック崎津教会の周辺で自由にフィールドワークとなった。前日の発表会で言われた“点と点を結んで線にする”学びは実践できただろうか?

崎津教会を見学。内部はめずらしい畳敷きだ
“トーヤ”と呼ばれる生活と生業のために使われている小路
家と家の軒下を通るトーヤを進んでいくと海に出る
地元のおじいさんに話しかける
古くから崎津に伝わる杉ようかん
崎津の観光案内所でも情報収集
ボランティアガイドさんに質問攻め
再び路線バスに乗車すること40分
右手にこの日の宿が見えてきた
天草下田温泉「望洋閣」にチェックイン
下田温泉は日本の夕陽百選の一つ。夕焼け空をバックに土井先生と記念写真

 崎津から再び路線バスに乗って北上すること45分、この旅の最後の宿に到着した。温泉に入って夕食を食べたあとは、総仕上げともいえる振り返りの時間だ。

豪華な夕食が並んだ
自分のまとめを発表

 この日は「文化とは? 天草という地で何を感じ、何がおもしろかったか」を一人ずつ発表した。全員、前日とは明らかに意識や見方が変わったプレゼンだっだのだが、そのなかでも特に印象に残った生徒の言葉を紹介しよう。

夕食後の発表会

「今日は“しめ縄”について、行く先々で聞いてみた。すると、天草でしめ縄を飾るというのは、キリスト教が弾圧されていた時代に、『うちはキリスト教じゃないですという印』のようなものだったと分かった。

 天草のあちこちで見かけて不思議に思っていたしめ縄のことを調べたら、天草のキリシタン文化と結びついて、最後にはヨーロッパの宗教改革までつながる。これが点と点をつなげるってことなんだと思った。しめ縄が多いという事実の、さらに奥にある深いものに触れた気がした」

最終日は天草から長崎へ、旅を振り返った若者たちから出た言葉とは

 最終日は、天草下田温泉の宿から北上して、富岡港からフェリーで長崎の茂木港へ。そこから路線バスで長崎市中心部まで移動し、最後は長崎空港から空路で帰路につくという行程だった。

宿の送迎バスで向かうのはどこだろう?

 ここからは、長崎の名産菓子「カステラ」のことも学んだ5日目の写真とともに、プログラムを終えた子供たちの長崎空港での発表をお伝えしようと思う。

「定期船が出ているこの場所に行くんじゃないかな?」と予想

「自分のなかには“少年の心”みたいなものがくすぶっている感があって、今回はそれを出し切る旅にしたいと思っていた。スマホもない状況で人に話しかけるというミッションは自分の行動を制御していたものを解き放ってくれて、大きな経験になった」福嶋陸人くん(熊本チーム)

ここでも地元の人に積極的に話しかける姿が
天草苓北~長崎茂木間を結ぶ高速船に乗船

「御所浦で会った地域おこし協力隊の人の話を聞いていて、情報を整理する力が必要なんだと感じた。点と点をつなげたり、線と線と交わらせてみたりとか、そういう力がこれからの自分に必要。この旅でいろんな人、いろんな生き方と出会えて、自分の未来がたくさんあるなと思った」榊田一色くん(熊本チーム)

45分の船旅だ

「素晴らしい仲間に出会うことができた。それと同時に、これからは自信をつけるために、もっと行動を起こしていこうという気持ちになった。自分のコンフォートゾーンの外側に出ることを意識して旅をしていたけど、自分が安心できる場所じゃなくても怖くないことに気づけてよかった」木村咲良さん(熊本チーム)

ついに長崎。鹿児島チームは熊本、長崎と3県制覇だ

「ミッションは伝えられるけど、やり方が問われず自由で、何をしてもいいと認められているのが新鮮だった。全体を通して物事を考える力が足りなかったのが反省点。いろいろなことに気づかせてもらったプログラムだった。一緒に旅したほかのメンバーとの感性の違いにびっくりした」佐藤みく乃さん(熊本チーム)

茂木港からは路線バス移動で長崎市の中心部へ
バスを降りて歩く、歩く

「大枠のミッションが与えられて、あとは自由にやりなさいというLEARNには、目的は何なのか?と少し引いた視点で見る必要があって、その力が自分には足りないなと感じた。いろんな分野の知識を持っているほかのメンバーを見て、自分にはこんな選択肢があるんだと気づける機会になったし、可能性が広がった気がする」田中凛さん(鹿児島チーム)

到着した長崎カステラで有名な「岩永梅寿軒」では、長崎カステラの歴史や特徴などを聞いた

「感じたことを素直に表現することの素晴らしさを感じた。漁師さんが漁にでるのが何よりも好きと言っていたのが印象的だった。今までは疑問を解決する手段でネットを使っていたけど、それだと自己満足で終わっておもしろみがない。これからは積極的に自分の感覚を通して学んでいろいろなことを表現していきたい」市瀬友基くん(鹿児島チーム)

老舗ならではの伝統の技を6代目に聞く
豪快に手でちぎって食べたカステラ。美味しい!

「どの文化もそこだけで完結しているのではなく、天草だったら中国など世界中の文化も関係していることを学んだ。働いた蒲鉾屋さんで感謝されたとき、自分も相手の生活の文化の一部になれたという気持ちになり、行動するということは、一瞬だけど深いつながりを作ることができるんだと気づいた」木下莉那さん(鹿児島チーム)

長崎空港で最後の振り返り

「LEARNには積極的ではない自分に挑戦してみようと思って応募した。スマホに頼らずに人と話して情報を得ていくのがすごく楽しかった。あと、ポルシェに乗せてもらって本当に楽しかった! 電気自動車もガソリン車もすごく興奮しました! ありがとうございました」伊佐賢杜くん(鹿児島チーム)

5日間を振り返っての感想を一人ずつ発表
教えたいのは知識ではなく、学びのおもしろさだと言っていた中邑先生

「ポルシェはただの高級車だと思っていたけど、エンジン音に、おおお!ってなって、乗った瞬間に、このクルマはロマンがあるな、技術があるな、楽しさがあるなと感じた。そういうものを学びという視点で東大とポルシェがかけ合わさっていたんだなと理解できた」南寛人くん(熊本チーム)

「学年と学校名を言わない初めての試みがよかった」とポルシェジャパン株式会社 広報部 部長の黒岩真治さん

 今年も5日間同行し、子供たちを見守っていたポルシェジャパン 広報部長の黒岩真治さんは、最後に「文化を探った今回のアプローチをこれから自身でどう活かすかが大事。しっかり持ち帰って」と、視野の広げ方について子供たちにメッセージを贈った。

黒岩さんからプレゼントされたタイカンのミニカーに子供たちは大喜び

“若い世代が夢を持ち、その夢を追いかけ、かなえることを応援する”ポルシェジャパンのCSR活動のキーワードは「Porsche. Dream Together」だ。

 プログラムを終えて、“今までは行き先が決まった電車に乗っていた感じだったけど、今は青春18きっぷみたいな、どこにでも行けるきっぷを持っている気分”と言った子がいたが、その言葉はまさに「Porsche. Dream Together」につながるものではないだろうか。

 子供たちの「夢」に向けたポルシェジャパンの支援が、間近で見ていてこれほどまでにダイレクトに響き、胸が熱くなるものだとは思っていなかった。一緒にポルシェの夢を、そして子供たちのピュアな学びを共有してもらえたプログラムに密着できたことに感謝したい。

長崎空港ではこんな別れのシーンも

 最後に、スマホを封印して5日間のデジタルデトックスしていた子供たちに感想を聞いてみた。「全然苦じゃなかった!」「スマホがないぶん人の温かさに触れた。スマホって人を孤独にしているんじゃないかな」「全体が見える紙のマップを見てると、発見がたくさんあって楽しかった」と、デジタルネイティブ世代ならではの新鮮な気づきがあったようだ。

旅のあいだに書き留めたノート。新しい学びの原点として、ときどき読み返す一冊になってほしい