WRITER: Masao Ando
闇に潜む敵を見つけ出し、光線銃で焼き殺す…。「スター・ウォーズ」さながらの場面だが、映画の話ではない。敵は「がん」、光線銃は「テレビのリモコン、のようなもの」。がん細胞にテレビのリモコンなどにも使われる赤外線を照射して熱でやっつける、そんなイメージのがん治療法だ。
日本人が開発 ピンポイントでがんを攻撃
手術しないので体に優しく、抗がん剤などを使わないので副作用もない。ピンポイントで攻撃するので健康な細胞を痛めることもない。そんな夢の治療法を開発したのが日本人と聞いて二度びっくり。
世界が注視する中、米国で臨床試験が始まった。
がんを焼く光線銃 “武器”は「近赤外線」
まずは、理科のおさらいから。
太陽光には紫外線、可視光線、それに赤外線がある。赤外線は目には見えず、波長によって近赤外線、中赤外線、遠赤外線に分けられる。
がん治療に使われるのは近赤外線。赤外線カメラやスマートフォンの赤外線通信、そして、テレビなど家電のリモコンにも活用されている。
がん攻撃の近赤外線 オバマ大統領も実現に大きな期待
この治療法は「光免疫療法」と呼ばれ、米国の国立保健研究所の小林久隆主任研究員らが発見した。
2011年に医学専門誌に発表して注目を集め、オバマ大統領が2012年の一般教書演説で「米政府の研究費によって、がん細胞だけを殺す新しい治療法が実現しそうだ」と紹介したことでも知られる(※1)。
がんの3大療法の弱点、すべてクリア
大統領にそれほどの期待をさせたのにはわけがある。
がんの3大療法といえば「外科手術」「抗がん剤」「放射線治療」。
しかし、がんを切り取る外科手術は体への負担が大きく、がんを殺す抗がん剤や、がんを焼く放射線には副作用がある。新治療法はその欠点を全てクリアできるという。
がん攻撃の近赤外線 FDAが異例の早さで臨床試験にゴーサイン
この治療法の臨床試験に、米国食品医薬品局(FDA)が2015年4月にゴーサインを出した。動物実験から臨床試験までは早くても5年はかかるのが常識なので異例の早さだ。医療関係者の期待の大きさがうかがえそうだ。
色素とタンパク質を合成、がんの“刺客”に
治療法を簡単に説明する。研究グループが目を付けたのが「IR700」という体内色素だ。これに波長700ナノメートル(ナノは1メートルの10億分の1)の近赤外線を浴びせると光エネルギーを吸収し、化学変化を起こして発熱することを解明した。
このIR700と、がん腫瘍にくっ付く性質のあるタンパク質とを結合させて薬を作った。熱に弱いがんを殺すために差し向ける“刺客”だ。
マウス実験では、がんの完治確率8割!
人間のがん細胞を使った実験では、がん細胞にこの薬を加えて近赤外線を照射すると、がん細胞はたちどころに全滅。マウスの生体実験では、8割の確率でがんが完治したという(※2)。
説明だけでは分かりにくいかもしれない。詳しくは動画「カメラが見たがん研究:光免疫療法でがんと闘う」をご覧いただきたい。米国国立がん研究所が制作し、日本語版字幕が付いている。
がんと闘う“体内ウォーズ” Coming Soon!
臨床試験は、まず副作用の有無の確認。その後、約20人の患者に近赤外線を照射して効果を調べる(※2)。この2つの階段を上って、目指すは3~4年先のがん治療薬承認だ。
“光線銃”の最初の標的は、体表に近い皮膚がんなど。食道や大腸など、体内に潜むがんも見逃さない。胃カメラや大腸カメラなどの先端に照射装置を付ければ攻撃可能だ。肝臓がん、すい臓がんなども射程に捉えている(※3)。
期待度100%の“体内ウォーズ”、Coming Soon!
※1:がん細胞だけ光で死滅…日本人研究者ら、米で近く臨床試験 /ヨミドクター http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=118124&from=tb
※2:赤外線でがん狙い撃ち 米研究所、新治療法の臨床試験へ:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/ASH5343TDH53UHBI00C.html
※3:光免疫療法でがんと闘う https://youtu.be/hnepYNvT3cs
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