生産コストを抑えて国際競争に打ち勝つため、多くの日本企業は中国をはじめ海外に生産をシフトしていった。一時は中国が「世界の工場」になっていたが、近年、「日本のモノづくり」が見直されつつある。やはり「生産拠点としては日本が一番」だというのだ。
大手電機メーカーのパナソニックも、グローバルな展開をしつつ「国産」にこだわりを見せる。
たとえば今や中国人観光客が必ず買って帰るとも言われる電気シェーバー。中でも4割強の国内シェアを誇るのが同社の上位モデル「ラムダッシュ」だ。これはすべて滋賀県の彦根工場で作られているという。同社担当者が語る。
「シェーバーの刃は日本人ならではの繊細な技術力が欠かせません。1000分の1㎜単位の誤差を正確に削り取る“微細加工の匠”が金型を製造し、1分間に1万4000ストロークも動くリニアモーターを軽くするための極薄樹脂部品を作る“樹脂成型の匠”が製造管理する。いずれも機械では判別できないほど繊細な技能で、彼らにしかできないものです」
海外生産が主流のパソコンも、同社の「レッツノート」はすべて神戸工場製だ。
「開発・設計から生産、修理まで工場に集約しているので、たとえ設計段階で不具合があっても、設計のやり直しをするのではなく、生産部門が新たな工法を開発して乗り切れる。これこそが神戸工場の現場力」と同社幹部は胸を張る。
海外製がほとんどのカラーコンタクトレンズで「国産」を売りにするのがデスティニーインターナショナル。同社は2005年から韓国製を扱ってきたが、品質管理の甘さから2014年に国産に切り替えた。最大の理由は「日本人の道徳観」と同社の関崎大・代表は語る。
「カラコンは高度管理医療機器ですから、韓国に製造委託しても本当に安全な原材料を使用してくれるのかといった不信感が拭えなかった。その点、日本人の道徳観は平均的に高く、自分たちでやったほうが間違いないという確信を得た。日本製という安心感が評価されて、店舗での取り扱い点数も劇的に増えています」
ただ、日本のモノづくりに詳しい岡山商科大学教授(経営学部長)の長田貴仁氏は、こんな檄を飛ばす。
「自動車の排ガス浄化用セラミックスで圧倒的なシェアを誇る日本ガイシや航空機燃料など幅広い用途が期待されるミドリムシを手がけるユーグレナなど、一見目立たない部品・素材メーカーの技術力には優れたものがある。その裾野は自動車や電機などの完成品メーカーが広げてきたわけですが、今やそれらが力を落としているように、いつまでも続くものではありません。
大学生どころか幼少期からビジネスや企業について産業教育をしていかないと、日本の強みは維持できない」
世界一であり続けるためには、これまでのようにたゆまぬ努力が求められる。
●文/入江一(ジャーナリスト)
※SAPIO2016年12月号
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