Googleがインターネット教育のためのゲームツール「 Interland」を開発するなど、ゲームを教育ツールとして活用する試みは多くあります。アメリカではすでに高等教育や大学教育の現場にゲームが持ち込まれており、「ゲームで教育に革命を起こす」という壮大なテーマを掲げるゲーム開発企業も現れています。
The Company That Wants To Replace Textbooks With Video Games
https://kotaku.com/the-company-that-wants-to-replace-textbooks-with-video-1818736136
Triseum gets $1.4 million to make educational games on art and calculus | VentureBeat
https://venturebeat.com/2016/06/01/triseum-gets-1-4-million-to-make-educational-games-on-art-and-calculus/
「教科書をゲームで置き換える」という壮大な目標を掲げるTriseumは、アメリカ・テキサス州に本拠を構えるスタートアップです。Triseumを設立したのは、ゲーム会社EAに20年勤め、スポーツゲームのグラフィック責任者を務めた経歴を持つアンドレ・トーマス氏。
2013年10月にEAを退社したトーマス氏は、双方向に情報をやりとりするインタラクティブなデジタル博物館の展示を計画しましたが、お金にならないという理由で断念しました。その後、テキサスA&M大学の映像部署に就職したトーマス氏は、美術史を教えるある教授から「教育用のビデオゲームを作りたいが方法がわからない」という相談をもちかけられました。これがきっかけで、トーマス氏は教育用のゲームを開発し授業に導入することを目的とするLIVE(Learning Interactive Visualization Experience)研究所を立ち上げました。
「伝統的な教室で90点をとれば優秀なクラスに入れるでしょう。けれど、これはまったく実用的ではありません。『飛行技術を90%習得している』というパイロットの運転を楽しめますか?運転技術をパイロットは飛行専門学校で学びますが、ゲームを使って習得できないとは思いません。物理学、統計学、数学などの授業では、学生は席に座り退屈しているのはなぜでしょうか?」と述べ、あらゆる教室での学習をゲームに置き換えることで、学生が退屈することなく完璧に理解できるような学習体験が得られるはずだと考えています。
トーマス氏率いるTriseumは、中世の美術史を学習するゲーム「ARTé:Mecenas」の開発に取り組みました。ARTé:Mecenasはルネサンス期のイタリアが舞台で、銀行家や商人になって芸術家を金銭的に支援するシミュレーションゲームです。
ARTe: Mecenas™ Educational Trailer - YouTube
2014年秋にトーマス氏はTriseumを法人化し、学習教材としてARTé:Mecenasを開発するための助成金も得ることができたおかげで、2016年3月に製品として完成させることに成功しました。美術史を学ぶことができるゲームARTé:Mecenasに続いて、トーマス氏は微積分をテーマにしたゲームの開発に着手します。微積分は大学数学だけではなくSTEM(サイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・数学)分野において必要不可欠なものにもかかわらず、ある調査では42%の学生が挫折してしまう鬼門だとのこと。イメージしにくい微積分を映像化できれば理解を助けるはずだとトーマス氏は考えたというわけです。トーマス氏は微積分学習ゲームの開発のための助成金もゲットすることに成功し、2017年に微積分を学習できるゲーム「Variant:Limits」を完成させています。
Variant: Limits™ Educational Trailer - YouTube
教育ツールとしてのゲームを開発するLIVE研究所には、現在37名が働いているとのこと。そのうちTriseum所属は30人で、残りはテキサスA&M大学の学生と職員となっています。テキサスA&M大学はゲームの収益を受けることになっており、Triseumは優秀なゲーム開発者の力を借りられるという良い関係になっているそうです。
すでに理解力を助ける効果があるという調査結果を得ているTriseumの教育ゲームですが、決して人間の教師を代替するものではないとのこと。ゲームには学生の学習の進捗や習得状況を追跡できるツールが備わっており、教師はゲームを指導に役立てるという利点があるとトーマス氏は述べています。
なお、Triseumによると、教育ゲームの導入は教育コストを下げ、学習速度を上げるという効果があるとのこと。「例えば、300ドル(約3万3000円)の教科書と同等の内容を扱うには4つのゲームが必要です。しかし、たとえ4つのゲームを使ったとしても60%以上も費用を節約することができます。また、基礎科目ほどゲームを利用することで短期間で習熟度を上げることができます」と述べています。
Triseumのゲームは、すでに200以上の大学で導入されているとのこと。教育界にもゲームを使った教育の有効性や潜在的な可能性についての理解が進み始めているそうで、トーマス氏はゲームを使って教育に革命を起こしたいと考えています。
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