by Rodolfo Clix
人体で一番硬い部分である「歯」の表層にある エナメル質は、非常に硬く複雑な構造をしています。そんなエナメル質を溶かす虫歯には世界中の人々が苦しめられていますが、中国・ 浙江大学の研究チームが「エナメル質を回復する溶液」を開発しました。
Repair of tooth enamel by a biomimetic mineralization frontier ensuring epitaxial growth | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/5/8/eaaw9569
Scientists Have Developed a Genius Method That Actually Regenerates Tooth Enamel
https://www.sciencealert.com/scientists-develop-world-first-liquid-that-regenerates-damaged-tooth-enamel
歯のエナメル質は生理学的な石灰化プロセスによって形成されています。 エナメル芽細胞という細胞が エナメリンや アメロゲニンといった「エナメルタンパク」と呼ばれる特殊なタンパク質を分泌し、歯の発生期に石灰化が進行して硬化していきます。
人間にとって問題なのが、エナメル芽細胞が歯の発達中にのみ存在している点です。成熟した歯にはエナメル芽細胞が存在しないため、だ液の働きによって少しずつ再石灰化して再生することはあっても、大きく損傷したエナメル質を根本的に自己修復することはほとんどないとのこと。
浙江大学の研究チームによると、エナメル質の複雑な結晶構造は実験室中で上手く再現することが難しいため、エナメル質の再石灰化を人工的に行う多くのアプローチは失敗に終わってきたそうです。しかし研究チームは「 リン酸カルシウムイオンクラスターで構成される材料を使用して、エナメル質の結晶成長を誘導できることを明らかにしました」と発表しました。
by rawpixel.com
研究チームは直径わずか1.5 nmのリン酸カルシウムイオンクラスターを、 トリエチルアミンという化学物質を含むエタノールで安定化し、凝集を防いだゲル状の溶液を開発。リン酸カルシウムの結晶はエナメル質を構成する主要な無機質成分として知られています。
実験用に提供された人間の歯に対して溶液を塗ると、超小型のイオンクラスターがエナメル質の魚鱗状構造に上手く融合し、天然と人工の境界が識別不可能な人工エナメル質を作り出しました。溶液が作り出した人工エナメル質は、人間の歯が持つエナメル質よりも数百倍薄いとのことですが、研究チームは繰り返し溶液を塗ることにより、人工エナメル質を効果的に厚くすることができると主張しています。
研究チームのZhaoming Liu氏は、「私たちが新しく再生したエナメル質は、自然のエナメル質と同じ構造と機械的特性を持っています」とコメント。既存の虫歯治療では樹脂製の詰め物などが使用されていますが、今回の発見により、人工エナメル質を用いた治療の実現が可能になるかもしれないとのこと。Liu氏は今後の研究が順調に進んだ場合、1~2年以内に人間に対する臨床試験を行いたいと述べました。
by Oleg Magni
なお、今回開発されたゲル状の溶液についての大きな懸念は、安定化のために使用されるトリエチルアミンの毒性についてです。プロセス中に化学物質が蒸発するため、研究チームはおそらくトリエチルアミンが人体に悪影響を及ぼすことはないと考えていますが、臨床試験の前にマウスで安全性を確かめている段階だとのこと。将来の人間に対する臨床試験で安全性が確認された場合、数年以内にも歯科医で人工エナメル質を回復する治療が行われる可能性があるそうです。
もっとも、新たな人工エナメル質回復のアプローチが上手く行ったからといって、虫歯が問題でなくなるというわけではありません。北京大学の生物医学研究者であるChen Haifeng氏は、「虫歯の予防が最善のアプローチです」と述べました。
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