2021年5月1日土曜日

「うな丼もどき」でその気になれるか? 試してみた

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今年は土用の丑の日が7月25日と8月6日の「二の丑」。ウナギの供給量はピーク時の3分の1で「ウナギもどき」が出回る。うな重のない世界は来るのか。代替品のウナギ度を試した。

ウナギ味のナマズを開発した近大の有路昌彦教授

まずは「近大発のパチもん(ニセモノ)でんねん」と、「ウナギ味のナマズ」を自虐的にPRする近畿大学を訪ねた。開発した有路昌彦教授は、ブラックバスやライギョまであらゆる淡水魚をかば焼きにした。「まずくて食えずことごとく失敗した」という。

養殖の現実味も考えてナマズに落ち着いたが、餌によって味が全く変わることがわかった。試行錯誤を重ね、泥臭さがなく脂が乗ったウナギの肉質に近いナマズに6年かけてたどり着いた。有路教授は「江戸時代、ナマズは高級食材で淡水魚の王様だった。ウナギの代替品として広く食べられれば、本来の地位を取り戻すことになる」と話す。

近大発ナマズは2016年にイオンが販売を始めた。スーパーのウナギ売り場に行くと「近畿大学有路教授監修 なまずの蒲焼」(税込み861円)があった。自宅でレンジで温めてご飯に乗せて食べてみた。食感と味は高級な白身魚という感じか。悪くない。ただ目をつぶって食べてもうな重と間違うことはない。

イオンはベトナム産のパンガシウスというナマズのかば焼き(同324円)も販売している。パンガシウスはフィッシュバーガーのフライなどに使われる身近な食材だ。近大ナマズよりもふっくらとした味わいで、娘は「おいしい」と歓声を上げた。乱暴な言い方になるが、甘辛いウナギのタレでかば焼きにすると、タンパクな白身魚ならウナギっぽい味にはなると思う。

ウナギコーナーにはなぜか「炭火焼き風 豚かば焼」(同537円)も売っていた。豚肉がウナギの代替品? と思いつつ食べた。甘辛いタレで焼いた豚肉。うまいに決まっている。でもこれは豚丼だ。別に文句はないが……。

次に訪ねたのはカニかまのシェア1位の一正蒲鉾(新潟市)。昨年の土用の丑の日に合わせて発売したウナギ風味のかまぼこ「うなる美味しさ うな次郎」(同354円)を試す。かまぼこでご飯を食べる違和感がぬぐいきれない。ところが一口食べるとぷりっとした食感がない。

「かまぼこ感はないですね」と言うと、マーケティング課のリーダー、小林朋さんは「それは褒め言葉です。うなぎの独特の食感に近づけるのに7年かかりました」と言う。皮目もウナギに似せ、見た目のウナギ感は強い。ご飯との相性も良く、最後までおいしく食べられた。

最後はナスだ。ネットには「ナスのかば焼き」のレシピがたくさん載っている。皮をむいてレンジで温め、半分に割いて平たくしてフライパンで焼く。ウナギに似せる作業はちょっと楽しい。

ウナギのタレをかけるとそれなりに見える。ワクワクしながら食べる。食感も良いしご飯も進む。でもこれは甘辛いナスだ。目を閉じて食べる。ナスだ。夏のナスはうまい。うまいがウナギではない。

ウナギもどきを試すうちに、どうしても本物が食べたくなった。サラリーマンでにぎわう東京・大手町の専門店「ての字」でうな重特上(3100円)を注文した。

スーパーのチルド製品と専門店のうな重を比較することのナンセンスは承知で言うが、泣けるほどおいしい。代替品を開発している方々には申し訳ないのだが、ニセモノを食べ続けたご褒美のような気がした。それぐらい本物は抜群にうまかった。

店長の只見浩太郎さんは「ナマズやかまぼこには負けませんが、ウナギが規制されることへの危機感は感じています」と話す。「昔は本物のウナギを焼いて食べていたんだよ」。そんな会話をする日がいつか来るのだろうか。

◇  ◇  ◇

謎多い生態 完全養殖難しく

魚屋でウナギが生で売られていないのはなぜか。たんぱく質の毒を持つため刺し身で食べられないのだ。焼けば問題ないが、脂が乗る冬が旬であることも知られていない。

生態は謎が多く、完全養殖は費用のハードルが高い。近大の有路昌彦教授によると「ものすごい幸運が重なっても10年以内の実現は難しい」。

絶滅危惧種になったニホンウナギは、取引が規制される可能性が高い。有路教授は「ヤンバルクイナを食べるようなものだ」とみる。「人類は、養殖魚と鶏肉を増やして動物タンパクを確保できるかという大問題に直面している」(有路教授)。ウナギの問題は環境問題であり人口問題でもある。何だか深刻な話になってしまった。

(大久保潤)

[NIKKEIプラス1 2017年7月29日付]

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