2021年11月15日月曜日

リニアの強敵?「ハイパーループ」実現への着地点 音速長距離走行は無理筋、都市内移動が適切か 2021年11月15日

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ハイパーループのCGイメージ。駅に停車する車両はチューブで覆われるため実際には見えない(画像:アラップ)
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地球温暖化の原因となっている二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量をどれだけ減らせるか。欧州ではCO2削減の観点から航空機や自動車から鉄道へのシフトを進める動きが盛んだが、新たなテクノロジーに活路を見いだそうとする動きもある。その一つが「ハイパーループ」だ。

ハイパーループとは、チューブ内をポッドやカプセルなどと呼ばれる車両が空中浮遊して高速移動する新しい輸送システム。チューブ内を減圧して真空にすることで摩擦抵抗や空気抵抗が抑えられ、時速1000kmを超える移動が可能になるという。音速旅客機並みの速さで移動できるだけでなく、車両自体はCO2を排出しないため、環境にも優しいとされる。

長さ10m程度で数人乗りの小型ポッドから新幹線車両と同じ長さ25mで50人程度が乗車できる大型のポッドまで、さまざまなタイプのポッドが開発中。これらのポッドは列車のように何両も連結して走ったり、スキー場のゴンドラのように単独のポッドが運行したりと、需要に応じてさまざまな運用が想定されている。最需要区間はポッドが連なる長大編成で運行し、その後行き先によって短編成に分割するという構想もある。

速度はリニア中央新幹線の倍

目下、旅客機や高速鉄道に続く新たな高速輸送システムの最右翼とされているのはリニアモーターカーだ。磁力による反発力や吸引力を利用して車体を軌道から浮上させて走行する。中国では時速300kmで運行する上海の空港アクセス鉄道としてすでに実用化されており、日本でもJR東海が時速500kmで営業運転するリニア中央新幹線の建設を進めている。それに対して、ハイパーループの速度は時速1000km超で超電導リニアの最高速度を大きく上回る。

もっとも、ハイパーループも磁気浮上の技術を取り入れており、リニアモーターカーの進化形といえなくもない。既存の技術で実現可能なことから、「2030年ごろには飛行機や新幹線のように普及した輸送手段になることが期待される」(日経産業新聞2018年11月21日)などの報道も見られる。


真空チューブ内に高速車両を走らせるハイパーループのアイデアは以前からあったが、2013年にテスラやスペースXのイーロン・マスク氏がアメリカのロサンゼルス―サンフランシスコ間をハイパーループで結ぶという構想を発表し大きな話題になった。現在、世界各国で多くの企業がこの事業に参入し、研究・開発でしのぎを削る。

リチャード・ブランソン氏率いるヴァージングループはその筆頭だ。同社は航空、鉄道、海運、さらに宇宙といったあらゆる交通分野に進出しており、ハイパーループもその流れの延長線上にある。同事業を行うヴァージンハイパーループはラスベガス郊外に建設した全長500mの実験線で2020年11月に有人試験を行った。今年10月からはドバイ万博の会場に全長10mの実物大のポッドのレプリカを展示している。

ヴァージンのハイパーループ計画にはフランス国鉄、ドイツ鉄道などの鉄道会社のほか、GEなどのメーカー、KPMG、マッキンゼーなどのコンサルティング会社がパートナーとして名を連ねる。また、ドバイの港湾オペレーター、DPワールドが出資しており、資金面でも盤石の体制を整える。

日立も技術面で協力

ヴァージンと並んで名前が挙げられるのが、ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジー(HTT)。フランスのトゥールーズに実験設備を持つほか、2018年に中国内陸部で実証実験を行うと発表し、地元政府と合弁会社を設立した。

2020年12月には日立製作所がHTTのパートナーに名乗りを挙げ、HTTに出資すると同時に技術面での協力も行っている。「信号システムや車両制御の面で貢献したい」と日立の広報担当者は話す。もっとも、ハイパーループの将来性に大きな期待を寄せつつも、「ハイパーループの技術開発を通じて得られた知見を、既存の高速鉄道に活用したい」という。将来だけでなく、もっと身近なところでも投資の果実を得たいということだ。なお、シーメンスもHTTのパートナー企業の1社だ。

2016年の国際鉄道技術見本市(イノトランス)に出展したトランスポッドのチューブ(記者撮影)

ハイパーループの技術開発に取り組む事業者はほかにもある。オランダのスタートアップ企業、ハードは今年10月、EUから1500万ユーロの資金援助を得ることに成功して話題となった。また、カナダのトランスポッドは2020年8月にアルバータ州政府と同州におけるハイパーループ開発に関する基本合意を締結した。韓国鉄道技術研究院は2020年11月にハイパーループを17分の1サイズに縮小して造った実験装置で時速1000km超の走行に成功している。


では、ハイパーループの超音速走行の開発がクリアできたとして、実際に営業運転するためにはどのような課題があるのだろうか。コストはもちろんのこと、チューブや駅といったインフラの開発などに関する情報はあまりにも少ない。

そこで、ハイパーループの開発企業やハイパーループに関心のある事業者や公的機関に技術的なアドバイスを行っているエンジニアリング会社のアラップに話を聞いた。

同社は建築物の構造設計でパイオニア的な存在として知られ、シドニーのオペラハウス、スペインの「サグラダファミリア」などの建設に際し、構造設計を行っている。鉄道分野では、ユーロスターの発着駅であり、ロンドンの陸の玄関口となったセントパンクラス駅の建築設計、インテリアデザイン、輸送計画など多岐にわたる業務を担っている。

「まずは近距離が現実的」

ハイパーループ関連ではオランダ政府からハイパーループのテストトラックを建設するための実現可能性調査を受託するなどの実績がある。ヴァージンハイパーループのパートナー企業のリストにもアラップの名前が見られる。

ヴァージンハイパーループの試験場=2018年(写真:Jorge Villalba/iStock)

アラップによれば、ハイパーループのコンセプトの一つは「航空機の速度とメトロの利便性」の両立にあるという。音速並みの速度にいかんせん注目が集まりがちだが、当事者の間では速度と同様に利便性の向上も重視されているようだ。また、「緊急時の電力、ポッド内の熱管理といった側面に技術的課題が残っている」としており、速度の追求だけでなく安全面の技術向上も欠かせない。

本来なら空路で移動すべき長距離区間を短時間で移動できるのがハイパーループの強みだが、そのような長距離区間にチューブを敷設すると多額の建設費用がかかる。そのため、「将来的には大陸を横断するような長距離移動ができるとしても、まずは近距離から始めるのが現実的」という。


現時点では有力視されるのは都市内移動や空港アクセスなどでの活用だ。その場合、移動距離がさほど長くないため、音速並みの速度は必要とされない。そのため速度を抑える一方で、気軽に乗れるよう利便性を高めるというわけだ。アラップは、ロンドンにある3つの主要空港を結ぶハイパーループシステムの可能性を検討、3つの空港間を高速移動することで、あたかも1つの空港であるかのように活用させることができるとしている。

開発状況についてはどのような課題があるのだろうか。アラップによれば、多くの事業者がハイパーループのチューブとポッドに注目して開発しているが「現時点で各々のシステムに互換性や相互運用性はまったくない」という。ポッドの浮上・推進方式、チューブ内の真空状態を保つ方法などがバラバラなのだ。「運用コンセプトとして明確なものにはなっておらず、これが駅や駅へのアクセス設備へのスケール感、サイズ、設備や列車の運用モデル、システム全体のコストなどに影響し、現時点でのコンセプトの不統一につながっている」。

「夢の技術」ではあるが…

現在、規格の統一に向け、欧州標準化委員会(CEN)と欧州電気標準化委員会(CENELEC)でハイパーループの方法論やフレームワークの定義・標準化について議論を行っているという。ただ、現状の規制の枠組みの中での議論だけに、なかなか進まないといった難点はあるようだ。

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チューブの敷設についても問題はないのかについて聞いてみたところ、「地上の支持構造物上に配置、浅い地下に埋設、大深度のトンネル構造内に敷設することになる。現時点で地上や地下にチューブを設置することについて技術的な課題はない」という説明があった。しかし、同じく技術的な課題がないはずのリニアも南アルプストンネルや大深度地下で工事が思うように進まないことを考えると、ハイパーループがこうした問題から無縁だとは言えないだろう。

多くのメディアや投資家がハイパーループを「夢の技術」としてもてはやすが、現実に当てはめると実現は一筋縄ではいかない。世界中に多くの候補路線があるが、最初に実用化されるのははたしてどの区間だろうか。


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