ボディの重さは命の重さ?「防御力に極振り」してみたクルマたち
11月12日までイギリスで開かれていた「国連気候変動枠組条約会議」こと「COP26」。各国首脳やトップが集まって、自動車のみならず環境問題への取組み目標そのものを決めていく&調整していく機会だ。とはいえ会議が紛糾すればするほど、会場の外もヒートアップしがちなのはご存知の通り。
そこで世界のVIPは当たり前のように「アーマード・ヴィークル」、つまり「防弾仕様車」が必要になる。バイデン大統領が米大統領専用リムジンである「ビースト」でグラスゴー入りしたことは、大々的に報道された。
皮肉にも、「防弾仕様車」はあらゆる部分が強化されている分、重さが嵩み、それでも動力性能を確保すべくエンジンの排気量はデカくパワフルで、CO2排出量は大きい。それは何もエラそうにしたい訳ではなく、重要人物を間違いなく安全に移動させるための、必要にして欠かざる要件を満たした結果、そうなっている……らしいのだ。
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これら「防弾仕様車」は、エラい人もボディガードも、場合によっては会談相手もスムースに乗せられる定員容量とスペースを確保するため、ストレッチボディであることが多い。しかもトップ・シークレットな重要事が車内で話し合われる可能性もあり、ときにはボディガードやドライバーに対して遮音プライバシーが設けられねばならない。
動的性能面では、道中にクルマの腹下で爆発物が炸裂しても乗員を守り切るため、アンダーフロアごと分厚く補強されたボディに、狙撃弾を防ぐための防弾ガラス、さらには事が起きた際に危険ゾーンからいち早く確実に避難できるよう、信頼性の高い動力源と卓越したパフォーマンス、パンクにも耐えうるランフラットタイヤが要る。
平時から「アーマード・ヴィークル」をカタログラインアップしている自動車メーカーは数社ある。とはいえ装備仕様オプションは数十種類を軽く超え、ツルシで買われていくものはほとんど無いとか。自分に何が必要か、最新の防弾仕様車を眺めながら、安全と環境に想いを馳せてみてはいかがだろうか。
メルセデス・ベンツS680ガード4マチック
9月のミュンヘンIAAモーターショーで発表された最新の防弾仕様メルセデス。担当者によれば「メルセデスのなかでも、もっともカスタマー・オリエンテッドなプロダクトのひとつ」だとか。
「VPAM認証」という武器・弾薬・安全技術の試験機関で、防弾や耐爆発物仕様車として「VR10」という最高の乗員保護性能を得ている。ダメージ評価試験にはベルリン工科大学やドレスデン大学応用科学科と協力して「バイオフィデリック・ダミー」という、骨格密度や構造をエポキシ・レジン・アルミニウム・パウダー、腱や筋はポリプロピレン、皮膚や内蔵はシリコンやアクリルで、人間の身体構造を忠実に再現したダミーが用いられた。
それをドイツ国内で唯一、武器攻撃に対する安全性評価ができる第三者機関で試験にかけ、乗員が一切傷を負わないという結果を得たことで、「BKA(ドイツ連邦刑事庁)」の要件を満たしている。
強化によって重くなったドアやウインドウはアクチュエーター開閉。エンジンは6LのV12ツインターボで612hp/830N・m、アルミ製クランクケースにワンピース構造チェーンドライブ、高品質成型された鋳造クランクシャフトにピストン、マルチスパークのイグニッションコイルを備える。
ちなみにV12に4マチックAWDシステムが組み合わされるのは初で、前後トルク配分は31:69。車重(非公表)は一説には5t以上といわれ、それに耐える強化ドライブシャフトを採用しつつ最高速は190km/hに限られる。車両価格は税抜45万7100ユーロ(約6000万円)から。
ボルボXC90アーマード&XC60アーマード
安全性コンシャスな自動車メーカーとして知られるスウェーデンのボルボも、最新SUVの2車種で防弾仕様を展開している。
フラッグシップの「XC90」では「VPAM認証」で「VR8」相当の防弾・耐爆発物レベルを実現。これはドイツ・ブレーメンの防弾仕様コーチビルダーであるトラスコ社との緊密な協力関係によるOEMモデルだ。
詳細スペックは公開されていないものの、ヘビーデューティ化されたボディによるハイレベルな守られ感を実現しつつ、360度防弾ガラスのウインドウを既存の窓枠に馴染ませて装着。ノーマルに近い外観とすることで、余計な注意を引かない控えめさも特徴だ。シャーシ&サスペンションも強化されており、重量は4.5tほどといわれる。価格は英国で45万ポンド(約6900万円)と報じられている。
これよりも防護性能の軽いライト・アーマード仕様が、XC90だけでなく「XC60」でもラインアップされており、アメリカの「NIJ-IIIA」基準かつEUの「VPAM」防弾仕様2009年規格に適合している。こちらは要人の移動用というより、セキュリティ・サービスや警察機動隊などの作戦仕様という側面が強い。
BMW X5プロテクションVR6
BMWも2年前より「X5」の防弾仕様をラインアップしている。「VPAM」の防弾2009年規格と耐爆発2010年規格に適合し、公式認証された「VR6」クラスがそのまま車名となった。
最新世代の防弾仕様車の特徴として、BMW X5もまたノーマル市販仕様のボディと並行して開発が進められ、漏れのない強化メニューが施されている。拳銃の弾丸は言うまでもなく、世界中でテロやギャング組織に広く使用される7.62mmライフル弾を防御できる防弾ガラス化やボディワーク加工が行われ、キャビンは横方向から4mの至近距離でTNT爆弾15kgの炸裂にも耐える。加えて、ドアやゲートといった開口部の密閉性を確保することで、二次攻撃に対しても高い防御性を確保しているという。
またDM51手榴弾の爆発に耐えるアンダーフロア防御プレート、HG85手榴弾による攻撃に耐えるコンポジット素材によるアンダーボディ補強も、オプションで選べるという。ルーフの強化メニューも、対ドローン攻撃のためにスチール&ファイバー補強が含まれている。
パワートレインは4.4LのV8ツインターボで530ps/730N・mを発揮する。「アクティブ・ロール・スタビリゼーション」により、BMWにふさわしいハンドリング性能も確保。車重と価格は非公表ながら、0-100km/h加速5.9秒に最高速210km/hというスペックは公表されており、防弾仕様車としてかなりの俊足であることは間違いない。
ちなみに「VPAM」の耐爆発物のガイドラインは、安全上の理由のために一部しか一般公開はされておらず、すべてを入手するには身元照会が要るのだとか。かくして造り上げられた防弾仕様車だからこそ、信頼に足るということだ。
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