確かにニッポンの高速道路料金は国際的に比較すると高いようですね。それでは「世界一高い日本の高速道路料金は世界的に見て異常」なのでしょうか?私はそうは思いません。以下、私が「日本の世界一高い高速道路料金は異常ではない」と判断する理由と「なぜ日本の高速道路料金は高いのか」を順を追って説明していきます。
ニッポンの高速道路料金のうちの多くは(当たり前ですが)全国の高速道路網の維持・拡充に充当されています。魔法使いでもいない限り道路の維持・拡充には原資、すなわちカネが必要です。アメリカの場合は、1956年以降、interstate(州間高速道路網)の建設財源はガソリン税です。最近は大都市周辺部の混雑する高速道路区間ではETCシステムを利用した混雑課金が一般的で、交通量がピークの朝夕の通勤時間帯に高い通行料をチャージする可変料金制の道路(区間)や、特定の車線を走行する1人乗りの車に高い料金をチャージするhot laneなどがあります。
ヨーロッパ諸国に目を向けると、EU諸国の高速道路財源は基本的にガソリンや軽油の燃料税です。ドイツなんかはAutobahnの無料にこだわってきましたが、現在では12トン以上のトラックからはGPSを利用して(距離)従量制の料金を徴収しています。フランスは元々ドイツなどと比較してAutorouteの整備が遅れていたため日本同様、高速道路料金により高速道路網を建設していったため、Autorouteは一部の例外区間を除いて日本と同じ有料制です。イギリスはアメリカやドイツと同じfreewayの国ですが、Greater Londonではロードプライシング制が導入されています。
というわけで魔法使いのいる国はなく、世界中の高速道路網の整備財源は高速道路料金と燃料(ガソリン・軽油)税のいずれか、又は両方です。どちらも原資を負担しているのは利用者で、高速道路料金だけを比較して「ニッポン、タッケェ〜」と決めつけるのは早計で、ガソリンや軽油にかかる税金も考慮して、トータルで考える必要があるでしょう。そして、私も含めて「井の中の蛙」の日本人は「ガソリン高いなぁ」と思っていますが、実はヨーロッパ諸国や韓国と比較すると日本のガソリン税とガソリン価格は安いのです(アメリカは例外で日本より安いですが・・・)。
(環境省「日本と諸外国のガソリン価格・税負担額の比較」
より)このグラフだとイギリスの税込ガソリン価格は日本より69円/ℓ高く、ドイツは63円/ℓ、フランスは57円/ℓ、韓国は26円/ℓ高いのです。高速道路上の燃費が20km/ℓだとすると高速道路を1km走行したときのガソリン消費量は0.05ℓ、ガソリン0.05ℓの日英価格差は3.45円、日独価格差は3.15円、日仏価格差は2.85円、日韓価格差は1.3円です。リンク先の記事によると日本の高速道路料金は約24.6円/kmでフランスのAutorouteは0.1ユーロ≒14円/km(€1=¥140で換算)だそうですが、ガソリン価格差を考慮するとAutorouteは16.85円/kmで、日本の68.5%まで格差が縮小します。
ここまでくると「ニッポンの高速道路料金はバカ高い」というより「まあ、このくらいの内外価格差はあるよな」くらいに感じられると思います。また、高速道路料金は走行者だけが払うのでまさに「受益者負担」ですが、燃料税はその辺の道を走るためのガソリン・軽油にもかかっているので、一般道路しか走らない人も高速道路建設・維持のためのカネを負担していることになり、「受益者負担」ではありません。そして高速道路料金+燃料税の合計は走行距離にも依りますから、日本と諸外国のどちらが安くどちらが高いと一概に言うことはできないはずです・・・
自動車にかかる税金は複雑で、日本だけでも毎年の自動車税に新車登録時と車検時に課税される自動車重量税があり、走行距離と比例的に課税されるガソリン税(揮発油税)・軽油税(軽油引取税、石油税)もあり、大変複雑で国際比較は困難なのです。しかしこれも環境省のお仕事の「日本と諸外国のガソリン価格・税負担額の比較」(脚注1に同じ)を見ると、燃料への課税額と車自体への課税額の合計は日本よりヨーロッパ諸国のほうが圧倒的に高いのです。それなのに高速道路料金だけ取り上げて「ニッポンは異常」だという主張はまったく的外れだとしか言いようがありません。
国際比較は難しく、面倒くさいものなのです。車の保有や利用にかかわる多くの税金をすべて無視して単に高速道路料金だけを取り上げて「ニッポンの高速道路料金は高すぎ、異常」と言うのは朝三暮四のおさるさんたちも同然です。道路網の維持にカネがかかる以上、高速道路料金を安くすればその分燃料税などの税金が上がるだけです(笑)。それにしてもこの「燃料課税と車体課税の国際比較(年間税負担額)」を見てもアメリカのクルマ保有コストは圧倒的にお安い(笑)。アメリカ社会はクルマ社会だなぁ〜と思う反面「道路の維持費はどうしてる?」と思うのであります・・・
あと、「日本の高速道路料金」というとき、大抵は小型・普通乗用車の例で話をしますが、日本にはガラパゴス規格の「軽自動車」があり、軽の高速道路料金は基本小型・普通乗用車の八掛け(×0.8)です。ガソリン税は同じですが、自動車税も自動車重量税も、税金みたいな存在の自賠責保険料も軽は安いのです。軽はかなり優遇されているので、軽自動車ユーザーにとっては高速道路料金も各種税負担額もそんなに重くないのではないでしょうか?
脚注
日本の鉄道が安いことと高速道路が高いことの両面がありますが、ここでは主に高速道路料金がなぜこんな高いのかを説明しようと思います。
日本の高速道路料金の高さは、海外の多くの場合よりもかなり建設/維持のコストが高いこと、そのコストを利用者が負担する方針を取っているとこが原因です。
日本の高速道路の建設・維持コストが高い理由は3つあります。
①道を通しやすい平野部、特に高速道路を作って需要があるだけの人口を抱えるエリアはあまり途切れることなく連続的に市街地化されている
→そのため市街地を通して土地買収に大金をかけるか、山の中を通して土木に大金をかけるかの2択になる(ドイツやフランスなどの比較的平野部の多い欧州各国やアメリカ等は、主要都市の間は大抵連続した市街地ではなく農村か原野です)
②平野が関東平野と北海道を除き海岸沿いのわずかな部分にしかなく、列島の対岸を結ぼうとするとどうやっても山越えになる
→①と同様、山越えルートは日本の宿命です。なんなら平野部一切無しで山がそのまま海に突っ込んでいるような所もかなりあります(三陸のリアス式海岸、北陸の親不知、東海道の由比宿/大崩海岸など)。
③世界有数の地震大国・地殻変動大国
→高架橋もトンネルも盛土も堀割りも、あらゆる部分で大地震を想定したつくりにせざるを得ない。しかも地殻変動は今も活発に続いているので、そもそもトンネルを掘る/維持するのが困難な場所が多い。
③については良い写真がありました。ご覧ください。
もうぜんぜん太さが違いますね。地震が来ないところなら、柱など路面を支えられたらそれで良いのです。
日本の最も重要な高速道路である東名高速が、東海地震でダメージを負い不通になった際のバックアップルートを想定して建設された新東名高速はさらに凄いです。
柱というよりはほぼ壁ですね。笑 東名高速がしんでもこっちはぜってーー壊れないようにする!!という強い意志を感じます。
トンネルも、現役で火山活動をしてたりプレートの移動で地殻変動が続いていたり過去の地殻変動で地層が破壊されていたり複雑な構成だったり地下水が豊富だったりする場所を通すのはかなり困難で、さらに完成後も維持コストが莫大にかかります。
長野道の一本松トンネルなどは、急いで工事を進めた結果「盤ぶくれ」という路面が盛り上がってくる現象に悩まされて、何度も対策工事を行なっています。
(最初からインバート入れておけばよかったのにね。松本方面に向かう追越車線にはジャンピングスポットかと思うくらいのデカい路面隆起がありましたが、2022年の通行止めを伴う集中工事でようやく解消しました)
というかそもそも海外の郊外は土地があるので高架やトンネルにする必要すらありません。
日本も中国道や名阪国道Ωカーブ区間のように、山の中をトンネルほぼ無しで無理矢理通すことも出来なくもないでしょうが、走ったことある方はわかると思いますがアレらはもはや高速道路というよりは高速コーナーのワインディングロードですので…(あと中国道は中国山地が比較的なだらかなので通せたというのもあります、南アルプス等では無理ですね)
どっちが安く作れ、安く維持できるでしょうか?そういうことです。
余談ですがこの高コストの宿命は、物流コストの高さにも直結しており、産業の競争力の足枷になっているという側面もあります。国益として完全無料化してくれたら良いんですけど、他の方の回答に詳しくあるように日本の高速道路が「国外に借金して造る」ところから始まり、その返済が必須だったことから、「国費オンリーで造る」という発想がそもそも無く、そのまま民営化されてしまいましたからね…。
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