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図1 オングストローム時代へ
図1 オングストローム時代へ
半導体技術の国際会議「IEDM 2023」ではオングストローム時代の微細化技術が見えてきた(写真:日経クロステック)
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 鈍化しつつある半導体の微細化だが、2nm世代から0.3nm世代までの道筋が見えてきた。製造プロセスの世代を表現する単位も「nm(ナノメートル)」から、より短い「Å(オングストローム)」(Å=0.1nm)に変わっていく。2030年ごろにオングストローム時代が本格化する見込みだ。

 Rapidus(ラピダス、東京・千代田)を含め、台湾TSMCや韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、米Intel(インテル)などの間で最先端ロジック半導体の量産に向けた熾烈(しれつ)な開発競争が繰り広げられている。2nmといった数字は、半導体の「テクノロジー・ノード」と呼ばれる指標で、製造プロセスの世代を示す。テクノロジー・ノードを小さく、すなわち微細化するほど、同一のチップ面積に多くの素子を搭載できるので、演算処理性能が高まる。

 これまで単位はナノメートルだったが、今後はオングストロームに移行する。半導体技術における世界最大級の国際会議「IEDM(International Electron Devices Meeting) 2023」でその方向性が明確になってきた。(図1

 要素技術の道筋が3Å(0.3nm)程度まで見えてきた。IEDM 2023で東京エレクトロンが示したロードマップ(月産2万枚の量産開始時期)では、2024~2025年に2nm、2027~2028年に14Å(1.4nm)、2029年に10Å(1nm)、2031年に7Å(0.7nm)、2033年に5Å(0.5nm)、2035年に3Å(0.3nm)という計画になっていた(図2)。

図2 微細化は続く
図2 微細化は続く
ロジック半導体の製造プロセスのロードマップ(出所:東京エレクトロンとIEDM)
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 東京エレクトロンが今回示したロードマップでは、2nmを最後にナノという単位をやめて、以降はオングストロームと表現した。同社は大手半導体装置メーカーだけに、半導体業界全体でいずれオングストロームが主流の単位になるだろう。

 ナノからオングストロームに単位を切り替える背景には、微細化の技術的なハードルが年々高まり続けていることがある。2nm、1.5nm、1nmと表現するよりも、20Å、15Å、10Åと表現した方が、微細化が進んでいるとアピールしやすくなるという半導体業界の思惑がある。

AIの進化が半導体の性能向上を促す

 ただし、半導体業界に悲壮感はない。AI(人工知能)の普及がけん引する形で、半導体への性能要求が急速に高まっているからである。IEDM 2023でインテルは、「ムーアの法則」にのっとって、およそ2年で2倍のペースで集積度が高まっているのに対して、AIが半導体に要求する性能はおよそ4カ月で2倍のペースで増えていることを明らかにした(図3)。

図3 AIとムーアの法則の対比
図3 AIとムーアの法則の対比
AIが要求する性能向上のペースはムーアの法則を上回る(出所:インテルとIEDM)
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 この状況は、半導体ユーザー側から見れば、多少のコストアップは許容してでも、少しでも微細な製造プロセスで作製された半導体製品を使いたいとの要望が強まっていることを意味する。ムーアの法則とAIからの性能要求の乖離(かいり)は、生成AIなどの普及により、今後さらに拡大するだろう。半導体メーカーは、微細化とともに、チップレット化や2.5D/3Dの実装技術なども組み合わせた総力戦で、半導体ユーザーからの要望に応えていく。半導体業界は活気づく一方である。